軽自動車の多くは似たようなディメンションで、興味のないひとにはどれも同じようなクルマに映りがちだ。
特に、アシ車として乗るのであれば、デザインや走りよりも安全装備やカーナビにフルセグのチューナーが入っているかどうか...の方が魅力的に映る人も少なくないと思う。
しかしながら、それぞれのクルマには開発時に込められた個性がある。
筆者も最初は興味が薄かった軽自動車。
しかし、同年代の軽自動車を何台か乗ってみると「どれも似ているようで全然違う...ではあの車種は?この車種は?」と、沼に落ちかねない。
24年落ちのメイン車と併用するつもりで購入した00年代の軽自動車。
しかし、いざ乗ってみると、ラクに乗れて、維持費が安く、便利で、快適。
そんな軽自動車に筆者は絶賛ハマり中だ。ひょっとしたらこの記事が出るころには、また何か別の軽自動車をフラフラと手に入れている可能性すらあるのだから...。
前回の記事では、自身が所有した、Fun to Driveな00年代軽自動車を紹介した。
そこで今回の記事では、これまで長期で乗った車両のなかから...「これは欲しい...!」と思ったものを紹介していこうと思う。
前回は走りの楽しさに特化したので、今回はあなたの生活を豊かな気持ちにしてくれるクルマ。
いうなれば“Life you Up編”だ。
■スペース効率の新世紀 ダイハツ・タント(2003)
初代タント、ベースグレードのL。写真は2005年モデル
筆者が初めて初代タントに乗ったのは2005年のダイハツディーラーだった。
知人が三菱・ディンゴからの買い替えを検討していた際だった。
ディンゴもコンパクトカーとしては広々した空間のクルマだったが、タントに乗った瞬間の視界の広さや頭上空間の高さには「軽自動車なのにデカい!」という鮮烈な記憶を筆者の心に深く刻みつけた。
初代タントに再び乗り込んだのは2020年の中古車店。
コロナ禍もあり、家のみでの生活にウンザリしはじめたころ、自宅の庭で車中泊をしようと考え軽自動車を探していた。
あの頃、新車ディーラーでその空間に驚かされた初代タントはもうすでに市場では底値となっていたが、各社からリリースされたスーパーハイト軽が席巻する現代においても魅力は衰えずあった。
▲水平基調でボクシーなタント。写真の個体はクラシカルな仕様にフロント部をカスタムされている
174cmの筆者がシートアレンジ次第で横になれることもそうだが、インテリアデザインの魅力度がかなり高い。
ドアトリムの配されたアームレストや前後シートはソファ的な意匠で統一されていたり、座面は極力フラットに作られており、生活車としての機能を高めながらも座り心地は筆者的に大変好みだ。
余談ではあるが、筆者は初代タントで400km以上の道を連日、車中泊をしながら移動した経験がある。
アームレストに左腕を預けながら走る幹線道路は非常に楽。
もちろん過度にだらしない体勢は取るべきではないことを意識しているが、近年の軽自動車と比べても大変好みなシートなのである。
▲フルフラット状態の内装。マットなどを敷けば快適な仮眠も可能だ
インパネもハイトワゴンにしては低い位置にレイアウトされている。
水平かつシンメトリーなデザインでまとめられ、それに併せてウインドウも大きくとられている。
積載性も非常に高く、ダイブダウンしてシートを格納した荷室は、なぜバンモデルを設定しなかったのか気になるレベルだ。
NAのKE-VEエンジン搭載車は車体10万円代から充分に選択肢があるし、ワインディングなどをよく走るのであれば、予算をあげてターボ搭載のグレードを選べば解決できる問題であろう。
■スタンダードの素敵な回答、ダイハツ・ムーヴ(2006)
▲ワンモーションらしさを高めたフロントのフォルム。運転席からの見切りも良好だ
さて、タントはスペース効率が素敵なクルマであったが、よりコンパクトに、ベーシックカーらしさを追い求めるのであれば、2006年に登場した歴代4代目となるダイハツ・ムーヴもおすすめしたい。
ライバルだったスズキ・ワゴンRも歴代ごとに進化していくのだが、4代目ムーヴもその後の軽自動車のパッケージングに大きな影響をもたらしたクルマの一台と言っても過言ではないはずだ。
それまでもムーヴは”ビッグキャビン・コンパクトノーズ”をエクステリアのテーマに掲げていたのだが、3代目までのワゴンスタイルから流麗なワンモーションフォルムへと進化を遂げる。
三菱・アイのホイールベースには60mm届かないものの、ムーヴのホイールベースは2490mmと歴代最長のものだ。
フロント席もリア席も足元スペースは広々としており、新開発のKF-VEエンジンはNA車でありながら4名乗車でもなかなかに快適なドライブが可能だ。
目の肥えた現代人的にはいささか物足りなさを感じるところもあるかもしれないが、内装においても質実剛健なあしらいは飽きがこない。
特にセンターメーターへかかるアーチインストルメントパネルは構成がダイナミックで、シトロエンなどのラテン車的なエッセンスすら感じる(PSAと共同開発したAプラットフォームを使うダイハツだからこそ...と思うのは調子が良すぎるだろうか)。
▲センターメーター上部へ掛かるアーチがダイナミックな存在感を車両の内外に感じることができる
標準車でも残照式のメーターパネルは、ささやかながら乗降時のもてなしを感じる。
こういったささやかな配慮は、クルマを長く使ううえで意外と記憶に残ったりするものだ。
カスタムシリーズともなれば、上級グレードならステアリングにエアコンの設定ボタンがついたり、オプションでレーダークルーズが装備されたりとクラウン...いや、レクサスにすら迫る部分だ。
■ハイクオリティ軽の大穴 スズキ・セルボ(2006)
▲写真は2008年モデルのG リミテッド。純正エアロパーツなどが引き締まった印象を与える
と、ここまで前回の記事と併せて何台かの軽自動車を紹介してきたが、00年代軽自動車の多くのモデルが小型乗用車に負けず劣らずのモデルが増えていく。
セルボもそんな一台だが、内外装の装いが独特で興味を惹かれた一台だ。
エクステリアは4代目ムーヴのようにワンモーションのフォルムだが、ボンネットフードからルーフまで繋がるようなフロントのプロポーション、そしてルーフからリアウインドウへと連なる構成は後年発売される3代目ランチア・イプシロンのような流麗さがある。
▲リアウインドウ上端からハッチのガラスへと伸びるラインがユニークなリズムを生む
筆者はイプシロンにもしばらくの間乗っていた期間があるのだが、パーソナルなコンパクトカーとしての振る舞いや少し重めのステアリングなど...記憶を辿ると共通項を感じたりもしなくもない。
インパネの造詣はドア側へと連続するもので乗員の包まれ感は高い。
樹脂類のシボはルイ・ヴィトンのエピ柄を思わせるセブラ調パターンとなっており、暗めの内装色と相まってパーソナルカーとしての雰囲気はさらに高まる。
▲軽自動車のなかでもクールな印象の内装色を採用。メッキモールなども相まって夕方や夜のドライブでは雰囲気の良さを感じることができた
スイフトと共通の部品やサポート部分があるシートなど、ちょっと高級感がある内装が所有する日々の生活のなかで気持ちをアップしてくれる。
アルトやミラなどのボンネットバンタイプも素晴らしいが、ちょっとだけ色香を感じてニヤニヤできる生活を送ってみるのはどうだろう。
もちろん恰好だけではなく、スマートキーやスズキに採用例の多いシートヒーター装着車も冬の時期には嬉しい機能だ。
ゲート式の4ATを左手で味わいながらドライブに出かけてみるのはいかがだろうか。
今回も3台の軽自動車を紹介してきたが、いずれも車両10万円を切る個体を見つけることができる。
ただ古いだけの小さなクルマ...ではなく、魅力的な箇所を引き出せば味わい深い円熟のAセグカーだ。
人によっては、ひょっとしたらご実家のクルマが00年代の軽自動車だったりするかもしれない。
見慣れたクルマたちも当時のカタログや文献を眺め、コンセプトを味わいながら運転してみると新たな一面を発見できるかも?しれない。
[ライター・撮影/TUNA]