去る4月8日の早朝、相模原市にあるアリオ橋本の駐車場の一角がにわかにざわめきだした。
エアを送り込まれて作り出された出走ゲート、出発の準備に余念のないクラシックカーとそのオーナーたち。
2日間に渡って行われるルート・ディ・相模原の始まりである。
ルート・ディ・相模原はトロフェオ・タツィオ・ヌボラーリの相模原ステージとして今回2回目の開催を迎えるクラシックカーラリーだ。
会場である相模原の名所、相模湖や津久井湖といった桜の咲く観光地や富士山麓周辺のワインディングロードを楽しみながらドライブを行う。
ルートはコマ地図と呼ばれる図の指示に従い各所ッチェックポイントを通過していく。
初日は橋本のショッピングモール「アリオ橋本」を出発して、富士急ハイランド内にあるハイランドリゾート&スパを目指し、2日目はそこからゴールである相模湖公園を目指す。
今回は初日の様子をお届けする。
■出走唯一の国産車1/2222台の戦い
初日の出走は15台。メルセデスやポルシェフェラーリといったクルマが準備を始めるなか、今回唯一国産車でエントリーしていたクルマがあった。
それがトヨタコロナ1600GTだ。
後期型のボディに足回りやブレーキを強化、他の車体との特徴的な違いはフロントフェンダーにエアアウトレットが付き、Cピラーの根元にはトヨタ2000GTのフロントフェンダーと同様の1600GTのエンブレムが付いている。
コロナ1600GTの生産台数は2222台と、トヨタ2000GTの337台と比べれば決して少なくないように思えるが、3代目コロナの総生産台数は57万8534台ということを考えれば、いかにその数がわずかかわかると思う。
実は2日目にはさらにエントリー数が増えてトータルで30台以上になるということで、国産車もさらに数台参加予定であったが、初日は唯一の参加車両であった。
オーナーはこのほかにももう1台コロナを所有している。
そのことからもわかるようにオーナーのコロナに対する思い入れは強いようだ。
それを証明するかのように、ボンネットを開けると、その裏側にはレーシングドライバー高橋晴邦氏のサインがしっかりと書かれていた。
高橋氏といえば、日本グランプリでコロナを駆り総合3位クラス1位になったレジェンドドライバーである。
参加車両は1.6Lの9Rエンジンに5速MTを搭載、リアにあるエンブレムはそのことをしっかりと主張していた。
車体はリペイントされたものだが純正の塗装を再度吹きなおしたもので当時と同じカラーリングになっている。
■それは復興から始まる街おこし
ルート・ディ・相模原の始まりは災害復興支援ともいえる。
令和元年に起きた台風19号により相模原や道志周辺にも大変な被害をもたらした。
このときの土砂崩れで419号線が全面通行止めになり、しばらく通ることができなかったことを筆者も覚えている。
主催者の野呂氏も自身のキャンプ場が壊滅するなど、苦境に立たされていた。
それを復興するにあたり考えたことが、自身のキャンプ場だけを復旧させても何ら意味がない。
地域全体を盛り上げてこの地に観光客を呼び戻さなくてはならないと考え、一般社団法人を立ち上げたという。
そのときに野呂氏の過去にあったレース経験や伝手をを生かして、北海道で20年以上開催されているクラシックカーイベント「トロフェオ・タツィオ・ヌボラーリ」の相模原ステージとして同イベントを立ち上げた。
クラシックカーが走ることにより、相模原の観光資源を多くの方に知ってもらい、また沿道に多くの人が足を運んでもらえるようにと考えたのだ。
スタート会場には相模原を盛り上げるということからも、相模原観光親善大使の女性2名が華を添え、開催の挨拶を市長が行う盛り上げぶりだ。
■富士急ハイランドを目指して駆ける
スタート地点から各車コマ地図に従い、途中の中継地点を目指す。
1日目、2日目と両方で必ず中継地点になるのが協賛会社のひとつである(株)ASISTの駐車場だ。
ここでは両日にわたって昼食を取る休憩地点となっている。
全車両快音を響かせながら相模原の名所や峠道を走り抜けていく。
順位は問題ではない。
彼らが走ることで注目をしてもらい沿道の人に関心を持ってもらう。
多くの方々に走るクルマたちを見てもらい、その歴史的背景や時代、文化といったことに思いを巡らせてもらう。
そしてそれらを次世代へ引き継いでいく。
クラシックカーラリーの趣旨のひとつはそこにあるのではないかと思う。
■地域の良さを見つめなおすために
富士急ハイランドをゴールに初日のスケジュールが完了する。
翌日には再びワインディングや市街地を駆け抜け相模湖公園にゴールする。
ゴール地点では衣装メーカーによるクルマたちの周囲を彩る異色のコラボレーションやハンドクラフトはじめ、ケータリング等の出店も行われていた。
地域の企業とうまくタイアップを行い、参加者や観客、地域住民にも観光地として素晴らしさや楽しさをあらためて知ってもらう。
それこそがルート・ディ・相模原というイベントの責務であり醍醐味だといえる。
相模湖公園に整列する車両たちはそのことを静かに語っているように思えた。