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旧車王ヒストリアの運営母体であるカレント自動車株式会社では、旧車に関するさまざまなニュースリリースを配信している。
そのなかで1月25日に配信された「旧車バブル崩壊、世界最大級の中古車市場アメリカの中古車下落から予測できる日本の旧車市場」というプレスリリースが目に留まった。
いくつかのメディアでこのプレスリリースを元にした記事が配信されているようだ。
●旧車バブル崩壊、世界最大級の中古車市場アメリカの中古車下落から予測できる日本の旧車市場
https://www.currentmotor.co.jp/notice/news/5958/
旧車王のオウンドメディアである「旧車王ヒストリア」の編集長という立ち位置ではあるが、その前に、いちクルマ好きとして「ようやくか……(またはそうであって欲しい)」というのが本音だ。
もしかしたら、多くのクルマ好きやオーナーも同じような心境かもしれない。
……というのも、そもそも、大切に所有している古いクルマを売る気がない立場からすると、ここ数年〜10年のできごとは、まるで別世界で起こっていることにしか映らなかったからだ。
■多くの旧車オーナーにとって旧車バブルは「対岸の火事」?
すべての旧車およびネオクラシックカーオーナーに当てはまるわけではないと思うが、少なくとも1970年製の旧車を所有する自分にとって、今回のバブルは「対岸の火事」といってもいいかもしれない。
先述の記事にも
「コロナ禍で富裕層のお金の使い道に変化がありました。コロナ禍でさらに裕福になった富裕層も一定数いて、旅行などに行けなくなったことでお金の使い道が変わり、骨董品や美術品、時計、車の購入に充てる方が増えました。それらの需要が高まったことで価格が高騰したことに釣られ、車の中でも希少性のある旧車の価値も上がりました。(原文ママ)」
といった記述があった。
2020年の4月〜5月に掛けて1回目の緊急事態宣言が発令され、外出すら憚れるような時期があったことを記憶している人も多いと思う。
そのとき「これまでなら夜の街に落ちていたはずのお金が行き場を失い、その分、高級車や高級腕時計などの需要が集まり、フェラーリの中古車が店頭から消えた」という話しを、仕事としてフェラーリに携わっている方から伺った。
庶民からすれば何ともうらやましい話だが、高額のなものを経費で落としても許される層がいるということなのだろう。
その流れが旧車やネオクラシックカーにも波及したのだろうか……。
投機目的の対象にされると、本来の目的とは違う意図で購入する人たちが現れ、“かっさらって”いく。
その結果、相場がつり上げられ、オーナー予備軍の多くの人たちにとって手が届かない存在となってしまう。
そういえば、以前、あるイベント会場に貴重な国内外の名車がずらりと並べられ、オークション形式で売買される出品車両を見に行ったときのことだ。
(これは偏見かもしれないが)出品車を品定めする人たちの放つ雰囲気が、あきらかにクルマ好きのそれとは違うのだ。
漫画のように、目玉に「¥」マークが見えたような気がした。
目の前にあるのは、クルマ好きならいちどは乗ってみたい「憧れの名車」ではなく「いつでも換金可能な投機対象」なんだなと悟ってしまった。
仮にこの種の人が落札したら、本来のクルマの役目を果たすことなくどこかの倉庫に塩漬けにされ、ヘタをすると海外へと流されてしまうのだろうか……。
■旧車オーナーと予備軍にとってバブルはいい迷惑?
「バブル」。
……ということは「一過性のものであるという前提」で語られている。
つまり「いつかは弾ける(に違いない)」ということを踏まえておく必要があるのかもしれない。
長年、1台の旧車およびネオクラシックカーオーナーを所有してきたり、「近い将来、買おうと思って準備してきた」オーナー予備軍にとって、「バブル」はいい迷惑だ。
さらに、オーナー予備軍にとっては、頭を抱えたくなる状況が続いている。
もはや、買い時が分からないのだ(林先生でないけれど「今でしょ!」なのかもしれない)。
コンディションにこだわっていたら手が届かなくなる一方だし、焦って手を出すと、事故車まがいのものを掴まされてしまう可能性だってある。
もともと150万円台だったものが急に300万円台にハネあがったとしても、それは店頭価格や相場が変わっただけで、コンディションはいままでと変わらない。
むしろ、経年劣化で何らかのダメージを受けている可能性だってある。
冒頭のプレスリリースによると「高年式車の価格の下落が旧車にも波及してくるかもしれない」と書かれている。
これでは、ますます買い時がいつなのか分からなくなりそうだ。
■旧車オーナーにとって旧車バブルのメリットとデメリットは?
そんな旧車バブルだが、オーナーにとってのメリットとデメリットを3つずつ挙げてみた。
●メリット
・高く売れる(これまでの整備代の元が取れる千載一遇のチャンス?)
・資産になる(コンディションを意地できれば、という前提で)
・世の中から趣味を肯定された(ような)気がする
●デメリット
・盗難
・お金持ちに見られる
・部品代や関連グッズまで高騰する
こうしてメリットとデメリットを挙げてみると、「そもそも売る気がない旧車オーナーにとっては」どちらかというとデメリットの人が多いように思う。
その最たる例が盗難だろう。
どう考えても、旧車オーナーと予備軍にとってバブルはいい迷惑なだけ、かもしれない。
■「大切な愛車を手放してしまったら2度と戻ってこない」という事実
筆者の周囲に限った話で恐縮だが、旧車およびネオクラシックカーオーナーのなかで「そろそろ下りようかどうしようか……」の決断で揺れ動いていた人たちの多くが、旧車バブルのタイミングで実際に「下りて」しまった。
なかには一時の衝動で「魔が差して」下りてしまった人もいる。
いずれにしても、やっぱり寂しくなってカムバックする人がいるかと思いきや、「下りた人」は誰1人として戻ってきていない。
これまで張り詰めていた糸がぷつりと切れてしまい、さらに、これまでよりも一歩引いた視点で旧車およびネオクラシックカー相場の暴騰ぶりを見るにつけ、「そこまでして乗りたいとは思わなくなってしまった」のだという。
これは人によるので、一概にはいえないが「旧車およびネオクラシックカーを所有しているから成り立つ人間関係」があるのは事実だと思う。
下りた(あるいは他メーカーや他のモデルに乗り換えた)時点で疎遠になってしまうことだって少なからずある。
手放すことで一時的な大金が懐に転がり込むかもしれないが、同時に「お金で買えない何か」を失う可能性があることも事実だ。
もし、いま下りるか否か迷っている人がいるとしたら・・・「得られるものと失うもの」を天秤に掛けてから最終判断を下してもいいかもしれない。
大切な愛車を手放してしまったら2度と戻ってこない。
経験上、これは事実だと断言できる。
もしも戻ってきたら……それは奇跡だ。
[ライター・撮影/松村透]