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自動車メーカー主体のオーナー参加型イベントは近年多く開催されている。
日産自動車のカスタマイズカーを取り扱う「日産モータースポーツ&カスタマイズ」の前身であるオーテックジャパンはその先駆けともいえる。
AOG湘南里帰りミーティングは初開催から20周年という節目となる。
今回はイベントの模様と参加されたオーナーと愛車について紹介しよう。
■1.「AOG湘南里帰りミーティング」そのゆえんとは?
まずはイベントタイトルについて。
「AOG」とは“オーテック オーナーズ グループ”の頭文字になる。これはFacebook上でオーテックジャパンが管理しているオーナー向けのプライベートグループになる。
そのグループメンバーであるオーナーが主役の大規模な“オフ会”が、このミーティング開催のきっかけとなっている。
「湘南里帰り」については、日産モータースポーツ&カスタマイズの所在地が湘南であり、ここで開発・生産を行ったクルマたちにとって湘南は「故郷」となるのだ。
このイベントは事前エントリー制となり、事務局から招待状が届いたオーナーだけが参加可能となっている。
今回インタビューを行ったオーナーのなかにも毎年応募しているが、参加できる年・できない年が過去あったとのこと。
もし今回参加が叶わなかったオーナーも、来年受かるチャンスがあるかもしれないので再びエントリーをして欲しいと思う。
なお、このイベントは関係者のみが入場することができるいわば「秘密の花園」である。
残念ながらエントリー資格のある愛車を手にしていない筆者は、このイベントの存在は知りつつも謎に包まれた状態であった。今回、この「秘密の花園」に入れる機会を得て、非常に興奮していたことを正直に白状しておく (笑)。
■2.オープニングセレモニーに日産ファンくぎづけ!?
今回、特別ゲストとしてスーパーGT GT500にて23号車MOTUL AUTECH Zのドライバーを務める千代勝正選手、ロニー・クインタレッリ選手 2024 AUTECHレースアンバサダー 高岡みほさんが参加された。
その登場時には、神奈川県警で現役のR33スカイライン 4ドアGT-Rのパトカーが先導して、C28型セレナ オーテック スポーツ スペックを千代選手自らハンドルを握って登場。
登場BGMは日産自動車吹奏楽団の生演奏によるドラマ「西部警察」のテーマ曲と、随所にこだわりが感じられた。
■3.勢揃いした最新モデルと海外専売モデル 希少なニスモヘリテージ展示も
今回オーテックとニスモの最新モデル、海外向けパトロール (日本名サファリ)のカスタムカー スーパーサファリが展示された。
両ブランドの最新モデルが一堂に会することは、なかなかないため現役オーナーたちもくまなく観察していた。
また、ゲストたちも展示車輌に触れ、参加者と談笑しながら写真撮影に応じアットホームな雰囲気であった。
また、普段触れる機会がない海外専用車となったパトロールのカスタムカー「スーパーパトロール」も今回披露された。
日本名サファリで販売されていたモデルのため、記憶にある方も多いと思う。
今も海外では現代の要求に合わせてバージョンアップされて現役で販売中だ。
ニスモ ヘリテージとしてはS14シルビアをベースとした270R、Z33フェアレディZをベースとしたバージョン ニスモ タイプ380RSが展示された。
270Rは旧ニスモ社創立10周年記念として、ニスモとして初めてのストリート向けコンプリートカーになる。
バージョン ニスモ タイプ380RSは、旧ニスモ社と旧オーテックジャパン社の本格的コラボで生まれた初のニスモロードカーとなる。
この380RSは、レース用エンジンのデチューン版VQ35HR改が搭載されている。
■4.オーテックモデルのオーナーは生粋のマニアだらけ!?
ここからは参加車輌のなかから、筆者が独断と偏見で選んだクルマを紹介していきたい。紹介するクルマたちについて、オーナーにも話を伺った。
お話を伺ったすべてのオーナー方は、こだわりポイントや愛車にまつわる話、それぞれのグレードや筆者が知らなかったオーテックモデルのみに採用されている特別仕様についても教えていただけた。
※さまざまなイベントが目白押しのなか、時間を割いていただきインタビューに応じていただきました。ご協力いただきました皆様、この場を借りてお礼を申し上げます。誠にありがとうございました。
●テラノ アストロード(R50型)
今回唯一のテラノで参加したオーナーは96年に新車で購入されて現在14万kmを走破。
元々は初代テラノにお乗りで、別のクロカン車に乗り換え予定だったが予定変更で現在の愛車を購入されたとのことだ。
この年代のRVは、ディーゼルエンジンを購入する人が多かった。
しかし、ガソリン車を購入されたため、ディーゼル規制の影響を受けずに済んだ。
勘の良い読者なら気づかれたかもしれないが、サイドのデカールが装着されていない。
その件について伺ったところ、デカールが朽ちてしまうのが嫌で、早々に剥がしたとのことだった。
長い付き合いになることはその当時考えてなかったようだが、結果としてきれいなボディを維持できることに繋がっている。
購入時のエンジン選択、デカールの撤去など結果的に愛車と長く過ごせる結果に繋がっていることは運というよりも運命なのかもしれない。
また、今回カタログもお持ちだったため、カタログ写真と実車を見比べることができた(ありがとうございました!)。
●アベニールサリュー エアロエクスプレス ステージ2(W10型)
近年、街中で出会う機会が少なくなってしまったアベニールサリュー。
筆者自身、今年はイベント会場で見かける機会の方が多かったほどだ。
今回、話を伺ったこちらの車輌は、購入後まだそれほどの年月が経っていないとのことだ。
しかしオーナーのアベニールサリュー歴はとても長く、新車でGT(4WD ターボモデル)を購入。
土地柄、サビの影響を受け、買い換えるタイミングでも同じくアベニールサリューを選ばれており、今の愛車は3台目とのことだ。
見かける機会が減ったと先述したとおり、買い替えたくても選択肢どころか、同じモデル自体が流通していないことが増えてきた。
しかしこちらのオーナーのように、素敵な巡り合わせが起きることに驚くばかりだ。
●ステージア 260RS(WC34型)
GT-Rのステーションワゴンともいえるステージア260RS。
RB26型エンジンだけでなく、駆動系もGT-R譲りかつステージアに合わせた補強も行われた伝説的な1台ともいえる。
ニスモのデカールに目が行く260RSは新車時からのワンオーナーである。
この里帰りミーティングも初期から参加をされているとのことだ。
ついついデカールに注目してしまいがちだが、脚元を見て驚いたのはなんとR35 GT-Rのブレーキに変更されている点だ。
エンジンにも手が加えられており、チューニングやカスタムが好きなオーナーは、常にその時代に合わせたバージョンアップをさせて今まで連れ添ってきたとのこと。
最新技術を用いての進化に、今後も期待をしてしまう1台であった。
●ステージア アクシス350S(M35型)
オーテック社は「アクシスシリーズ」を展開していた時期がある。
ステージアにも当然のように設定はされていたが、ハイパフォーマンスモデルとして350Sというグレードも用意されていた。
この350SはV6 3.5Lの自然吸気エンジンにマニュアルトランスミッションを搭載している、M35ステージア唯一のマニュアルモデルになる。
初代の260RSに続くハイパフォーマンスワゴンではあったが、販売台数は芳しくなく限定車ではないが100台も販売されていないとのことだ。
オーナーは長距離移動する機会が増え、便利でラクに移動できる、大排気量のV6エンジンかつマニュアル車という点が決め手となり手に入れたとのこと。
一見ノーマルに見えるが、足回りはZ33のブレーキやホイールに変更されている点にも注目だ。
マフラーはフジツボのオーダーシステム「ビスポーク」を利用して、好みに合わせて製作されている。
音色、リアビューの見た目はもちろんのこと。愛車家として大切な洗車時の拭き取りで重要なウエスの入りやすさにもこだわれたとのことだ。
●エルグランド ロイヤルライン(E50型)
初代エルグランドに設定されていた、VIPが快適に移動するため、4名乗車仕様ちなる。
現代でこそミニバンもショーファーカーとしての地位を築いているが、この当時はまだ人数が乗れることに重きを置かれていた。
これまでロイヤルラインの実車を見る機会はなく、今回初めてであった。
オーナーはE50型エルグランドが好きで、過去ロイヤルラウンジ以外のグレードも所有されていたとのこと。
今回取材したロイヤルラウンジはなんと2台目とのことだ。
オーテックにおいては、VIP向けのカスタムをセドリックやプレジデントベースで行ってきた。
その経験が生かされており、細やかな点にも驚くほどの配慮が散りばめられていた。
スライドドア横には傘を収納するホルダー、シートには収納可能なテーブル、リアのラゲッジからの音を遮るためのパーテーション、日産純正空気清浄機のピュアトロンも設置されている。
ミニバンはラゲッジとつながっているのが当たり前と考えていたが、セダンのように空間を隔てる配慮がされている。
すべては後席に乗るVIPのためのおもてなしの環境となっている。
フロントエンブレムはボディーカラーに合わせたカラーリングがされており、リアに付くオーテックジャパンのステッカーも専用品とのこと。
大型高級ミニバンの先駆けとしてデビューしたエルグランド。
さらにブラッシュアップさせ、細部にもこだわりが詰まっていることを今回知ることができた。
●エルグランド VIP(E51型)
ロイヤルラインのオーナーに話を伺った際、ご一緒だった方はなんと元ロイヤルラインオーナーであり、今回2代目E51型エルグランド VIPで参加されているオーナーだった。
オーナーにお願いして愛車を拝見すると、2代目となりさらに豪華になった内装がそこにはあった。
シートは本革パワーシートに進化しており、リアパーテーションにはスピーカーが追加されていた。
両側スライドドアになったことから、傘のホルダーは運転手が格納しやすいよう、運転席側のスライドドア部に移動されていた。
オーナー曰く、4人乗りのため友人から「この見た目で4人しか乗れないなら、大きな軽バンやないか!」と突っ込まれたとのことだ(笑)。
普段この愛車でゴルフなどを楽しまれており、その長距離移動時にリアシートに乗る機会がある。
少しリクライニングさせ座った際、革シートになったことでブレーキング時、体が前に滑ってしまうことがちょっと悩みの種であるとのことだ。
備え付けのキャビネットにはスピーカーも内蔵されている。
金属製の大型ステップは乗り降りをする際に安心感を持って乗ることができるお気に入りのアイテムとのこと。
ロイヤルライン、VIPともに外装はライダー仕様にしており、外観からはわからないようにカスタムを施されている点がこだわりとのことだ。
●シルビア オーテックバージョン K's MF-T(S14型)
S14シルビアにもオーテックバージョンがあったことをご存知だろうか?
恥ずかしながら筆者は2年ほど前に初めて知った。
その外観上の特徴としては、大きなリアスポイラーにある。
今回取材した車輌は、リアスポイラーはオーテックバージョン、リアバンパーは社外のものを組み合わせており、今も現役でサーキット走行を楽しまれているという。
そして、オーナーにとって初めての新車であり、愛車なのだとか。
なぜオーテックバージョンを選んだのか尋ねてみると、購入後、チューニングをしたい考えがあったなか、オーテックバージョンは最初からベースとなる基準車に対して、タービンとコンピューターが変更されたチューニング状態されていることが決め手となったそうだ。
最初の愛車として、メーカー保証付きチューニング車というのは信頼感においては抜群だろう。
現在もその進化は続いており、サーキット走行と街乗りでの乗り心地を両立するセッティングについて研究をされているとのことだ。
●シルビア オーテックバージョン(S15型)
前述のS14シルビア オーテックバージョンがターボチューンだったのに対し、S15シルビアではNAチューンを施してリリースされた。
NAエンジンに基準車ではターボのみに設定があった6速マニュアルトランスミッションが組み合わせられた。
新車から乗り続けているオーナーは、過去の愛車遍歴からNAフィーリングが好みだということに気づかれた。
このクルマは、メーカー保証付きのNAチューンモデルという点に惹かれ購入されたそうだ。
ドアミラーやテールレンズを好みのモノにカスタムを行なっている。
オーナーの愛の深さは、愛車だけにとどまらず「オーテック」へも向けられている。
愛車のフロントウィドウには、AOG里帰りミーティングの前身イベントともいえる「オーテックオーナーズフェスティバルin大磯」開催時のパンフレットが飾られていたのだ。
もちろんそのイベントにも参加されており、イベント企画の愛車との記念写真も飾ってあった。
この当時はシルビアは4台ほどしか居なかったとのことだ。
さらにそのイベント時に配られたネックストラップも今回持参されていた。
オーテックへの想いはおそらく、会場内で1番だと断言しても良いと筆者は感じたほどだ。
■5.里帰りミーティングは年に1度の同窓会だ!
今回お話を伺ったオーナー方から共通のワードを聞くことがあった。
「一年に一度ココで会うのが恒例行事」
「毎年開催される同窓会」
長期に亘ってメイド イン オーテックを愛車としているオーナー同士は共通の価値観、周波数が合う感覚があるのだろう。
今回お話を伺ったシルビア、260RSオーナーのグループは里帰りミーティング初期から参加されている方々だ。
同じ場所に集まって止めているのは「チームパーキング」という制度を利用することで可能となっている。
これは、事前申請することで、まとまって並べられるエリアが用意されている。
多くの車輌と人がいる会場内は事故防止のため、車輌移動が禁止されている。
事故を防ぎつつも並べられるよう、オーナー視点でも考えられた思いやりが感じられるサービスとなっている。
出会った当初は260RSオーナーが多数だったが、今は乗り換えて車種が変わっている方もいる。
しかし乗り換えた車輌もオーテックやニスモというオーナーも多い。
今も同じ「オーテックオーナー」としての交流は続いている。
車種や世代が変化しても、オーテックモデルに乗り続けるオーナーが多いのは、クルマはもちろん今回のようなイベントを行う「オーテック」が持つ魅力によるものなのだろう。
■6.まとめ
AOG湘南里帰りミーティングは、オーテックだけでなくニスモブランドも加わり、これまでにない規模の大イベントとなった。
両ブランドともに明確な個性とこだわりを持ち、その魅力は多くのオーナーを虜にしている。
そんなオーナーたちにとっても湘南の地は第2の故郷となり、年に一度仲間が集まる“里帰り”先になっていると感じた。
多くのオーナーと愛車が今後も里帰りできるよう、末永く続いてもらいたい魅力的なイベントであった。
[ライター・画像 / お杉]