日本では、一般的に新車登録から13年が経過したクルマは自動車税と重量税が高くなり、必然的に旧車を維持するためには税金を含めた維持費が上がります。
このような要因も含め、日本では旧車を見かける機会がなかなか少ないのではないかと想像していました。
一方、ドイツでクルマを運転していると、その道中、駐車場を問わず旧車を見かけることがとても多いのです。
毎週クルマで数百キロを移動しますが、行く先々でほぼ毎回見かけるほどです。
この記事では、ドイツにおける旧車の状況について見ていこうかと思います。
▲フォルクスワーゲン ケーファー(Käfer=ドイツ語でカブトムシ、つまりビートルの意)
■そもそも旧車とは?(ドイツ編)
そもそも旧車とは、どのようなクルマを指すのでしょうか。
ドイツでは「オールドタイマー」という定義で法的に統一されており、最初の登録から少なくとも30年が経過しているクルマのことをいいます。
さらに車輌の大部分がオリジナルの状態であるか、もしくはオリジナルの部品で修復されていること、車輌の状態が良好であること、クルマの文化遺産を維持する役割を担っていることなどとされています。
1997年にはHナンバー (H-Kennzeichen) としても知られる、ヒストリックナンバープレートが導入されました。
クルマのナンバープレートには、「ヒストリック」であることを意味するHの文字が追加で記されます。
クルマが上記の条件を満たしていれば申請することが可能で、専門家による肯定的な所見に基づき付与され、自動車文化財として認められるようです。
ちなみに年式こそ古いものの、登録から20年から29年経過しているクルマは「ヤングタイマー」と呼ばれます。
条件としてはオールドタイマー同様、可能な限りオリジナルの状態に近く、保存状態が良好であることなどとされています。
ただし、どうやらこのヤングタイマーにはオールドタイマーのような法的な定義は存在しておらず、保険会社や愛好家、イベント主催者などによりその定義が異なることもあるようです。
▲外出先に駐車していたメルセデス・ベンツ Sクラス、フォルクスワーゲン ゴルフ(筆者撮影)
■旧車への税金優遇
たいていの場合、Hナンバー登録されているクルマの税金は、通常の自動車税よりも安くなります。
さらに700cc以下、または浄化装置を搭載しているオールドタイマーについては、自動車税はより安くなる場合があるようです。
そんなドイツでも、オールドタイマーに対するこの優遇に対して、異議を唱える声が多くあがっているのが実情です。
例えば、会計検査を管轄する政府機関は、この減税措置に異議を唱え続けており、Hナンバーのオールドタイマーの増加により政府の税収が減少しており、かつ政府が掲げる気候政策目標と矛盾すると主張しているのです。
今後このような優遇措置が見直される可能性もあるかと思いますが、このような声があがっているにもかかわらず、現状オールドタイマーに対する減税措置が維持されていること、そして後述するようにオールドタイマーの登録が右肩上がりに増えていることを踏まえると、ドイツは旧車にとっての楽園ととらえることができるのかもしれません。
■ドイツにおける旧車の登録数
ドイツではどのくらいオールドタイマーがいるのか、その台数とモデルを見てみましょう。
ドイツで登録されている自動車の数は全体で6,770万台(乗用車以外も含む)ですが、731,795台がオールドタイマーとしてのステータスを持っているとされています。
このうち88.6%にあたる648,403台は乗用車、4.8%にあたる31,536台はトラック、3.1%にあたる22,450台はトラクターとなっています。
ドイツでは、見るからに旧車のトラックなどもしばしば見かけます。
なお統計では、オールドタイマー(Hナンバーの有無は問わず年式のみを考慮)の2022年の登録数は、前年比10.8%増となっています。
2022年現在登録されているオールドタイマーの年代別では、30年~34年のクルマが160,741台、35~39年のクルマが139,848台、40~44年が106,509台、45~49年が97,532台、50~59年が154,598台、60年以上経過しているクルマは72,439台となっています。
さらにKBA(ドイツ連邦自動車庁)の統計を見ると、2011年から2022年にかけての登録数は、30年~40年経過したオールドタイマーは多少上下しているもののほぼ一定であるのにに対し、50年が経過しているオールドタイマーの登録数が右肩上がりに伸びているのは興味深いところです。
次に、州別のオールドタイマーの登録数です。
一番多いのはノルトラインヴェストファーレン州で158,794台、次いでバイエルン州で138,931台、バーデンヴュルテンベルク州で118,605台であり、この3州において登録数がとりわけ多くなっています。
ところが、過去10年の統計では、この3州以外での登録が倍増しており、オールドタイマーの人気が急上昇しているというのです。
今回その理由まで確実に調べることはできませんでしたが、今後追っていきたいと考えています。
▲外出先に駐車していたメルセデス・ベンツ Sクラス(筆者撮影)
■Hナンバー登録車のメーカー・モデル別ランキング
オールドタイマー(Hナンバー登録されているクルマに限る)のメーカー、モデルごとのランキングは下記の通りです。
1:メルセデス・ベンツ
2:フォルクスワーゲン
3:ポルシェ
4:BMW
5:オペル
6:フィアット
7:GMC
8:フォードUSA
9:アウディ
10:フォードEU
モデル別では、
1:メルセデス・ベンツ W123, E Class
2:フォルクスワーゲン ケーファー(ビートル)
3:フォルクスワーゲン バス(全車種)
4:メルセデス・ベンツ SL(全車種)
5:ポルシェ 911 / 993 / 996
6.:メルセデス・ベンツ Sクラス
7:フォルクスワーゲン ゴルフ
8:BMW 3シリーズ
9:メルセデス・ベンツ W201(190)
10:メルセデス・ベンツ Strich 8
となっています。
▲フォルクスワーゲン バス(T2)
■おわりに
いかがでしょうか。
これまでは「ドイツではまだ古いクルマが比較的たくさん走っているんだな」程度にしか思っていませんでしたが、その背景には旧車の立場がしっかりと確立され、さらには税金の優遇措置があったりと、旧車が走り続けやすい、または維持しやすい体制が整っていることがわかりました。
今後はオーナーの実際の声を聞く機会を探り、旧車に関する事情などをオーナー目線も交えながら深堀していきたいと思います。
[画像・Shima,フォルクスワーゲン / ライター・ Shima]