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1983年型だから、タクシー仕様を除くとシリーズ最終モデルとなった910型ブルーバード。
ボクのはバンなので、丸目4灯が特徴。ブルーバードシリーズ最後のFR車である。
FRの小型4ドア車を買うはずが何故かブルバン
■毎度のことだけど、購入候補にないクルマを買っちゃった
それは2020年夏のことだった。
この10年ほど、常時数台の公道走行可能なクルマと暮らしているのだが、その当時は、フェアレディSRL311・ポルシェ964・サニークーペ・ミニ1300i・初代フィットという非常にバランスに優れたラインアップ。
充実したカーライフをエンジョイしていたのだ。
でもね、ラインアップが完成形となると、何故か崩したくなってくるのがへそ曲りの性。
そこで、4ドアであること、マニュアルミッション車であること、フィットと同等程度までのボディサイズであることを条件に、売り物情報との睨めっこを始めたわけだ。
具体的なターゲットとしてイメージしたのは、国産車では、R411型ブルーバード・B110型サニー・RT100系コロナ・TA40系カリーナなど。
輸入車では、ADO16系各モデル・シトロエン2CV・ルノー4あたりだ。
そんなとき、クルマ屋を経営している友人から、210型サニーバンの情報が入ってきた。
210型は他のサニーより安いし、素材としては悪くない。
そこで、早速問い合わせてもらったのだが、情報を得た時点で商談中だったようで、現車を見ることもなく破談となった。
もともと興味の対象ではなかったからどうってことはない。
ただし、ボクには悪いクセがあって、縁がなかったクルマと似たタイプのクルマまで見るようになってしまい、約1ヶ月後、910型ブルーバードバンを発見してしまったわけ。
見つけた後は迷う間もなくトントン拍子。
イメージしたクルマより随分とデカイし、素の状態ではカッコイイとはいえないけど、まぁなんとかなるでしょう、ってな感じだった。
■実物を見てのファーストインプレッション&作業開始
荷物の運搬にも使われた商用車だけど、ガンガン使った感はない。
一番気になる荷室も、想像以上に傷みが少ないし、リアゲートのダンパーも生きている。
運転席シートの座面右側が破れていたけど、新車登録から37年間で実走行約8万4000キロと走行距離も少なく、意外と程度は良さそうだ。
ボディカラーはシルバーメタリックで、左右の前ドアに看板を消した跡があるが、そもそも全塗装前提だったので問題なしだ。
色は、スズキ・ジムニーの純正色「ミディアムグレー」を選択した。
ということで、約10センチ車高を落とし、ボディはマスキングによる全塗装、ウインドウには濃いブラックでフィルム貼りを依頼。
ホイールは、以前街乗りのフェアレディSRLで使っていたロナール製の鉄風アルミを夏タイヤ用に、レース車両で使っていたスピードスター製RSワタナベタイプの3ピースアルミをスタッドレス用に決定した。
また、ステアリングはナルディのウッド。
後は、すべてのオイルの交換とラジエター内&ガソリンタンク内の洗浄という作業を依頼。
マイカー仕様のブルバン・プロジェクトのスタートだ。
■自分で買った誕生日&クリスマスプレゼント
プロジェクトスタートから約2ヶ月後、完成の連絡を受け、2020年12月22日に引き取りに行った。
ジャジャ~ン!! である。
ジムニーのミディアムグレーとなったボディカラーは、フロントと前席左右以外のウインドウをブラックフィルム貼り仕上げとしたことで、ビシッと締まった感じ。
ローダウンの効果もあって、フツーのライトバンだった910ブルバンを、クールなチョイ悪スタイルに変身させることに成功した。
まぁ、ドアを開けると顔をだすピラーの内側やステップ付近などは元色のまま、という仕上げには不満があるものの、パッと見は充分にカッコイイ。
最初はフェアレディのレース車両用として購入し、後に310サニーのセダンでも使ったRSワタナベタイプのスピードスター製ホイールも似合っている。
インテリアは、ステアリングをナルディのウッドに替えただけだからごくフツー。
タコメーターもなく、ヒールアンドトゥなんてまったく考えていないペダル配置も笑えてくる。
エンジンはZ16型だが、乗用車用のツインプラグとは異なり、フツーのシングルプラグ。
これは、当時の乗用車に厳しく商用車には緩い排出ガス規制により、商用エンジンは希薄燃焼化しなくても規制値におさまるのでツインプラグの必要性がなかったから。
ツインプラグのZ型エンジンは酷評されていたが、商用エンジンの仕様ならマシなはずだ。
っつうことで、ほぼ誕生日に手に入れてプロジェクトをスタートした910バンは、クリスマスイブの2日前に完成。
予算は大幅にオーバーしてしまったが、自分で買った誕生日兼クリスマスプレゼントとなったのだ。
▲ボディカラーは現行ジムニー用のミディアムグレー
かなり濃いブラックフィルムの効果もあって引き締まったスタイルに見える。
■アッという間に工場へ!?
納車時の走行距離は8万4542km。
非力だし遅いけど、運転していて意外と楽しい。
こういうクルマに美点を見出せる年齢になったんだなぁ、とか、ボクも大人に近づいてきたのさ。
なんて思い、ニヤけながらのドライブだ。
ところが12月30日。
ワインディングをそれなりに攻めていたら、しばしば燃料供給不良の症状が!!
で、いつものコンビニまで辿り着いて工場に電話。
指示に従って対処してみたけど、結局JAFのお世話になり、自宅前まで運んでもらった。
翌日引き取りにきてもらい、一緒に工場へ。
原因はキャブレターで、オーバーホールが必要とのこと。
困ったなぁ、なんて考えていたそのとき、「どうせオーバーホールするならツインキャブ化しちゃいなさい!!」という声が聞こえたような……。
それが神様の声なのか悪魔の囁きなのかは不明だが、ボクはその声に従うことにしたのだ。
■ウェーバーツインの吸気音が快感!!
エンジンはノーマルのままなので、ツイン化するといっても口径は小さめにしたい。
そこで選んだのが、現在入手しやすいキャブレター中、最も小口径である40φのウェーバーだ。
マニホールドはL型用と共通のようで、部品の手配に苦労はなかった。
ついでにタコメーターの装着も依頼した。
作業が完了して取りに行ったのが1月16日。
停止時に頻発していたエンジンストールも解消したし、なによりもツインウェーバーが奏でる吸気サウンドが心地よい。
パワーはないけど、その気にさせるサウンドに陶酔するボク。
絶対的な走行性能も大切ではあるけど、吸気音や排気音などのサウンドもファン・トゥ・ドライブには欠かせない要素なのだ。
▲キャブレターを2連装のウェーバー40に変更
Z型エンジンはクロスフローに進化しているので、夏場のパーコレーション発生も少ないはずだ。
エンジンチューンはしていないのでパワーはないが、ミュージックといえる官能的な吸気音は格別だ。
■高速移動中に初体験のトラブル発生!!
キャブレターの問題も解決し、ウェーバーサウンドを楽しめるツアラーとして存在感を高めていった910バン。
1月の岡山国際サーキット遠征のパートナーとして連れ出し、仲間達に披露。
そして、翌月の東京出張にも連れ出した。
パワーはないけどサウンドは快適。
深夜の高速道路を80〜100km/hの速度でユッタリと流す。
ブルバンは4速ミッションでオーバードライブが付いていないから、タコメーターの針は、だいたい3000~3500回転を示している。
新東名に入り、静岡SAに近づいた頃、突然落下物でも拾ったような音に続いてガラガラ音が!!
慎重にスローダウンし、SAに入る。
それまで中央の位置でピタッと止まっていた水温計が急に動き出した。
近い駐車スペースに停める頃には、不凍液が焼ける匂いとともにボンネット付近から白煙。
オーバーヒートの症状だ。
とにかく冷ましてからじゃないと何もできない。
仲間に連絡したいけど時間は午前2時過ぎだし、電話のバッテリーも残量がヤバイ。
とりあえずスタンドに行って充電器を借り、電話を充電しながらiPadを開き、SNSでピンチに立たされている現状を発信した。
すると、それに気がついた大阪の仲間が、代車を積んでヘルプにきてくれるという。
長いことクルマと付き合っているけど、この事象は初体験だ。
ヘルプの到着を待っている間、ボクは、最悪エンジンのオーバーホールまで必要になるかもしれないと危惧していた。
そのとき頭をよぎったのは、すでに大幅に予算オーバーしていたにもかかわらず、エンジンのチューンアップとか、積み替えのこと。
どうせ積み替えるなら、日産製エンジンに拘らず、ケントユニットとかアメリカンV8なんてのもアリかな、なんてね。
まったくもってノーテンキなのだ。
▲ナルディのウッドステアリングは現在デカレディに転用している
ステアリングコラムカバーに貼り付けたタコメーターは、明るくて見やすく気に入っていた。
■長く付き合う予感はあったけど・・・
イロイロなことがあったけど、ウェーバーツイン装着以来、かなりボクのイロが濃厚になってきた910バン。
TSM(高雄サンデーミーティング)では特別賞をいただいたし、ほとんど効果はなかったけど、台湾製の汎用クーラーを入れて快適性向上チャレンジもしてみた。
イメージとしては長く付き合う感じだったけど、ヒョンなことから立ち上がった「車種未発表の極秘プロジェクト」によって、運命は大きく変わってしまった。
前回の愛車紹介に登場したサニークーペとともに下取りに出すことになったのだ。
1回目の車検を終えてすぐの2021年12月のことである。
プロジェクト完了時に渡すので、残された時間を積極的にともに過ごし、たくさんの想い出を作るつもりだった。
本来なら現在も手元にあり、計画中の北陸から始まる東北一周ドライブも910バンで行くはずだった。
でもね、昨年8月、突如やってきた「デカレディ」ことGS130型フェアレディの購入資金捻出のため、プロジェクト完成後に下取りに出すはずだったサニーとブルバンを先に差し出すことに……。
ブルバンとの想い出は、トラブルが中心の波乱万丈スタイルになってしまったけど、ボクの趣味人ライフに大きな足跡を残してくれたことは事実。
特に、パワー不足で遅いクルマだから、速度違反を気にすることなく、ウェーバーの奏でる吸気音を楽しめた安心感は格別だった。
お金をかけてしまったし、それなりに気に入っていたブルバンだが、デカレディ出現により、別れの時期が早まってしまった。
なお、奥にあるムーブは、フィットを手放した後に入手したもので、当時のボクにとって唯一の快適エアコン号だった。
[撮影&ライター/島田和也]