週末の行楽地に出かけているとき、遠くから普段聞き慣れない種類の荒々しいエンジン音が響いてきて、思わず「おっ?」と気を惹かれてしまう、というシーンに遭遇したことはありませんか?
そのまま運が良ければ、反対車線をすれ違う複数の旧車のツーリングに出くわすこともあるでしょう。
その際に聞こえてくる迫力を秘めたエンジン音のうち、「カアアアァァン・・・」というカン高く空に抜ける爽快な音の部分の多くは、キャブレターから発せられる吸気音なんです。
この例のように、大口径キャブレターの吸気音に魅せられて乗りたくなったという旧車ファンは少なくないでしょう。
ここではそんなキャブレターの魅力について、改めてしっかりお伝えしていきたいと思います。
まずは前編ということで、キャブレターの基本の部分を解説していきましょう。
■旧車乗りが「キャブ、キャブ」っていうけど何がいいの?
まずキャブレターの魅力について触れておきましょう。
魅力のひとつは上で話したように“吸気音”が心地良い、という点です。
私も旧車に乗るまでは、チューニングエンジンの音を味わうのは“排気音”だと思っていました。
しかし、初めて旧車のエンジン音をしっかり聴けるチャンスが訪れたとき、排気音よりも吸気音が気になるということに気付きました。
旧車の排気音は、触媒が無かったりサイレンサーの構造もシンプルだったりして、今どきのクルマの排気音よりストレートに響いてきます。
それはそれで好きなのですが、エンジンルームをのぞき込んだ状態や室内でアクセルを煽ったときに、耳に届いて感性をくすぐってくるのは吸気音の方でした。
音の印象を頑張って擬音で表してみましょう。
排気音は「ブオンブオン」や「ガオンガオン」という低めで腹に響く系の音質だと感じます。
一方で吸気音の方は、「カオーン」や「シュゴーッ」という、空に抜けていくような感じのする高めの音だと感じます。
これが、回転が高くなるほど音量が増し音質も高くなるので、アクセルを踏む自分の気持ちも昂ぶってくるんです。
ちなみにこの抜けるように響く感じは、キャブレターの口径が大きいほど気持ち良いと感じます。
声量のあるプロの歌手が、目いっぱい歌い上げているのを聴いている感じに近いでしょうか。
あとは加速感がガラッと変わります。
だいたいの車種で普段の使い勝手の方を優先して設計しているので、使用する頻度の高い低回転から中回転の領域でレスポンスとトルクの効率が最適になるように、かなり絞った口径のキャブレターを装着しています。
したがってピークパワーに関してはだいぶ抑えられている状態なのです。
パワーを出すにはカムなど他の要素も関わってくるので一概にはいえませんが、単純にキャブレターの口径を大きくすると、それまで抑えられていた部分が解放され、エンジンが求める空気(混合気)がより多く吸えるようになります。
その結果、パワーが上がります。
上がる割合はエンジンの特性や仕様、状態などで異なりますが、適切な口径を選んで、セッティングが合ってさえいれば、パワーが下がることはないでしょう。
パワーとともにレスポンスもアップします。
特に空ぶかしの時の反応がまったく違うので、シフトダウンの時にアクセルを煽るのが楽しくなるでしょう。
そして、これは機械いじり中級者以上の人になりますが、自分でメンテや調整がおこなえるという点も、趣味のクルマの装置としては魅力アップのポイントではないでしょうか。
ボンネットを開けてもカバーが邪魔でエンジンの存在が隠されているような今のクルマは論外ですが、80年代のじゅうぶん旧車と呼べる年式のクルマでも、インジェクションや排ガス浄化デバイスなどがひしめいていて、ちょこっとメンテしようかなという気も削がれてしまうでしょう。
その点、キャブレターがむき出しになっているエンジンなら、余計な手間をかけなくても直接キャブレターにアクセスできるので、ストレスがありません。
まあ、用も無いのにしょっちゅうキャブを触っているというのもちょっと考えものですが、それだけ気軽に作業できるというのはメリットだと感じます。
■基本の基本、キャブレターってなんだ?
そもそも「キャブレター」という単語を知っているという人はどれくらいいるでしょうか?
まあ旧車に興味がある人がチェックしている「旧車王ヒストリア」の読者さんなら、ほとんどの人は耳にしたことはありますよね。
ではキャブレターが何をする装置なのかを知っている人はどうでしょうか。
まあこれも半分以上は大丈夫かと思います。
そうです、キャブレターはエンジンが燃焼を行なうのに必要な、ガソリンと空気をミックスした“混合気”を送り込むための装置です。
エンジンが調子よく回るかどうかの大部分は、このキャブレターの設定にかかっているのです。
キャブレターはその内部に、空気の通り道の一部を絞って流速を上げて負圧を作り出す「ベンチュリー」という機構が備わっています。
このベンチュリーで作り出した負圧の部分に燃料の管をつなげることで、自然と燃料が吸い出されていきます。
キャブいじりの解説で良く出てくる「ジェットの番手を上げる(大きいものに交換する)」というのは、燃料の管の入り口を絞ったり開けたりして流量を調節するための行為のことなんです。
■キャブレターのセットアップやセッティングは難しい?
キャブレターの装着とセットアップ、そしてセッティングをイチからおこなうという場合、まったくの初心者の場合はいろいろと覚えなくてはならない要素があるので、そういう意味ではけっしてカンタンではありません。
とはいえ、いまどきはキャブレターの扱い方を解説している本がいくつもありますし、動画配信などでも初心者向けに解説をしているものがありますので、そういう情報をしっかり勉強してから挑めば、エンジンを動かせるところまでは思ったほど時間はかからないと思います。
いちばんの近道は詳しい人を探してアドバイスしてもらうということですが、まあそう都合良く身近にはいないでしょう。
SNSで旧車の集まりに参加して、相談してみるところから始めるといいと思います。
キャブレターの魅力を楽しむためには、まずはキャブレター本体を入手しないことには始まりません。
そこで決めなくてはならないのがキャブレターの口径です。
エンジンの仕様や特性、オーナーの求める方向によって変わる部分はありますが、大きなガイドラインは排気量で見当が付けられます。
例えばよく使われている公式で見てみましょう。
D=0.82 √(CxNx0.001)
D=キャブ口径(mm)
C=1気筒あたりの排気量(cc)
N=最高出力回転数(rpm)
実際にソレックスの40パイが装着されているトヨタの「2T-G型」を当てはめてみましょう。
0.82√(400×6400×0.01)=41.5 となり、だいたい合っていますね。
では旧車エンジンの代表格「L20型」を当てはめてみると、0.82√(333×5200×0.01)=34.1 となります。
実際に34パイのキャブレターとなると、ソレックスの36パイがあるにはありますが、かなり入手は難しいと思います。
私の経験では、L20型エンジンにソレックスの40パイを3機装着してみたことがありますが、ノーマルキャブレターに比べてゼロ発進の時、特に坂道発進ではすこし慎重になるものの、街乗りで不足を感じることはありませんでした。
むしろアクセルのレスポンスが良くなり、中回転から上のパワー感が増したので、差し引きでいうと大きくプラスになったと感じました。
ですので感じ方には個人差はありますが、目安はあくまで目安として考えたほうがいいでしょう。
慎重に選ぶなら小さめを、せっかく変えるなら変化が大きい方が良いと考えるのであれば、大きめを選ぶと良いと思います。
キャブレター選びで、ひとつ注意をして欲しい点をお伝えしておきます。
キャブレターは一部を除いてもう新品での販売はしていませんので、ほとんどの人はネットオークションや中古を扱っているネットショップなどから中古で購入することになると思います。
その際、さり気なく混じっている不良品をつかまないよう慎重に選ぶようにしてください。
といっても「良いか悪いか、写真とコメントだけでは判別できないよ!」というのが実際だと思います。
ただここでいえることは限られてしまいますが、可能な限り現物を見て購入するようにすれば、少しでも失敗は遠ざけられると思います。
少なくとも写真で見てキレイだったからと安易な判断は控えましょう。
■あとがき
どうでしょう、キャブレターの魅力をしっかり伝えられたでしょうか?
ひと昔前に比べると、キャブレターの価格も上がってきていて、手軽に購入しづらくなってきてはいますが、私自身は旧車のカスタムパーツの中で一二を争うくらいに交換した時の変化が大きいものだと思っています。
せっかく旧車ライフを楽しむならば、ぜひ一度はこの効果を体感していただきたいです。
次回はもう少しマニアックな部分に踏み込んで、キャブレターの楽しさの奥深さを話してみたいと思います。
[ライター・画像 / 往 機人]