今回、オールドタイマーを所有する、とあるドイツ人の男性にインタビューをお願いしたところ、個人的にも大変興味深いお話を聞くことができました。
また、インタビューのみならず、実際に運転するという貴重な体験まで!
筆者の拙い運転体験記にも目を通していただけると幸いです。
今回インタビューを受けていただいたのは、ドイツ・ホルツミンデンにお住いで、1982年式メルセデス・ベンツ240D(W123)をお持ちのヴィルヘルムさん。
とても親切、気さくな方で、何をリクエストしてもすべて快く引き受けてくださいました。
■人生初のオールドタイマー運転体験
クルマの第一印象は、昔の本や(ドイツの)映画・ドラマでよく見るような典型的なヘッドライトを持つ、良い意味で「古いメルセデス!」といったものでした。
しかし間近で見てみると、外観だけでなく、エンジンルームやシートまで全体的に綺麗な状態が保たれており、とても大切に乗られていることがよく伝わってきます。
ヴィルヘルムさんとクルマの話で盛り上がっていると、思いがけないことに240Dを運転してみないか、とのお話が。
もう10年以上はマニュアル車を運転していないため、若干の不安はありましたが、それよりもオールドタイマーを運転できる大変貴重なチャンスだと思い、運転させていただくことになりました。
筆者が過去に運転したことがある一番古いクルマを思い出してみても、もちろん自分より年上のクルマを運転した経験などありません。
マニュアル操作もすっかりぎこちなかったのですが、いざ運転してみるとエンストすることもなく、とても素直に動いてくれました。
ハンドルが重いということをいわれていましたが、そこまで気にならず、シフトチェンジも軽快。
途中からまるで、クルマに運転を教えてもらっているような感覚になっていて、運転にある程度慣れてくると、古さなどはまったく感じず、違和感なく運転することができました。
乗り心地は、一言で言うと快適そのもの。
シートは柔らかすぎず、しかしクッション性はしっかりしています。
一般道を走る速度帯では不快な揺れや振動もありません。
今のクルマに比べると遮音性は高くないので、ディーゼルエンジンの大きな音はそれなりに車内にも響き渡りますが、個人的にはそれも味があって良いなといった感想です。
ルートは主に山道でしたが、けっこうな勾配も2速あたりで力強く登って行ってくれました。
一般道での走行では3速でじゅうぶんといった印象。
とても優雅に走ってくれて、ギアチェンジの動作も自然とゆっくりやりたくなるような、時間を忘れてゆったり運転するのが似合うクルマだなと思いました。
■取材車輌スペック
いただいた資料を基に、ヴィルヘルムさんが所有する240Dのスペックについても紹介しておきます。
最高速度:138km/h
加速性能(0~100km/h):22秒
燃費:9,3L/100km
ホイールベース:2795mm
全長:4725mm
全幅:1786mm
全高:1438mm
最小回転半径:11.25m
車輌重量:1395kg
最大積載量:520kg
最大牽引能力(ブレーキあり):1500kg
最大牽引能力(ブレーキなし):740kg
エンジン:4ストロークディーゼルエンジン4気筒
最高出力:72PS(4400/min)
最大トルク:137Nm(2400/min)
タンク容量:65L
■ヴィルヘルムさんにインタビュー
●いまお乗りのオールドタイマーのモデルについて教えてください
メルセデス・ベンツ 240Dという1982年式のモデルです。
●オールドタイマーに乗り始めたきっかけを教えてください
元々クルマは好きなのですが、このクルマに乗り始めたのは、義理の父から相続したことがきっかけです。
●オールドタイマーの良さとは、どのようなところですか?
何かが故障しても、すべて自分で直せてしまうところですね。
複雑な電装部品などが多くないので、何をするにしても自分で対処できてしまいます。
そこがまた良いところだと思います。
ただし、Hナンバー登録をしているので、リペアに使用する部品などには注意を払わなければなりません。
(※Hナンバー登録、または維持するためには、修理もすべてオリジナルの部品でおこなわなければなりません)
●どのくらいの頻度で乗っているのですか?
基本的には、天気の良いときだけ乗るようにしています。
スタッドレスタイヤは持っていないので、冬は乗りません。
だいたい、5月から10月のシーズンですね。
また、夜に乗ることも少ないです。
ヘッドライトが頼りないので(笑)。
●故障はありますか?
故障はまったくないです。
一度だけ燃料メーターの不具合がありましたが、それ以外に走行に支障をきたすような故障はなく、燃料メーターの交換以外で修理を施したことは一度もありません。
●年間の維持費について教えてください
Hナンバー登録なので、税金が190ユーロ、保険が206ユーロです。
保険は年間6000キロまでという走行距離の制限がありますが、先ほどいったように、基本的には天気の良い日にしか乗らないので、じゅうぶんです。
日常的に使う人は、保険料はもう少し高くなるのではないでしょうか。
●ドイツではたくさんのオールドタイマーが走っていますが、専門の修理工場やサービスが充実しているのですか?
専門工場はあるにはあるのですが、そこまで多くはないと思います。
私が知っている限りでは、シュトゥットガルトにメルセデス・ベンツのオールドタイマー専門の修理工場があります。
もし何か必要であれば、そこに相談をして部品の調達などを任せることになるかと思います。
(後述するような)オールドタイマー乗りが集まるクラブで修理工場などを紹介してもらうことも可能かと思います。
一般的なディーラーや工場では、修理や部品の調達はできません。
●オールドタイマー乗りのためのクラブ・愛好会などはありますか?
あります。
場合によっては登録手続きなどが必要になるかと思います。
私は特に入っていません。
●オールドタイマー乗りにとって、もっと改善してほしいことはありますか?
特にありませんが、強いていうなら、周囲のドライバーにはもう少し思いやりを持っていただけるとうれしいですね(笑)。
●オールドタイマーに乗るメリットについて教えてください
とにかく運転が楽しいことです。
天気の良い日にこのクルマを運転していると、本当にすべてのストレスが吹き飛びますよ。
●逆に、オールドタイマーに乗るデメリットがあれば教えてください
まったくありません。
あえて挙げるならば、パワステがないということと、新しい世代のクルマに比べると、動作が重かったり鈍かったりすることくらいでしょうか。
●オールドタイマーを維持するうえで、一番大変だと感じることはなんですか?
これは間違いなく、万が一故障したときの部品の調達ではないでしょうか。
●ドイツでオールドタイマーに乗っていて、肩身が狭いと感じることはありますか?あるとすれば、どのようなところですか?
オールドタイマー全般という観点からすれば、排気ガスの関係から、環境保護エリアやディーゼル車乗り入れ禁止エリアでは走行できないということでしょうか。
ただし、オールドタイマーであってもHナンバーさえ取得していれば、そのようなエリアでも走行することが許されています。
ですので、Hナンバーを取得したオールドタイマーにとって肩身が狭いと感じることやデメリットは、まったくと言って良いほどありませんよ。
●今乗っているオールドタイマーの一番のお気に入りポイントはなんですか?
ずばり、運転が楽しいことです!
それに尽きます。
●今乗っているオールドタイマーを一言で表すと?
一言で表現するのは少し難しいですが、「清楚」でしょうか。
しっかり自分で手入れをして、愛情を注いできれいに保ち続けると、クルマもそれに応えるかのように素晴らしい性能を保ち続けてくれるのです。
■おわりに
お話を聞くなかで、ヴィルヘルムさんが240Dをいかに大切に、そしていかに楽しく乗り続けているかということがよく伝わってきました。
以前記事に書いた、ドイツにおけるオールドタイマー事情の情報に加え、実際にオーナーの声を聞くことで、ドイツではオールドタイマーが文化遺産としてしっかり守られていると確信することができました。
●果たしてドイツは旧車の楽園なのか?この国の旧車の定義とは
https://www.qsha-oh.com/historia/article/auto-old-timer-germany/
それは特に、インタビュー中の話にもあった「Hナンバー登録であれば環境保護エリアでも走って良い」という場面にも顕著に表れているのではないでしょうか。
というのも、とりわけ厳しいエリアでは環境汚染物質クラスがユーロ5以下のクルマは走行禁止とされているなど、場合によっては比較的新しい世代のクルマであっても走行できないことがあるにもかかわらず、Hナンバーのオールドタイマーはそのようなエリアでも走れてしまうのです。
すなわち、そのような地域に暮らす人でも、オールドタイマーに乗り続けることができるということでもあります。
「古いクルマだから環境に悪い」「環境に悪いから排除するべき」と淘汰するのではなく、クルマを一つの歴史として、一つの遺産として大切にする、そして後世に残そうとする動きが国や自治体レベルでも行われていることに、羨ましささえ感じられました。
しかも、それが個人単位ででき、多くの人がオールドタイマーを大切に維持し続けていることからも、ドイツの自動車大国としての強さを改めて認識することができました。
さいごに、今回インタビューを受けていただいたのみならず、マニュアル車の運転をすっかり忘れてしまっていた筆者に、大切なクルマを快く運転させていただいたヴィルヘルムさんに、心から感謝を申し上げます。
[ライター・画像 / Shima]