著者がドイツに移住して約10ヶ月が経過した。
この国ではトラック、タクシー、レンタカー、一般の乗用車でさえも日本とは比較にならないほどのマニュアル車が走っている。
著者はドイツで自動車業界に携わっており、日々新しい在庫車の仕入れを行っているが、働き始めた当初はそのマニュアル車の多さに驚きを隠せなかった。
ドイツ最大手の中古車取引サイトを見てみると、現在約130万台の中古車が掲載されており、そのなかでもマニュアル車の掲載台数は約57万台である。
ドイツ国内におけるマニュアル車の市場シェアは驚異の44%、おおよそ2台に1台がマニュアル車と言っても過言ではない。
ではなぜドイツではこれほどまでにマニュアル車が選ばれているのか?
今回は現地調査を行ってみた。
■マニュアル車の歴史
ガソリン自動車がこの世に誕生したのは1886年。
ドイツ人のカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーによってガソリン自動車の歴史が始まった。
その後、1908年にはアメリカのフォード社によって流れ生産方式が構築され、初めて自動車の量産が行われた。
当時は一般的に2速のマニュアルトランスミッションが搭載されていた。
1930年にはドイツの高級車メーカー、マイバッハによって変速機技術は飛躍的な進歩を遂げ、伝説の名車「マイバッハDS8 ツェッペリン」には8速のマニュアルトランスミッションが搭載されるまでになった。
1970年代には3速および4速のマニュアル車が支流となり、現在では5速および6速のマニュアル車が一般的となっている。
■オートマ車は女性の乗り物?
1940年代から1950年代にかけてゼネラルモーターズ(GM)を始め、アメリカの主要メーカーは急速にオートマチックトランスミッションの開発を促進した。
日本でも1960年代からオートマ車の普及が始まり、1963年にはトヨタ・クラウンに初の2速オートマチックトランスミッションが搭載された。
しかし、1990年代に入るまでオートマチックトランスミッションは動きが鈍く、高価であり、マニュアル車と比べると燃費が悪いと考えられていた。
そのため、当時のドイツでの新車登録台数の80%はマニュアル車が占めていた。
さらにドイツ人男性はスポーティに運転するのを好み、オートマ車は女性の乗り物だという偏見が根強く残っているそうだ。
■マニュアル車はいずれなくなる?
これまでにドイツでのマニュアル車における人気度を解説してきたが、今後もマニュアル車は選ばれ続けるのか。
現在、ドイツでは新車の3分の2(66.4%)がオートマ車となっている。
マニュアル車の新車販売台数は年々減少傾向にあり、その背景にはヨーロッパにおける電気自動車の急速な普及が関係している。
電気自動車(EV)およびプラグインハイブリッド車(PHEV)にはマニュアル車の設定がなく、電気自動車の普及が進めば進むほどマニュアル車の数は減少していくだろう。
加えて、ドイツの大手自動車メーカーはマニュアル車の設定を徐々に減らしているため、マニュアル車に乗りたくても乗れない現状となっている。
これについて、多くのドイツ人が不満を抱えていることはいうまでもないだろう。
[画像・PORSCHE/Adobestock、撮影・ライター/高岡ケン]