今や入手困難となりつつあるシールドビームと、今日なんとか入手できるセミシールドビームとのデザインの違いから、シビエやマーシャルなど当時の一流ブランドをご紹介します。
また、ベテランオーナーがこだわるポイントや、右側通行や車検への適合についても触れてみます。
さらには、日本国内ならではの注意ポイントなどを、むずかしくなり過ぎないようにまとめました。
パーツ単体を深掘りして、自動車産業の進化の過程を読者のみなさまとともに考えていきたいと思います。
■当時、デザインの大きな制約であった旧車のヘッドライト
▲ただいま編集中のリフレクターが錆びてしまったシビエ製のセミシールドビームをレストアする動画
こちらは[YouTube]BEARMAN'sチャンネルで8月下旬公開予定。
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みなさまは旧車のヘッドライトについて、いかがお感じだろうか?
旧車のヘッドライトといえば、丸型や角型のシンプルな形状が多い。
これらが人間味のある顔に見えてカワイイと感じる方もいれば、機能そのものがデザインとなっており、メカメカしくカッコイイと感じる方も多いことではないだろうか?
クルマの旧い新しいに関係なく、顔つきの印象を大きく左右するヘッドライトのデザインは、そのクルマのキャラクターを決定する、たいへん重要な部分ともいえる。
クルマのデザイナーにとっては、まさに力の入れどころである。
旧車の世界に話をうつせば、そもそもヘッドライトといえば当初は丸型のみであり、当時のクルマのデザインにとって大きな制約となっていた事実を、みなさまはご存じであっただろうか?
今回はこの旧車の顔「ヘッドライト」について、すこし掘り下げてみたいと思う。
■限られた選択肢が、より強くオーナーの個性を光らせる!
▲北米仕様のシールドビーム式ヘッドライトが装着された一例。よく知られた欧州仕様とは顔つきが異なる(ポルシェ911)
先ほど述べたとおり、旧車のヘッドライトといえば当初は丸型のみであった。
これは当時のアメリカの法規が深く関わっている。
アメリカでは1940年に米国内で販売される新車へ「7インチ規格型シールドビーム」の装着が義務付けされたことが事の発端である。
シールドビームとは、レンズ・リフレクター・バルブ(発光フィラメント)が一体となったものに不活性ガスを注入し、その名の通り完全密閉(シールド)されたヘッドライトである。
長所は、当時としては高寿命かつ高輝度であり、密閉構造のため内部の劣化による曇りの心配が少ない。
また、全体がガラス製であるため、現代のクルマのヘッドライトのように樹脂製のレンズが劣化して曇るといったことは無縁だ。
採用されるクルマも消耗品としての交換を前提に、規格に沿って設計されているため、整備性も良く、比較的簡単に交換ができる。
短所は、レンズとリフレクターが一体化しているため、発光フィラメントが寿命を迎えた場合、シールドビーム一式で交換が必要な点である。
ハロゲンバルブが普及した現代から見ると、若干高価に感じる点でもある。
規格によって寸法その他が決められてしまっているため、当然、デザイン性に大きな制約がある。
これは当時、国土の広いアメリカの、どこのガソリンスタンドでも交換ができることを優先したためともいわれている。
ただ、このアメリカ国内の法規が、ヨーロッパや日本のクルマ作りに大きく影響した。
それはなぜか?理由は簡単だ。
アメリカはもとよりモータリゼーションの先進国であり、また、今も昔も世界最大の自動車消費国でもあるからだ。
ヨーロッパ車では、はやくも1960年代初頭には角型ヘッドライトが登場する。
アメリカに輸出をすることを念頭に設計・生産されたクルマは、同じ車種であっても本国仕様と北米仕様で顔つきが異なることが多い。
当時の自動車メーカーは、最大の消費地であるアメリカの法規を無視できず、規格ヘッドライトありきでクルマのフロントフェイスのデザインが決めていったという時代背景があるのだ。
この状況は1984年にアメリカ国内で法規が改訂され、バルブ交換型のヘッドライトが許可されるまで続く。
国産車の場合も、アメリカの法規に追従する形で、その影響を受けているといっても過言ではないだろう(日本の場合は、戦後、進駐軍によりシールドビームを装着した軍用車が大量に持ち込まれ、これらの消耗品が一部国産化され普及したという特別な背景も一部ある)。
特に国産車のヘッドライトは、丸形と角型のそれぞれ2灯と4灯、合わせて4種類のシールドビームしか無かった時期が長く続いた。
当時のクルマのオーナーだった方は、その頃の選択肢の無さを思い出すことであろう。
しかし、現代の旧車乗りにとっては、むしろこの部分がオーナー自身の個性を発揮するポイントとなっている。
今日では国産のシールドビームは数年前にすべて生産終了し、ハロゲンバルブ交換型のセミシールドビームが主流となっている。
このセミシールドビームは往年のレンズカットのあるガラス製のものから、カスタム志向のマルチリフレクター式、または、まるで最新の現行車のようなデザインのLED式のものまで存在する。
▲規格型シールドビーム装着車であれば、このようなカスタムヘッドライトという選択も可能だ(プリムス・ベルベディア)画像提供:NezRodz氏 https://www.instagram.com/nezrodz/
逆に旧車のオリジナリティを求め、現在入手困難となったシールドビームや、当時はハイパフォーマンスパーツであった、絶版のシビエやマーシャルのセミシールドビームを探し当て、自身の愛車に装着するオーナーも存在する。
今日現在、一般的に入手できるセミシールドビームはレンズが平面であるものがほとんどであるが、これらはレンズ面が丸みを帯びた凸形状であることが共通する。
▲ 絶版のシビエ製セミシールドビーム(左)と、今日新品で入手できる小糸製セミシールドビーム(右)。レンズの丸みが異なる
当時物のノスタルジーを得ようとする者、今日のテクノロジーを旧車に反映しようとする者、クルマのフェイスデザインの制約でしかなかった規格ヘッドライトが、いまや旧車乗りの個性をアピールする場となっているのだ。
この記事の読者の方は旧車イベントを訪れた際には、ぜひクルマのヘッドライトを一台一台覗き込んでいただきたい。
とても細かい部分であるが、ここにオーナーのこだわりが垣間見えるからだ。
■パーツ探しは意外と困難!?日本国内ならではの注意ポイント
▲試しに海外のサイトでヘッドライトAssyを検索してみた。画像はBMWのあるモデルのHELLA製新品であるが、左側通行用はまず見当たらない。だが諦めてはいけない。これらを加工してシールドビームを装着する強者(ツワモノ)も存在する
旧車ヘッドライトのパーツ選択に趣(おもむき)があることを述べたが、日本のオーナーには、注意をしなければいけないポイントがあることをお話しする。
それは日本国内の特別な事情だ。
クラシックミニをはじめとする英国車のオーナーは特に心配する必要はないことであろう。
といえば、分かる方もいるはずだ。
そう、日本は世界でも珍しい左側通行の国だ。
いったい何が問題なのかというと、左側通行用と右側通行用のヘッドライトはレンズカットの形状が異なり配光が異なる。
左側通行用のヘッドライトはロービームで点灯させると、カットオフラインと呼ばれる境界線を境に、対向車が眩しくならないように、かつ歩道側が先まで見通せるように、左上がりの配光となる。
これが右側通行用のヘッドライトでは正反対になるのだ。
当然、右側通行用のヘッドライトでは日本国内の車検に合格することは不可能だ。
特に困るのは、旧車でもヨーロッパ車のオーナーであろう。
先述の規格型ヘッドライトのクルマであれば特に困ることはないが、車種専用のヘッドライトであった場合、左側通行用は世界的に見ても希少、かつ入手困難なレアパーツとなる。
昨今はインターネットが普及し世界中からパーツを取り寄せることができる旨を前回の記事で述べたが、筆者の経験上、こればかりはかなり厳しい一例といえる。
もし中古部品で探し出せたとしても、必ずしも光軸を調整する部分などに異常がないとも言い切れない。
この部分も車検を通すための重要な部分だ。
良質なリプロダクション(再生産品)や社外品があればいいが、右側通行用であることがほとんどである。
ヘッドライトのみならず、こういった車検にかかわる部分は事故などのアクシデントに遭う前に、何らかの予備的手段を用意しておくことをおすすめしたい。
なお、筆者の場合、本命パーツは車体に装着せず、いざという時のために常に保管している。
日の目を見ない保有パーツばかり増えていくのだが、これは悲しい旧車オーナーの性ともいえる。
■温故知新。個々のパーツを通し、自動車産業の進化の歴史を考える
▲クルマを横から見た場合のヘッドライトレンズのデザインや形状にも、さまざまな「趣」がある。どれも決して間違っていない。あなたもぜひこの部分にこだわってみませんか?
今回この記事を執筆するにあたって、私クマダにとってクルマの先輩ともいえる方々のうち何人かに、当時の状況を伺ってみた。
そのなかでも特に心象に残ったのが、当時シールドビームの丸いデザインが古臭くて嫌いだったという話だ。
この方は現在70歳代半ばで、まさに1970年代に20歳代を過ごした「旧車リアル世代」だ。
この方はどちらかというと当時から輸入車を多く乗り継いでいるが、1980年代になると仲間内はこぞってボッシュ製のハロゲンヘッドランプユニットに交換したという。
これらのソリッドなデザインの平面レンズに時代の最先端を感じたということだ。
先ほど述べた、当時物のシールドビームにレンズ面の丸さを求める趣とはまるで正反対の意見だ。
確かに当時はもとより、現代に至るまで自動車メーカーは、商品性向上のためにマルチリフレクターや、キセノンやLEDヘッドライトなどなど、われ先にと自社の販売するクルマに新しい技術を導入したものだ。
しかし、振り返ってみればそんなクルマのヘッドライトにサプライヤー(部品供給元)のロゴが入らなくなったのはいつ頃からであろうと筆者は考えた。
少なくともヘッドライトレンズがガラス製であった時代には、サプライヤーのロゴが煌々と輝いていたように感じる。
すっきりとしたデザインを優先したためと思うが、これはこれで寂しく感じるものである。
ヘッドライトはさまざまな時代背景を持ちながらも、常にクルマの顔であったパーツである。
旧車オーナーであれば、ぜひこの部分にこだわりを持ってみてはいかがだろうか?
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[画像/AdobeStock ライター・撮影/クマダトシロー]