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■バブルの時代を体現するタイムマシーン
「平成レトロ」というキーワードが世の中に現れて久しい。
平成の期間は30年と113日もあるのだから、その間でさまざまなジェネレーションが存在することは容易に理解できる。
しかし、こと”レトロ”となると、昭和の境目にあったバブル期に思いを馳せずにはいられない。
今回取材をさせていただいたオーナーのrainforceさんもそんな一人。
1991年生まれの31歳で、バブル時代の生活は未経験だ。
対して所有するインテグラは1990年に生産された個体で、その時代を生きた生き証人のようなクルマだ。
オーナーよりも一歳年上。
平成から令和へと、時代を越える姿を覗いてみよう。
■かつての家車と姿を重ねたどり着いたインテグラ
▲大きなガラスが特徴的なリアビュー。後づけのダイバーシティアンテナとハイマウントストップランプがマッチしている。
幼少期から自他ともに認める車好き少年だったrainforceさん。
そんな彼のクルマ好きを形成したのは、家車として両親が所有していたDA型インテグラだ。
フリントブラックメタリックの4ドアハードトップで、子供心にも「かっこいい!いつか乗ってみたい!」という気持ちが芽生えたそうだ。
rainforceさんが10歳の頃、その個体はミッションのトラブルによって買い換えることになってしまう。
それでもインテグラへの想いは心の片隅に置いたままで、少年はクルマ好きの青年へと成長していく。
免許を取得し、初めて所有した愛車は学生時代にヤフオクで購入した10万円の三菱・パジェロミニ。
自らの意思でどこへでも行ける喜びは自動車への興味へとさらにのめり込むきっかけとなった。
就職後はプジョー・106 S16を購入。
そのパワーとハンドリングは、ワインディングをキビキビと駆け抜けるのにうってつけの1台だ。
現在でも所有するほどのお気に入りの一台となる。
ただ、そんな相棒をよそに心の片隅で燻っていたインテグラへの想いが大きくなっていくのを無視することはできなかった。
「106を所有しながらも、もう一台増車したいという気持ちを常に持ち続けていました。
90年代のクルマはモデルを問わず市場にある個体も数が減り、値段も高騰し始めているので買うならラストチャンスが迫ってきていると感じていました」
■クルマ好き青年が心に抱き続けた珠玉の一台
そんな念願が叶い、手に入れたインテグラは1990年車。
インテグラシリーズとしては2代目、前期型のXSiでホンダ初のVTECエンジン搭載車だ。
インテグラは先述の通り、4ドアのハードトップと3ドアのクーペが存在し、サルーン的なフォーマルさやスペシャリティカーとしての性格も強い。
今となってはコンパクトなパッケージングだが、その実レッドゾーンは8000回転からのB16Aを搭載し、リッターあたり100psを出力するホットな心臓を持つ。
「DA型インテグラはリリースから既に33年が経過していますが、走りにおけるプリミティブな部分においてはこの時代で既に完成形に近いのでないかと感じます」
rainforceさんが語る通り、装備やパッケージングに不足は感じられない。
それどころか控えめなのに洒脱なインテリアの雰囲気づくりや、低いノーズにグラッシーなキャビンの構成は近年のクルマとは異なる体験をもたらしてくれるだろう。
それまで106を所有するカーライフのなかでは比較的スポーティな運転を楽しんでいたというが、インテグラと付き合ううえでカーライフに少し変化があったという。
「今まで106は良き相棒としていい意味でラフに乗っていた感じが強かったのですが、インテグラにしてからはクルマの状態についてよく気にかけるようになりました。洗車時にもタイヤの空気圧やエンジンの調子を確認するようになり、細かいところに気を配るようになったと自分でも感じています」
■時代感をディテールに宿しながら走るムードのあるドライブ
購入時は約85000kmの上物の個体だ。
購入から1年間で約11000kmを走行したという現在も車体は隅々まで磨かれ、その美しさは新車から間もない頃の姿を想像するのは難しくない。
車体自体は基本的にオリジナルを保ちつつもインテグラが生まれた時代を反映し、ダイバーシティアンテナやハイマウントストップランプの装着を行いモディファイされている。
タイヤは復刻版のアドバンタイプDとBBSのホイールで引き締まった印象だ。
内装はオーディオ類がこだわりポイントだ。
アルパインのデッキとイコライザーとアンプ、スピーカーは同年代のもので揃え、CDプレーヤーのディスクマンと車載のテレビ、芳香剤のポピーやカップホルダーなどのアクセサリー系が置かれトータルコーディネートされている。
「車内の雰囲気づくりとして、目に見える部分に現代的なものをなるべく置かないように心がけています。インテグラを所有し始めてからは夜の都心や首都高をゆったりと走らせるのがあっていると感じ、そんなドライブに出かける機会も増えるようになりました」
▲内装にも時代を感じさせるアイテムを配置。色味なども揃えられ、雰囲気を全体的に高めている。
いざとなればVTECが目を覚まし、その本性を覗かせるのもインテグラも、情緒的な雰囲気を纏い大人な走りができるのもまた魅力といえるだろう。
最後にrainforceさんに今後の愛車への付き合い方について伺ってみた。
「ホンダ初のVTEC搭載車ということで、文化財…とまでは行かなくてもできるだけ長く楽しめるようにしたいと思います。とはいえ、しまい込むことはなく適度に楽しみながら動態保存していきたいと感じています」
幼少期の憧れから、時代感を閉じ込めたタイムマシーンへ。時代を超えていくインテグラがこの先もエネルギッシュに走っていく姿を期待してしまうものだ。
[ライター・撮影/TUNA]