年々高くなる税金に燃料代...。
ネオ・クラシックな趣味車の値段はここ近年特に高くなり「ああ、あのとき買っておけば...」なんてことも多々ある。
とはいっても、自分の身体は一つしかなく、生活のなかでクルマを楽しめる時間は意外と僅か。
家族とのライフスタイルなどなど、さまざまな制約と限られた時間のなかでマイカーを愛でるひとときはもはや至福の時間といっていい。
今回、紹介する優さんは筆者が10年ほど前に出会い、以前スカイライン セダンのオーナーとしてインタビューをさせていただいたオーナーさんだ。
22歳でスカイラインを購入した青年は1児の父となり、生活を彩る風景も大きく変わったことだろう。
家族とカーライフを両立しながらも、現在は所有して3年目となるホンダ・インテグラタイプS(2006年式)を所有。
独身だった20代前半から子持ちのアラサーへ...。
ひとりのクルマ好きの近況と情景を切り取ってみたくなり、再度インタビューを申し込むことにした。
■「今乗っておきたいクルマ」という気持ちの赴くままに・・・
優さんは今年で32歳になる。
中学時代に雑誌で眺めたFR車の姿や、当時の恩師からの影響もあり、スポーツタイプの車両への興味は少年時代から強かった。
先述の通り、22歳で初代愛車の日産・スカイライン セダン(R34型) 25GT-Xを購入。
スカイラインを所有して4年程経過したころ、昔から乗ってみたかったMT車を所有するために運転免許の限定解除を行って、マツダ・ロードスター(NB型)を購入。
夢のFR車2台体制が実現する。
月極駐車場を2台分借り、無敵の独身貴族を味わいながらFR車を乗り比べる蜜月を過ごしていた優さんだったが、28歳のときにめでたく結婚。
奥様の愛車だったスズキ・ワゴンRスティングレーと3台体制となる。
「結婚をしてからもクルマ好きは諦められないと思う...ということは先に断りを入れておきながらも、車高の低い車を2台・軽自動車1台を所有するのは持て余し始めていました」
幸いなことに、奥様はクルマ趣味に理解のある方で「気が済むまで所有していれば良い」との言葉をかけてくれていたそうだが、将来的に生まれる第一子のためにも2台の乗用車を1台にまとめ、ワゴンRを別のクルマに入れ替える”所有車一斉入れ替え”を検討し始めた。
メインカーの予算は150万円までで、”とにかく奇麗なこと”と“今、この時代に乗っておきたいクルマ”を最優先。
2000年代に発売されたモデルで、気持ちの赴くままリストアップを行っていったとか。
■趣味車とメインカーの関係性
クルマ好きが次期愛車となる候補を探す時間は格別な期間といえるだろう。
会社の同僚を誘い、県内の中古車店をウキウキで行脚する姿を奥さまは「お年玉をもらった少年のようだった」と表現する。
「最初は4ドアで利便性の高い(?)インプレッサWRXやランサー セダンが候補に入っていました。他にもルノー・ルーテシアやオデッセイのアブソルートなど、実用と興味を兼ね備えた車種をノージャンルで探していたのですが、広すぎる選択肢のせいで大きく迷い始めてしまいました」
▲丸型のテールがオーナー氏のお気に入り。ローウィングスポイラーはタイプRにも設定はあるが、大人っぽい雰囲気がクーペスタイルを惹きたてる
そんな最中、新車ディーラーで気に入ったN-BOXカスタムをワゴンRと衝動的に入れ替えることとなる。
「新車の軽自動車はこんなに快適なのか...」と感銘を受けた優さん。
スライドドアに先進装備の数々。
「子育てをするなら、むしろファーストカーはこれでいいのでは?」とすら思えるほど。
それなら、いっそのことボディタイプに制限を設けずに選んでみようと考えた優さんの脳裏に、キラキラと煌めきを放ちはじめた1台のモデルがあった。
それがホンダ・インテグラだった。
■「タイプS」であることは絶対にゆずれない
「知人たちがアコードやシビックに乗っていて、2000年代のホンダ車にある雰囲気にずっと惹かれていました」
中古車を探し始めた2020年のころでも、走行距離の少ない、しかもMTのインテグラを見つけるのは時間がかかった。
しかし、幸いにもホンダディーラーの中古車でワンオーナーの個体を手に入れることができた。
▲タイプSに専用意匠の部品は多いがメーターもそのひとつ。基本デザインは似ていながらも、タコメーターは8000回転までとなり、ロゴもタイプS専用だ
美しいボディには大きな傷もなく、ヘッドランプの交換だけで新車当時を偲ばせる雰囲気を取り戻している。
「走りや操作感もさることながら、内装の仕上げにおける海外を意識した作りが妙にカッコいいと思えまして...あえてタイトなタイプRではなく後期型のタイプSにこだわりました」
華美ではないが、スッキリとした雰囲気の良い空間が漂う内装。
3ドアクーペでありながら、窮屈ではない居住空間。
なるほど、現地仕様にコンバージョンを行わなくてもアメリカンな雰囲気を感じずにはいられない。
▲ドライバーオリエンテッドなコクピット。ステアリングはMOMOの本革巻き
隅々まで磨き上げられたエンジンルームにはK20A DOHC i-VTECが積まれる。
のびやかなエンジンフィールは、目を三角に尖らせなくても充分に気持ちの良いドライブを楽しませてくれそうだ。
「自分は子煩悩であるとも自覚してるんですが、時々ひとりになりたい時間もやっぱりあるんです。そんなとき、近所にあるワインディングを抜けて、缶コーヒーを飲み海沿いを走って帰ってくる。行って帰っても1時間程度の息抜きなんですが、最高の贅沢だと思っています。駐車場で振り返ったときにインテグラを眺めていると脳が喜んでいるのがわかりますね(笑)」
▲エンジンは2リッター、160psを発揮するK20A。軽やかなエンジンフィールは扱いやすく、心地よいドライブのお供に最適だ
所有して3年目になるインテグラには小さな故障もほとんどなく、ノートラブルで優さんのカーライフを楽しませている。
ノーマル然とした佇まいを愛する優さんにとって、今この姿が理想的な完成形だ。
インタビューの最後に今後の愛車との付き合い方について伺ってみることにした。
「理想的な個体に出会え、数年経った今でも飽きることはありません。ただ、人生のなかであと何台のクルマを所有できるだろうか...とふいに思ったりもします。家族と営む生活と同じように、自分のクルマに対する経験値も大事にしていきたいと考えているので、何かのきっかけがあればまた愛車探しの時期がやってくるのかもしれませんね」
そんなことをいいながらも、優さんは愛車のリアビューを眺めては顔を綻ばせている。
まだまだ愛しのインテグラとの生活は続きそうだな...と筆者は予感しながらも、この先、優さんの目の前にどんなカーライフがさらに広がっていくのか。
今から楽しみでならない。
[ライター・撮影/TUNA]