多くの人々を魅了するホンダのスポーツカーは歴史が長く、1964年に発売されたオープンカー、S600は市販車でありながら、9500回転まで回せる超高回転型エンジンを搭載していました。上まで回るエンジンと、荷室が広々使える革新的な技術で当時は話題を呼び、今でも根強い人気がある車です。
今回はホンダのスポーツカーS600のレーシーな性能と、中古車相場についてご紹介します。
S600は世界を目指したオープンスポーツ
ホンダ S600はFR駆動のオープンカーとして、1964年3月に発売。もともとは自動車産業発展のために、そして「世界一でなければ意味がない」という本田宗一郎氏の言葉のもと、スポーツカーを開発したのが始まりでした。
1962年、ホンダは第9回全日本自動車ショーにて排気量354ccのDOHCエンジンを搭載したスポーツカーS360を出展。2シーターオープンのスポーツカーは話題を呼び、市販化が期待されましたが、当時制定された法案によりS360は発売に至りませんでした。
しかし、翌1963年10月には、水冷直列4気筒DOHCエンジンを搭載した2シーターオープンカーS500を発売。最高出力44PSというS500のパワー不足を補うため、そのわずか5か月後には排気量を531ccから606ccにアップしたS600を登場させます。
S660まで続いたSシリーズ
二輪で培ったホンダの技術が注ぎ込まれたS600は、小排気量でありながら、高回転・高出力なエンジンを搭載し、当時のドライバーには「エスロク」の愛称で親しまれました。
その後は1965年にクーペモデルを追加、排気量を791ccまでアップしたS800を1966年に発売。そして2リッターVTECエンジンを搭載したS2000、2022年3月に販売を終了するS660と、これまでホンダは、オープンカー「Sシリーズ」を展開してきました。
当時のリッターカーにも負けない走行性能
当時はOHVが当たり前のなか、S600は直列4気筒DOHCエンジンを採用。4連キャブレーター、各部専用パーツを使用するなど、当時の市販車としてはレーシーかつ革新的な機構を採用していました。
見た目こそS500とほとんど変わりませんが、エンジンシリンダーのボア、ストロークは拡大され、最高出力は13psアップの57PS/8,500rpm。最高速度145㎞/hという数字は、当時の1200ccクラスにも匹敵するほどのスピードを誇ります。
そして、当時のユーザーから「時計のように精密」と評され、9,500rpmまで回るエンジンは、驚くほど精密に組まれていました。
革新的なチェーン駆動システムで荷室は広々
ほかの車にはないS600の特徴的な部分として、リアのチェーン駆動システムが有名です。
S600の荷室スペースを広くとりたかったホンダは、収納を妨げる後軸付近の機構を移設することを考えます。
まず、後軸付近にある燃料タンク、デフなどを後部座席の後ろに移動。デフから横方向に伸びる2本の駆動シャフトは、後軸中心を避けるようにリアタイヤ内側のアルミケースへと繋がっています。そして、アルミケース内部の油浸チェーンがデフからの駆動力を受けることで、リアタイヤを回転させるという仕組みです。
結果、後軸中心にスペースが空き、当時の小型車としては広く、機能的な荷室空間を確保することに成功しました。
海外でも人気のS600は価格高騰傾向?
S600は50年以上前に販売されたクラシックカーですが、海外のオークションではまだまだ熱が冷めやらず、高騰の一途を辿っています。
あるオークションでは50回以上入札されたのち、76,125ドル、日本円で約840万円(執筆時点のレート)という価格で落札されたほど。これはオークションの最低落札価格の54,600ドル(約602万円)よりも40%近く上昇しており、S600の価値が上昇していることがわかります。
中古車である以上、S600の車体在庫はこれからますます減っていき、それと同時に希少価値も上がっていくので、今後のオークションでの落札価格は10万ドル(約1,100万円)を超える可能性があるかもしれません。
S600の中古車相場と買取価格
S600の市場価格を国内の大手中古車サイトで調べたところ、2020年9月時点で走行距離不明の1966年式の個体が333万円。最高値のものだと、同じく走行距離不明の1965年式、クーペタイプのボディで458万円となっていました。
国内での在庫は9台ありましたが、走行距離が不明の個体が多く、購入を考えている場合は実車確認が必須になってくるでしょう。一方、旧車王での買取価格はオープンタイプ、クーペタイプどちらも100~300万円となっています。
S600は半世紀以上前の車ということもあり、各箇所のサビや電装系の不具合など、さまざま問題が考えられるので、売却の際はショップなどで一度点検してもらうのが良いでしょう。
まとめ
「世界一でなければ意味がない」という本田宗一郎氏の言葉にあるとおり、妥協のないクオリティで登場したS600は、国内だけでなく海外にもその名を轟かせました。
超高回転型エンジンは、その後の可変バルブタイミング機構「VTEC」によってさらに進化を遂げ、ホンダ製スポーツカーの印象を世に知らしめることとなります。
そんなS600は今や国内に残っているのはごくわずかであり、海外需要が高まれば価格高騰もあり得るので、購入の際は早めに動くのが吉かもしれません。
[ライター/増田真吾]
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