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ドイツでは、あえて古い年代のクラシックカーを好んで乗る人がとても多いのです。
筆者の住むベルリンでも例外はなく、街で見かけない日はありません。
クルマに限らず、歴史的建造物を現代に残して別の用途で再利用したり、アンティーク家具や骨董品も同様に人気があります。
古きよきものを大切にする文化が根付いているドイツならではともいえますが、中世ヨーロッパの風情が残る街並みに、クラシックカーはとても美しく映えます。
そんなクラシックカーの中でも「ヒストリックカー」と呼ばれる、特別なクラシックカーがあることを知っているでしょうか?
「ヒストリックカー」とは、製造年数が古く、状態の良さなどいくつかの条件を満たしたクラシックカーを指しますが、認定を受けたクルマには「Hナンバー」と呼ばれる専用ナンバープレートが与えられます。
「H」とはドイツ語の“Historisch(ヒストリック)”からきており、“歴史的”という意味を持ちます。
また、単に古いというだけでなく、税金や車検が優遇されるといった特典もあります。
世界的にEV化に注目が集まる2020年代においても「ヒストリックカー」の認定を受けるクルマが増え続けているドイツですが、そこにはどんな理由があるのでしょうか?
先に述べた古いものを大事にする文化や、税金の優遇以外にもメリットがあるのでしょうか?
では、「ヒストリックカー」と「Hナンバー」について、詳しく深掘りしていきましょう。
■ 1.ドイツにおける「ヒストリックカー」の定義とは?
「ヒストリックカー」の制度は、古き良きクルマを文化遺産として現世に残そうという目的のもと、1997年に導入されました。
製造から30年以上経過しており、オリジナルの状態を保持している、もしくは現代的に修復された状態の良いクルマのことを「ヒストリックカー」と呼びます。
■2.「Hナンバー」とは?
「ヒストリックカー」には、正式名称「Kennzeichen historischer Fahrzeuge(歴史的工業遺産)」、通称「Hナンバー」と呼ばれる専用のプレートがついています。
見た目は普通のナンバープレートと変わりませんが、末尾にヒストリックの意味を記した「H」が入っているのが特徴です。
■3. 資格が得られる条件は?
クラシックカーに限らず、どんなクルマであっても当然ではありますが、まず自動車保険に加入しており、車検が有効でなければなりません。
一般検査(StVZO第29条に基づく)と、専門家による車輌の整備状態や保存状態の査定を行ない、その証明となるクラシックカーレポートを取得する必要があります。
ボディ、フレーム、ドライブトレイン、ブレーキシステム、ホイール、タイヤ、電気システムなどが主な査定対象となります。
必要書類をすべて揃えて登録事務所へ提出し、基準を満たしていた場合に限り、「Hナンバー」が取得できます。
■4. どんなメリットが?
「Hナンバー」のついたヒストリックカーは、税金や車検などが優遇されるといった特別なメリットがあります。
所有者は文化財保護者として扱われ、排気量にかかわらず、年間の自動車税が一律で191.73ユーロ(約30,000円)に抑えることができます。
また、都市ごとに設定されている環境規制にしばられることがありません。
さらに「シーズンナンバー」という使用期間限定ナンバーも用意されています。
これは「Hナンバー」と「シーズンナンバー」を組み合わせて年間の税金を12ヵ月で割り、使用期間分のみの税金を支払えばいい仕組みです。
温暖な季節にしか乗らないなど、通年使用しないオーナーにとってはありがたいですね。
■5.人気の「ヒストリックカー」は?
ドイツにおける不動の1位ともいえるのが、やはりメルセデス・ベンツの「W123」シリーズです。
連邦自動車交通局(KBA)が2022年に発表した結果ですが、街中でもいちばんよく見かけます。
続く2位は、同じくドイツメーカーで、街でもよく見かけるフォルクスワーゲン ビートル。
「ヒストリックカー」の登録比率が78%となっており、所有者の8割近くが「Hナンバー」を取得していることがわかります。
3位は、同じくフォルクスワーゲンからバスがランクイン。
通称ワーゲンバスと呼ばれており、初代の「T1」から「T2」「T3」「T4」とシリーズ化され、モデルチェンジを繰り返してきました。
ツートーンカラーのレトロなデザインが愛らしい「T1」「T2」が最も人気です。
上位3位以外では、ポルシェがランクインしており、「ヒストリックカー」においても圧倒的にドイツの国産車が人気のようです。
■6.EV化が進むなかにおける「ヒストリックカー」の立ち位置
ドイツでは、温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指していることから、2030年までにEVの登録台数を最低1,500万台にするといった高い目標を掲げています。
2022年にドイツ自動車産業連合会(VDA)が発表した結果によると、バッテリー式電気自動車(BEV)とプラグインハイブリッド車(PHEV)が88万4,576台(42.9%増)という、脅威の台数を叩き出しています。
しかし、ここまで増えた要因の1つは、4万ユーロ以下のEVに対して9,000ユーロの補助金が出ていたこと。
経済問題などから補助金が削減されて以降、EV市場は縮小傾向にあり、大手のフォルクスワーゲンは減産にシフトしました。
対する「ヒストリックカー」ですが、「Hナンバー」制度が設けられた1997年当時の保有台数は、翌年1998年までの間でわずか18,000台でした。
その後、2008年には16万台に増え、2020年代に入ると50万台以上にも増えました。
ヒストリック人気の裏では、フォルクスワーゲンのビートルがEVに改造され販売されるという、これまでにない動きを見せています。
名車と呼ばれるクラシックカーたちが、現代のライフスタイルや環境問題改善のために変わっていくのは避けられないのかもしれません。
今後、それぞれの台数がどのように変化していくか注目していきたいですね。
[ライター・Kana / 画像・Kana, Mercedes-benz]