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普通の人なら、ネジなんてドライバーかスパナで回せば緩むんじゃないの?と思われるかもしれません。
ですが、旧車王ヒストリアの取材対象になるような年式のクルマの場合、長年の使用でネジ山の隙間に埃が詰まったり、何度も再塗装されたために塗料が固着したり、ネジ同士が錆び付いたりなど、緩めることが困難になることが往々にしてあります。
その際に、無理にネジを回そうとしてネジの頭部分を破損する、いわゆる「ネジをナメる」ことで回せなくなったり、ネジが中で折れてしまいネジが取れなくなるという事があります。
■基本は緩めるネジにあった工具を使い、強引に回さない
ナベネジ、皿ネジの場合は必ず頭の切れ込みの大きさにあったドライバーを選びます。
切れ込みに入ればいいと小さいドライバーで無理に大きなネジを回そうとすると、切れ込みを破損する「ナメる」原因になります。
六角ボルトの場合はなるべくメガネレンチ、ソケットレンチを使います。
片口スパナやモンキーレンチは「ナメる」原因になります。
どうしてもスパナがやソケットレンチが入らない場所、手持ちに合うサイズが無い場合など、やむを得ない理由がある時以外は極力使わないようにしてください。
■固着したネジの緩め方
まずは、CRCなどの浸透性潤滑剤をネジに吹き付けます。
鍋ネジ、皿ネジの場合、切れ込みに合った貫通ドライバーをあて、ドライバー後端をハンマーで叩いて打撃を与えると、かなりの高確率でネジが回ります。
打撃を回転力に変えることでネジを回す「インパクトドライバー」という工具も存在します。
自分でクルマを弄る人なら持っておいて損は無い工具です。
六角ボルトの場合は、同様にCRCを吹き付け、大き目のマイナス貫通ドライバーをボルトにあて、同じ要領で打撃を与えます。
ネジが回り出したら、無理に最後まで回そうとせず、回りにくくなったら一旦そこで止め、逆方向(締める方向)に回します。
この緩める・締めるの動作を繰り返しているうちに、ネジ山に詰まっているサビやチリが剥がれ、CRCが浸透していきます。
次第に回転角度が大きくなり、回転も軽くなり、最終的にネジを外すことができます。
DIYのお供として、CRCやMD-40などの浸透性潤滑剤が必須アイテムなのは言うまでもありません。
摺動部の潤滑よりも、固着部分の潤滑剤としてのほうが重要という方も多いと思います。
最近は「凍結浸透ルブ」という、ボルトを凍結収縮させることでサビや固着部分にクラックを入れ、潤滑剤を浸透させやすくするスプレーもあります。
■ネジの頭をナメてしまった場合の緩め方
ドライバーやスパナがネジの頭の切れ込みや角をえぐり取ったときのグニッとした感触は、なんともいやな物です。
プラスネジの場合は、糸ノコやディスクグラインダーでネジの頭に切れ目を入れ、マイナスドライバーで緩めるという方法があります。
六角ボルトの場合、もしも12角のメガネレンチかソケットでボルト・ナットの角をナメかけた!と思ったら、即作業を中止して、6角のメガネレンチかソケットで作業を再開してください。
12角よりも6角の方が、ボルト・ナットに対する接触面が増えるためです。
ボルト・ナットの角が少しえぐれた程度なら、6角のメガネレンチでボルト全体を回せば持ち堪えてくれる可能性はまだまだあります。
完全にネジの頭が潰れてしまい、ドライバーもスパナ・レンチでは回せなくなった場合、バイスプライヤー、ロッキングプライヤーと呼ばれているプライヤーで直接ネジを掴んで回します。
バイスプライヤーは鋼鈑やパーツを貼り合わせるときの仮止めにもよく使うので、2~3種類は持っておいて良い工具だと思います。
■破損したネジを外す専用工具を使う
最近は「ネジザウルス」という、破損したネジを緩める専用のプライヤーもあります。
ネジザウルスブランドを展開する「株式会社エンジニア」では、「ネジレスQ」という外れなくなったネジを外すための相談も受け付けています。
ネジの頭が完全に破損したり折れてしまった際は「エキストラクター」という工具を使います。
逆タップとも呼ばれ、テーパー型のタップに左回りのネジ山が切られています。
ナメてしまったネジの頭にドリルで垂直に穴をあけ、エキストラクターを左回転でねじ込んでいきます。
ポンチで位置決めをしてから、細いドリルで垂直に穴を開け、順番にドリル径を大きくしていきます。
ボルトに開けた穴にエキストラクターを差し込み「左回り」に回転させると、折れたネジが抜けるハズなのですが、撮影時はうまくいかず、ネジ山を別の方法で再生させました。
その様子が次項です。
■いっそネジに工具を直接溶接してしまう
溶接機を持ってる人限定ですが、余っている工具や不要になった工具を、ネジに直接溶接してしまうという方法もあります。
熱を加えることで、膨張、収縮を繰り返し、固着部分が剥がれるという効果も期待できます。
いずれの方法を用いてもネジが緩みも外れもしないとなれば、あとはドリルやボール盤でネジをもみ切り、修正タップやリコイルヘリサートを使ってネジを再生することになります。
次回はネジの再生手段について書きたいと思います。
[ライター・画像 / 鈴木 修一郎]