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前回は固着したネジの緩め方について書きましたが、今回はやむを得ずネジ山を破損してしまった場合の「ネジ山再生方法に」ついてご紹介いたします。
旧車がメインのWebメディアとしては随分地味な内容が多い筆者ですが、全国のさまざまなイベントで雄姿を見ることのできるクラシックカーには、こうした地道な作業を伴うオーナーの努力の上に成り立っているということも、ぜひ頭の片隅に入れて置いていただけると幸いです。
*記事の内容は個人の見解でもあるので、作業は自己責任でお願いいたします。
■修正タップをたてる
完全にネジ山が潰れてしまったわけでもなく、一部残っている。あるいは、カジリやネジ山が変形したボルトを抜いたことで一部変形してしまったときは、同じサイズのタップを経てることで修正することができます。
もしナット側のネジ山が変形して、同じサイズのボルトが回らないくらいきつくなったときは、無理に締め込もうとしないで一度修正タップをたててみましょう。
ネジ穴に固着したボルトが折れて残ってしまい、ドリルで「もいでいく」際は、ドリル径を少しずつ大きくしていきます。
ネジ径の8割くらいのドリルまで使ったら、あとは元のネジ穴と同サイズのタップを立てれば再生できます。
ネジを切るための正確な「下穴径」は、「ネジ 下穴」で検索すると一覧表が出ますが、概ねネジ径×0.8前後と覚えておくと便利です。
長年使っていなくてサビや埃でネジ山が埋まってしまったり、再塗装や再メッキで嵌めあいがきつくなってしまった場合にも修正タップは有効です。
自動車用のネジの場合、嵌めあいの精度は、手でボルト・ナットが抵抗なく回せるくらいが目安だそうです。
修正タップは市販のタップセットを揃えるのが簡単ですが、よく使うサイズは奮発してスパイラルタップを用意しておくといいかもしれません。
タップハンドルもセットに入ってるタップハンドルの他に、チャック式の小型のハンドルも用意しておくと便利です。
■ナッターを使う
クルマに限らずDIYで何かを作ったり、リノベーションを楽しんでいる人なら持っておいて損はないツールに「リベッター・ナッター」があります。
本来「リベット」や「カシメ」で薄板同士を固定する役割なのですが、ナッターとして使えば、板の外側から反対側にナットをカシメて固定することができるという優れモノです。
裏側に手が入らないところにパーツや板材をネジ止めするときに重宝します。
本来はM4のナベネジで車体側の外接ナットで固定できるはずのスバル 360のテールランプ。
しかし、筆者が入手した時点では下側のネジ山が潰れていて、長年上側のネジだけで固定している状態でした。
この際、ナッターでネジの再生をすべく、まずは6mmの下穴を開けます。
「ブラインドナット」と呼ばれるカシメ型のナットを、「マンドレル」と呼ばれるネジを切ったシャフトに取り付けます。
下穴にマンドレルに取り付けたブラインドナットを、差し込み穴に対してマンドレルが垂直を保っている状態でグリップをしっかり握ります。
ブラインドナットをカシメてからマンドレル後ろのツマミを左に回して、ナットからシャフトを抜けば完成です。
これで、外接ナットが復活。
普通にM4サイズのビスで固定できるようになりました。
ブラインドナットを「カシメる」際は、グリップの手ごたえが変わったところで、少し力を入れて動かなくなったあたりで止めるという微妙な力加減が必要です。
引きが足らなければナットの固定ができず、引きすぎたらシャフトが抜けてネジ山を潰してしまいます。
最初は適当な薄板で練習して慣れる必要があるかもしれません。
■ある程度自分で機関部のDIYメカをしたい、クラシックカーのレストアをしたいという人はリコイルヘリサートを
「リコイルヘリサート」は、エンジンブロックやバンパーステーの雌ネジ部分が潰れてしまった際にネジ山を復活させる道具です。
最近は、アマゾンやアリエクスプレスなどでM5、M6、M8、M10、M12の補修キットが買えます。
アメリカ車、英国車のオーナーは、更に奮発してユニファイネジ対応のリコイルヘリサートキットを買っておけばもう万全でしょう。
かいつまんで説明すると、潰れた雌ネジを一旦ドリルでもみ切り、特殊なサイズのタップで一回り大き目のネジ山を切り、内側がネジ山と同じサイズ・形状・ピッチになっているコイルを挿入し、雌ネジを再生する工具です。
▲写真はM6サイズ用コイルの下穴
まずは、ネジ山を再生するコイルインサートを入れるために、潰れたネジ穴に付属のドリルで指定のサイズの下穴を開けます。
次に、付属の指定のタップでコイルインサート(M6)を入れるためのネジ山を切ります。
中央の引きばねのようなコイルですが、内側はM6サイズのナットのネジ山と同じ形状になっています。
数字の7のような形をしたハンドルの先に切り欠きがあり、コイルの中のまっすぐな部分をひっかけます。
先ほどタップを切ったネジ穴に、ハンドルに取り付けたコイルを入れ右方向(時計回り)にハンドルを回し、コイルを挿入します。
反対側からコイルの先が出ないところで止めます。
コイルを挿入したらハンドルを抜き、コイルを入れた方向から、今度は付属の丸棒を勢いよく差し込み、コイルの余分な部分を折ります。
この際、反対側からコイルが飛び出した状態で折ろうとするとコイルが伸びて変形し、ボルトが入りにくくなってしまいます。
こうなったときは、コイルの伸びた方をラジオペンチか先の細いプライヤーでつまんでコイルを引き抜き、もう一度新しいコイルを挿入してください。
表側は多少飛び出していても、ボルトを締めこめば飛び出している部分も中に入っていきます。
■工具と技術は必要ではあるものの、潰れたネジ山を再生する方法はある
腕のいいメカニックなら「そもそもネジを壊さず外す」なんていいますが、古いクルマをいじっているとなかなかそうはいかないものです。
普通はネジを破損してしまったとなれば途方に暮れるかもしれません。
しかし、少々高いスキルを要し危険も伴う作業もありますが、ネジを再生することは可能です。
DIYメカニックでワンステップ高いところ目指してみるなら、ネジの修正方法を覚えておくのも悪くないかと思います。
ただし、作業には危険が伴います。
指定の手順で、ときには工具店のスタッフ等詳しい人の指示のもと、くれぐれも無理はしないでくださいね。
技量に自信がなければ最初からプロにお願いするなど、安全には配慮をお願いします。
[ライター・画像 / 鈴木 修一郎]