軽量なのに剛性の高いボディと追従性の高い足回りによって、FFながらハンドリングマシンと称されることもあるホンダ DC2型 インテグラ タイプR。NSXに続く、タイプRシリーズ第2弾として誕生しました。
NSXとは価格帯が全く異なる車種にも関わらず、FFピュアスポーツとして高い完成度を誇るモデルです。インテグラ タイプRのアイデンティティともいえる、高いハンドリング性能の秘密とモデルによる違いを詳しく紹介します。
タイプRという称号にふさわしい完成度
DC2型 インテグラ タイプRは、わずか1.8Lのエンジンで駆動方式はFFという点ではベース車輌と同様です。タイプR第1弾として登場したNSXを考えると、ピュアスポーツと呼ぶにはやや迫力不足に感じます。
しかし、タイプRという称号にふさわしく、ピュアスポーツとしての性能を徹底的に追求したモデルです。インテグラ タイプRの開発陣がこだわったポイントを詳しくみていきましょう。
FFとは思えないハンドリング性能
1995年に登場したDC2型 インテグラ タイプRは、動力性能以上にFFとは思えないハンドリング性能に注目されました。駆動輪が前輪のFFは、元来アンダーステアリングといわれています。しかし、インテグラ タイプRのコーナリング性能は、後輪駆動車よりも曲がると評されるほどでした。
足回りはダンパー、スプリング、スタビライザーをそれぞれ強化。特に、リアのスプリングレートは、1.25倍~2.2倍にまで引き上げられています。車高をノーマル車輌から15mm下げたことと合わせて、余計なロールを発生させないダイレクトなハンドリング性能を実現しました。
また、パフォーマンスロッドの追加や板厚の増加などによって、各部のボディ剛性が徹底的に高められているのもタイプRの特徴です。ドライバーのステアリング操作に対するクルマ全体のレスポンスが、細部にわたって徹底的に追求されています。
60点以上もの新設計パーツを使った「B18C 96 spec R」エンジン
200馬力の大台を実現したタイプRの「B18C 96 spec R」エンジンには、60点以上もの新開発された専用パーツが使われています。リッター当たり100馬力を超え、自然吸気エンジンとして最高ともいえるB18Cエンジンの性能を極限まで引き出しました。
B18C 96 spec Rのチューニング内容は、単に吸排気の見直しといった表面的な部分にとどまりません。ピストンの形状変更による圧縮比アップ、バルブの軽量化といった内部も徹底的に見直されました。さらに、高回転型エンジンの特性を最大限発揮できるよう、トランスミッションもクロスレシオのものに更新されています。
初の「庶民が買えるタイプR」
インテグラ タイプRが人気を集めた理由は、実はもう1つあります。わずか222万8,000円(3ドア)という、一般的なクルマと変わらない価格設定です。タイプRとして最初に登場したNSXの価格は、1,000万円を超えていました。性能面を考えると十分バーゲン価格なのですが、庶民の手の届く価格ではありません。
しかし、インテグラ タイプRはNSXと同様にこだわり抜いた設計思想でありながら、多くの人が手にできる価格で発売されました。また、3ドアタイプだけでなくDB8型の4ドアハードトップが用意されていたことも、インテグラ タイプRが一般層に支持された理由です。単純に性能面だけを考えるとドアの枚数が少ないほうが有利ですが、日常的な使い勝手を考えると4ドアに軍配があがります。実は、同車種のタイプRで複数のボディタイプが用意されていたのは、現在のところDC2型/DB8型だけです。多くの人に高性能車を届けたい、というホンダの思いがあったのかもしれません。
好みのわかれる3つのスペック
DC2型(DB8型)インテグラ タイプRは、登場時の初期型も含めて合計3モデルが作られました。基本的には後発モデルのほうが性能や装備は向上しているのですが、初期型のピーキーな乗り心地を好むドライバーも一定数います。
96Spec、98Spec、00Spec(99Spec)それぞれの違いをみていきましょう。
世間を驚かせた初期型の96Spec
エンジンはベース車輌と同型のB18C型ながら、最高出力は180psから200psにまで高められています。ターボのように劇的なパワーアップさせるのが難しい自然吸気エンジンで、10%以上もの出力向上は驚くべきことです。
FFとは思えないハンドリング性能、2L未満の自然吸気エンジンとは思えない高出力、そして価格とあらゆる面で世間を驚かせました。
安定性を高めた98Spec
98Specは、1998年にマイナーチェンジで登場しました。エンジン出力こそ変わらないものの、エキゾーストマニホールドやHIDヘッドライトなど、細部にわたって見直しが図られています。特に大きな変更点は、走行安定性に関わる部分です。
タイヤ幅を195mmから215mmワイド化しつつ、ホイールサイズも15インチから16インチに大径化されました。また、ブレーキローターも同じく大径化され、ホイールハブは4穴から5穴に変更されています。モノコックのさらなる剛性向上やファイナルギアレシオ、ECUも変更され、走行安定性が向上しました。
数字には現れない部分での性能向上が図られましたが、安定性よりも軽くキビキビとしたハンドリング性能を好むユーザーからは不評だったともいわれています。
内外装が拡充された00Spec(99Spec)
最終型として1999年末に登場したのが、00Spec(99Spec)です。性能面ではほぼ98Specと変わらないものの、内外装の充実が図られています。
まず、インテグラ タイプRだけの個性ともいえる、サンライトイエローが外装色に追加されました。また、内装も、外装色に合わせて黄色シート仕様が追加されています。
さらに、「タイプR・X」という、タイプRの上位グレードともいえるモデルが追加されました。スポーツペダルや専用カーボンパネルといった内装が追加されただけでなく、快適性を向上させる装備が数多く追加されているのもタイプR・Xの特徴です。キーレスエントリー、デジタルクロック、オートアンテナ、AM/FM電子チューナー&CDステレオ+6スピーカー、プライバシーガラス、電動格納式ドアミラーといった当時としては高級セダンなみともいえる快適装備が標準装備されていました。なお、サンライトイエローはタイプR・X専用カラーと誤解されがちですが、00SpecのタイプR全モデルで選択可能です。
実はあのシビック タイプRよりも売れた
インテグラ タイプR登場の2年後に発売されたEK9型 シビックタイプRは、「タイプR」のモデルではもっともなじみ深いモデルです。しかし、実際の販売台数はEK9型 シビック タイプRの約1万5,900台に対して、DC2型/DB8型 インテグラ タイプRは2倍以上の約3万4,500台に達しました。RV車の台頭でスポーツカーの販売台数が落ち込みつつあったことも考えると、驚異的な販売台数です。
200万円あまりという破格の価格設定と、FFピュアスポーツとしての性能の高さが多くのユーザーの心を掴んだのでしょう。また、現在でも、DC2型/DB8型 インテグラ タイプRの人気は衰えていません。特に00Specで追加されたサンライトイエローは人気で、他色よりも100万円高く買い取られることもあるようです。
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