コンパクトカーにカテゴライズされるいすゞ 2代目ジェミニは、絶対的に優れている性能や高級感はないのになぜか人の心をひきつけるクルマです。パリの街をデートしているかのように、2台のジェミニがピッタリと寄り添って走るCMを記憶している人も多いのではないでしょうか。
「街の遊撃手」というキャッチコピーで登場し、軽快な走りで人気となったいすゞ 2代目ジェミニの歴史と魅力を振り返ってみましょう。
いすゞの乗用車で最大の成功をおさめた2代目ジェミニ
現在はトラックや実用車を中心に生産しているいすゞですが、かつては国内有数の自動車メーカーとして乗用車の開発、販売も手掛けていました。特に、2代目ジェミニはいすゞ最大のヒット作です。総生産台数は74万8,216台にものぼり、大成功をおさめました。
2代目ジェミニの誕生の歴史を、当時話題となったテレビCMも含めて振り返ってみましょう。
初代が販売を継続するなか自社開発に踏み切った
2代目ジェミニは、初代がまだ販売されていた1985年に登場。GM主導で開発された初代に対し、2代目ジェミニは「クオリティコンパクト」をコンセプトにいすゞが自社開発しました。駆動方式も、FRからFFに改められています。新開発の1.5L直列4気筒SOHCエンジンが搭載され、4ドアセダンと3ドアハッチバックが用意されていました。
エクステリアデザインは、イタルデザインの創業者でありデザイナーのジョルジェット・ジウジアーロが手掛けました。ジウジアーロのデザインの特徴である直線基調のボディラインからは、ハンドリング性能の歯切れのよさが感じられます。
なお、初代と併売される形で投入されたため、2代目ジェミニは当初「FFジェミニ」という名称で販売されていました。
パリで撮影されたCMが大きな話題を呼んだ
2代目ジェミニが注目を集めたきっかけは、パリで撮影された前代未聞のテレビCMでした。棒でつないだように2台がピッタリと横付けしたドリフト走行、息のあったスピンターンや片輪走行などトップスタントチームのドライビングで、ジェミニがパリの街を駆け抜けます。軽快でキビキビしたハンドリングが魅力の、ジェミニの特徴を見事に表現したCMでした。
また、ロケ場所のユニークさも、CM人気が高まった理由の1つです。凱旋門前の通りやパリの石畳、さらには地下鉄の駅でもスタント走行シーンが撮影されました。人気とともに複数のバージョンのCMが制作されますが、いずれも一糸乱れぬ編隊走行を披露しており、見応え十分です。
パリの街並みにあった優雅で軽快な音楽も、CMに華を添えていました。花のワルツやラデツキー行進曲、オー・シャンゼリゼといったなじみのある曲が使われています。
人気の中心は追加されたスポーツモデル
CMで話題となった2代目ジェミニですが、標準車のスペックはそれほど高いとはいえませんでした。人気の中心になったのは、性能を向上させたスポーツモデルです。
特に、イギリスの名門メーカー、ロータスとタッグを組んだZZハンドリング・バイ・ロータスは高い人気を集めました。
2種の追加モデルを投入
2代目ジェミニは、発売後に相次いでハイスペックのスポーツモデルが投入されます。最初に登場したのは、標準エンジンにターボを搭載したイルムシャーです。1.5LのSOHC2バルブエンジンながら、最高出力120psを発揮しました。
続いて1988年に投入されたZZハンドリング・バイ・ロータスは、ロータスが足回りのチューニングを施したモデルです。新開発の高回転型NAエンジンを搭載し、ホットモデルのイルムシャーに対して、上品でゆとりのあるキャラクターのモデルでした。
高回転エンジンとしなやかな足回りのZZハンドリング・バイ・ロータス
ZZハンドリング・バイ・ロータスには、7,200回転で最高出力135psを発揮する新開発の1.6L直列4気筒DOHC16バルブエンジンが搭載されていました。ほぼ同時期に販売されていたトヨタ AE86 カローラレビン(トレノ)(1987年に販売終了)が130psだったことを考えると、十分なスペックだったことがわかります。
ロータスによるサスペンションのチューニングは、ロードホールディングと乗り心地を両立させる方針で施されました。強化ブッシュやモノチューブタイプのガス封入式ダンパーなどによって、走りの上質さが徹底的に高められています。
追加グレードでより洗練されたZZハンドリング・バイ・ロータス
ZZハンドリング・バイ・ロータスは、性能面だけでなく内外装もスポーティに仕上げられています。フェンダーアーチには標準車にはないモールが取り付けられ特別感を演出、さらにBBS製ホイールもオプションで選べました。
内装では、MOMO製のステアリングに加え、レカロ製のシート(フロント)を標準装備。161万円という強気の価格設定にも関わらず、大ヒットを記録しました。
なお、1989年6月にはセダン限定ながら、ZZ-SEというさらなる豪華仕様のモデルが追加されています。オプション扱いだったBBS製アルミホイールを標準装備し、エクセーヌのレカロシートとBOSEスピーカーまで備わっていました。
乗用車から撤退したのに現在でも根強い人気
2代目ジェミニをヒットさせたものの後続モデルの販売が振るわず、いすゞは2002年を最後に乗用車から撤退しました。しかし、2代目ジェミニの人気は今も根強く、ZZハンドリング・バイ・ロータスは100万円以上の買取価格がつくこともあります。25年前の大衆車だと考えると、2代目ジェミニがいかに魅力的なクルマなのかうかがい知ることができます。
名門ロータスがチューニングしたスポーツモデルとはいえ、同時期の他車と比べても絶対的に優れた性能があるわけではありません。しかし、2代目ジェミニは今も多くの人の心に残り続けている名車です。ジウジアーロのデザイン、パリで撮影された印象的なCM、そして自社開発にこだわったいすゞの情熱、さまざまな要素が影響し合って魅力が高まったモデルだといえるでしょう。
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