はじめてマツダMX-81を見たとき、脳裏に浮かんだコンセプトカーとは

目次
1.■幕張メッセで目を奪われた、どこか見覚えがあるクルマ 2.■大胆なデザインを纏った「10年後のファミリア」 3.■ボルボ・ツンドラ、シトロエン・BX・・・。MX-81には「兄弟」がいる 4.■マツダ・MX-81をさらにモダンにしたコンセプト⁉ シトロエン・ザブリュ(Zabrus)

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■幕張メッセで目を奪われた、どこか見覚えがあるクルマ

4月に開催されたオートモビルカウンシル2023の会場で、多くのマニアが釘付けとなっていたマツダ・MX-81。

直線的でありつつも有機的なデザインを纏った古のコンセプトカーは、どこか見覚えがある佇まいをしていました。

ホイールには「design BERTONE」の文字。イタリアの名門カロッツェリア「ベルト一ネ」によってデザインされたことを主張する、楔形をした金色のボディは、私が好きな「ボルボ・ツンドラ(Tundra)」というコンセプトカーによく似たものでした。

しかし、マツダブースにボルボ車が展示されているはずがありません。

ボディ後部に回り込むと、ナンバープレートには「MX-81」と書かれていました。

私はそこではじめて、マツダ・MX-81というコンセプトカーの存在を知ったのです。

スポットライトに照らされた、ソリッドな面質が美しいボディラインに目を奪われて、何度もマツダブースを訪れました。

今日はそんなスタイリッシュなコンセプトカー、MX-81とベルト一ネ・デザインについて、少し考察してみようと思います。

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■大胆なデザインを纏った「10年後のファミリア」

まず、マツダ・MX-81について簡単にご紹介しましょう。

「10年後のファミリアはどうなっているか」をコンセプトとして制作されたのが、「マツダ・MX-81」です。当時のベルト一ネのチーフデザイナーであったマルク・デュシャンによるデザインは非常に先鋭的で、非常に低いベルトラインと広大なグラスエリア、ポップアップ式のヘッドライト、さらにはリアガラスに大きく沿うテールランプを備えた楔形のボディは、多くの人の記憶に残るものでした。

しかし、この大胆なデザインは、市販化に至ることはありませんでした。

内装はさらにエキセントリックで、運転席の目の前にそびえるのは大きなブラウン管のモニター。

幼い頃に実家のリビングルームにあった、大きな箱型のテレビを彷彿とさせるモニターをぐるっと囲むように配置されているのが、キャタピラ状のステアリング。画面を確認する視線を遮らない斬新な形状のステアリングは、MX-81の最大の特徴です。

ひし形の模様が入った布地のシートは回転式で、さらには助手席の前には大きな箱型の収納が備わり、機能的かつ大胆なインテリアが特徴的だったといえるでしょう。

■ボルボ・ツンドラ、シトロエン・BX・・・。MX-81には「兄弟」がいる

私がマツダ・MX-81をはじめて見たときに脳裏に浮かんだコンセプトカーが、ボルボ・ツンドラ。1979年にベルト一ネによって製作されたコンセプトカーです。

ゴールドの塗色が目を引く楔型のボディラインは、当時のベルト一ネのチーフデザイナーだったマルチェロ・ガンディーニによってデザインされたもので、リアサイドの上端が引き下げられたウィンドウが特徴的でした。

インテリアには、当時としては非常に珍しいデジタルパネルを横長に配置したダッシュボードが採用されました。

ガンディーニが提案した未来的なコンセプトカーは、積み木やレンガのように真四角なデザインが特徴的だった当時のボルボにとって、あまりに先鋭的であったといえるでしょう。

結果として、ボルボがタンドラの市販化にゴーサインを出すことはありませんでした。

しかし、この楔形をした金色のコンセプトカーは、後にさまざまな「兄弟」へと派生していくのです。

そのひとつが、今回の話題の中心でもあるマツダ・MX-81。

このコンセプトカーのデザイナーは、先ほどご紹介した通り、マルク・デュシャンという人物です。

デュシャンはマルチェロ・ガンディーニのアシスタントとして、ツンドラの制作過程を目の当たりにしていました。

1979年にガンディーニがベルト一ネから離れてフリーランスへと転ずる際に、その後任としてチーフへと昇格したデュシャン。

まもなくして開発が始まったのが、MX-81でした。

ゴールドの塗色が印象的な楔型のボディだけではなく、ボディを上下に二分する彫りの深いプレスライン、華奢なAピラー、ポップアップ式のヘッドライト、モニターを積極的に採用した未来的なダッシュボードなど、多くの共通項を持つツンドラとMX-81。

シャープで先鋭的なコンセプトカーを制作するうえで、デュシャンが先輩(ガンディーニ)から多くのインスピレーションを得ていたことは疑いようがありません。

そしてツンドラとMX-81は、ともに先鋭的過ぎるが故に、市販化が叶わなかった2台でもありました。

近い時期に同じカロッツェリアで制作されたこともあり、共通したDNAを数多く有している、MX-81とツンドラ。

その一方で、2台を見比べてみると、デザイン意図が大きく異なっている箇所を見つけることもできます。

もっとも大きな差異は、サイドウィンドウの形状。

ベルトラインが低く、非常に広大なグラスエリアを有するMX-81に対して、ツンドラはリア部分のウィンドウの上端が低く、天地が狭められているのです。

この特徴的なツンドラのCピラーは、また別の「異母兄弟」に引き継がれました。

それが、ガンディーニがベルトーネ在籍時代に最後に手掛けた、シトロエン・BX(1982年発売)です。

ボルボがツンドラの量産化に対して「ノー」を突き付けたのち、ガンディーニは“ベルト一ネ的インスピレーション”に満ちたツンドラのデザインを、シトロエン・BXのデザインに積極的に盛り込んだといわれています。

2台を見比べてみると、特徴的なリアサイドのウィンドウデザインだけではなく、丸みを排除した直線的なボディラインや平面的なフロントフード、華奢なAピラーにスクエアなフェンダーアーチ、大きく寝たリアウィンドウに「く」の字に折れ曲がったリアゲートなど、たくさんの共通したデザイン要素が見て取れます。

日の目を見なかったボルボ・タンドラの先鋭的なデザインは、シトロエンのもとで5ドアに引き延ばされ、多少の変更が加えられたのちに、遂に量産にありついたのです。

シトロエンは、革新的でエキセントリックで、常に独自の哲学を貫いてきた自動車メーカーです。

だからこそ、“ベルト一ネ的インスピレーション”に満ちた大胆なデザインを量産車に落とし込み、12年間で230万台以上を販売することができたのでしょう。

さて、ボルボで量産化されることがなかったツンドラですが、後にボルボは「ちょっとだけツンドラっぽい」クルマを販売していました。

それが、1985年に発売されたボルボ・480です。

ボルボで唯一リトラクタブル・ヘッドライトを備えているモデルとして知られています。

480の最終的なスタイリングを担当したのは、ダッチ(オランダ)・ボルボのデザインスタジオに所属していたデザイナー。

そのため、480は「ボルボ内製デザイン」のクルマであり、ベルト一ネ・デザインを纏っているわけではありません。

しかし、480の楔形のボディを特徴づける低いノーズや、フロントバンパー下部に配置されたグリル・エンブレム、そしてリアウィンドウの下に横長に伸びるテールランプなどの随所から、480のデザインが、ツンドラからインスピレーションを受けたものであることが伺えます。

480のデザインの成り立ちについて、正確には、「ベルト一ネがボルボ・スウェーデン本社と練ったデザインをベースに、オランダのデザイナーがスタイリングを完成させた」といわれています。

広義で捉えれば、480は(BXと並んで)“量産化したツンドラの姿”のひとつであり、マツダ・MX-81の遠い親戚のひとりであるともいえるでしょう。

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■マツダ・MX-81をさらにモダンにしたコンセプト⁉ シトロエン・ザブリュ(Zabrus)

ここまで、マツダ・MX-81を起点にして、デザインの源流をボルボ・ツンドラまで遡り、MX-81の「兄弟」と“ベルト一ネ的インスピレーション”について綴ってきました。

最後にご紹介するのは、ベルト一ネが1986年に設計した、シトロエン・ザブリュというコンセプトカー。

デザイナーは、MX-81と同じくマルク・デュシャンです。

このクルマ、どことなくMX-81の雰囲気を受け継いでいるように思えます。

全体のボディラインはMX-81よりもはるかに曲線的で未来感に溢れているものですが、細部に着目してみると、MX-81のDNAを随所に感じることができるのです。

楔形のボディを上下に分かつ深いプレスラインや、回転式のフロントシート、大きなモニターディスプレイを採用したダッシュボードなどMX-81に見られる特徴を“踏襲”しているザブリュ。

Cピラーをぐるっと囲むように配置された細長いウィンドウの形状は、MX-81のテールランプの形状とよく似ています。

その佇まいは、まるで「未来版・MX-81」のようだといいたくなります。

シトロエン・ザブリュをデザインする際に、デュシャンがMX-81のことをどれだけ意識したか、それは知る由もないことです。

しかし、未来的で大胆な “ベルト一ネ的インスピレーション”に溢れるクルマたちは、コンセプトカーや量産車を問わず、乗員への思いやりに溢れていることに気が付かされます。

乗降性に配慮した回転型のシートや、大きなモニターを採用した計器類、モニターを見る際に妨げとならないように設計されたステアリング、さらには大きなウィンドウガラスなど、“機能をデザインする”ことに対する挑戦の姿勢が窺えるのです。

だからこそ、マツダがオートモビルカウンシル2023にMX-81を出展したことには、大いなる意義があるのではないかと考えています。

美しく機能的なクルマを作ることへの挑戦の姿勢と、それに対する覚悟が垣間見える気がするのです。

[画像/VOLVO、Citroen、RENAULT・撮影/ライター 林 哲也]

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