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■スーパーカーたちと並んでも堂々として見えた国産スポーツカーの代表格
私が“フェアレディZ”と出会ったのは1970年代の末ごろ。
ランボルギーニやフェラーリ、マセラティなどのスタイリッシュなデザインをまとった“スーパーカー”たちが展示会場に集められ、スーパースターのように子供たちの憧れの視線を集めていた“スーパーカーブーム”のただ中でした。
どっぷりブームにハマっていた小学生の私は、親に買ってもらった大判のスーパーカーのグラビア本に毎日のように熱心に見入っていました。
その1ページを飾っていたのが、S30系・フェアレディZの1モデルである「240Z」でした。
特徴的なマルーンのボディ色に塗られたロケットを思わせる流線型のボディは、小学生の私にも美しく感じられ、並み居るイタリアのスーパーカーたちにも引けを取らない、堂々としたたたずまいが印象的でした。
日本人として誇らしい気持ちにさせてくれたのを覚えています。
■オトナになった目線で見直したフェアレディZの素顔
今回紹介する「S30系」の「フェアレディZ」は、「フェアレディ」としてはSR311/SP311型の「ダットサン・フェアレディ」に次ぐ2代目ですが、その後ずっと受け継がれていくことになる「フェアレディZ」としては初代のモデルになります。
その成り立ちは、北米市場を主軸として見据えた、世界戦略モデルの開発からでした。
軽量なボディ設計に始まり、高性能なヨーロッパ車ともレースでじゅうぶんに戦える足まわりを備え、高出力な直列6気筒エンジンが搭載されたことで、国際的な基準で見ても一線級の動力性能が与えられました。
外観は、ジャガーEタイプやMG-Bなど英国車のエッセンスを採り入れつつ、独自の個性をカタチにした優れたデザインにまとめられました。
それらの要素が相まって、当時の代表的な存在であったジャガーやポルシェなどのスポーツカーに負けない魅力と性能を備えながらリーズナブルな価格だったことも後押しして、かなりのヒットを記録したそうです。
しかしそれから30年以上経ち、オトナになってある程度冷静な目で「S30系・フェアレディZ」を見たところ、ローコストで制作された車輌という側面が浮かび上がってきました。
軽量なモノコックボディは、同時期に作られたスカイライン(ハコスカ)ほど手が込んでおらず、足まわりは前後とも安価に製造できるシンプルなストラット方式、エンジンは実用性の色が強いタフなつくりで、製造コストを抑える努力があちこちに感じられるものでした。
それは、フェアレディZがスーパーカーに肩を並べていたという印象のまま育った私にはショックなことでしたが、デザインは当時美しいと感じたままの魅力を変わらず備えていましたし、ローコストの設計とは思えない性能を達成した開発陣の創意工夫と努力には、むしろリスペクトが高まったほどでした。
■旧車ブームの立役者としてのフェアレディZ
今から約20年ほど前から盛り上がりを見せ始めた"旧車ブーム"のなかで、「ハコスカ(C10系・スカイライン)」との二枚看板でブームの火付け役となったのも、この「S30系・フェアレディZ」でした。
デビュー当時から、その流麗なデザインはスポーツカー好きの支持を集める大きな要因でしたが、それから40年以上経った今でも色あせずに、旧車ファンの心に刺さり続けていることが人気の大きな理由だと思います。
そしてそれと合わせて、搭載されている“L型エンジン”の存在も、もう一つの重要な要素ではないでしょうか。
発売当初も1,998ccで130馬力を発生して高性能ユニットと好評を得ていましたが、1980年代終盤から1990年代にかけての“ゼロヨンブーム”で盛んに競い合いが繰り広げられたおかげで、飛躍的にチューニング技術が進みました。
L型エンジンで最高排気量のL28型をベースに3.2Lまで排気量が拡大され、高度なチューニングが施された結果、300馬力をゆうに超える出力を発揮。
古い型式と言えるOHC(オーバーヘッド・カムシャフト)方式にも関わらず、当時の高性能の証といえるリッター100馬力オーバーを達成していたのです。
そんな背景が重なって、チューニング指向ではない人たちも憧れる存在として、新たに脚光を浴びることになりました。
■S30系・フェアレディZのインプレッション
S30系・フェアレディZの魅力は、何といってもまずデザインでしょう。
前に向かって鋭くなる流線形シルエットに加え、ロングノーズ&ショートデッキの“ファストバック”スタイルが、風を切り裂いて進むスポーツカーらしさをより強調させています。
エンジンは基本グレードのL20型(1,998cc)で130馬力。
あとから追加された「240Z」に搭載のL24型では、2,393ccで150馬力を発生。
今のクルマと比較すると心もとない数値ですが、実際に乗ってみると、L20型でも今の高速で気持ちよく走れる性能を有しているのに驚かされます。
それよりも特筆すべきは、数値には表れない回したときの気持ち良さです。
さすがに回転上昇の鋭さはそれほどではありませんが、直列6気筒特有のスムーズな回転フィーリングは、ぜひ味わっていただきたい部分です。
排気音よりもキャブレター特有の吸気音がよく聞こえるエンジン音も、今のクルマではけっして味わえない魅力の一つと言えるでしょう。
それらが相まって、どこか遠くにドライブしたくなる気持ちにさせてくれます。
室内を見てみましょう。
クラシックな雰囲気の中に、高性能さを感じさせる2眼+3眼メーターや、大径のウッドステアリングなどのスポーティな装備によって、欧州のGTカーを思わせる精悍な雰囲気を感じられます。
ハンドルはアシストのない、いわゆる“重ステ”なので、停止時の“据え切り”は少し覚悟して掛からないとなりませんが、慣れれば(真夏以外は)涼しい顔で回せるようになるでしょう。
シートの座り心地はお世辞にも良いとは言えませんが、適度に柔らかく、長距離でもそれほど心配することはないと思います。
それよりも印象的なのはその着座位置です。
ドアを開けて後ろに手を回すと、リヤタイヤに触れるくらい後方に位置するポジションは、走っていると背中にリヤタイヤの存在が感じられるようで、今のクルマに慣れた人には想像できない感覚を体験させてくれるでしょう。
■S30系・フェアレディZの豆知識
S30系のフェアレディZは、年式やグレードごとに何種類かに分類されますが、ざっくり括ると前期と後期に分けられます。
見分ける点はいくつもありますが、大きなところだと、まずはテールランプの形状です。
前期は“ワンテール”と呼ばれ、ストップ、ウインカー、バックの各ランプがひとつのユニットにまとまっています。
後期はバックランプが独立して、前期のワンテールに対して“ツーテール”と呼ばれています。
もう一つは内装のダッシュボードの形状です。前期/後期とも、ハンドル正面の速度/回転計の2眼と、ダッシュ中央上部の水温&油圧/電圧&燃料/時計の3眼メーター(年式、グレードにより例外あり)という構成は共通です。
異なる点はそのデザインで、前期は各メーターにヒサシが付いた、独立感のある有機的な造形が特徴です。
後期になると各メーターのヒサシはなくなり、全体的にややシャープ感のあるデザインに変更されます。
※年代やグレードでさらに細かく分類されるようですが、ここでは省略します。
ちなみに、“初期”と呼ばれる希少なモデルがあります。
その特徴は、リヤウインドウの後部に左右1対の細長い通気口があって、それが紳士のヒゲに見えることから、マニアの間では「ヒゲ付き」と呼ばれています。
次回は、フェアレディZの系譜とその魅力【S30系・中級編】をお届けする予定です。
どうぞお楽しみに。
[ライター・画像 / 往 機人]