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前回、旧車界のアイドル「S30型 フェアレディZ」の魅力をお伝えする「基本編」をお送りしました。
今回はその続きとなる「中級編」をお届けしようと思います。
みなさんは初代のフェアレディZというと、どんな姿を思い浮かべるでしょうか?
近年の旧車ブームから旧車に興味を持った人や、マンガの「悪魔のZ」が好きな人は、ショートノーズのスタイルを想像するでしょう。
その一方で、私のようにスーパーカーブームのころZに出会ったという人や、タミヤなどの模型で知ったという人などは、ノーズ先端が流線型に尖った「Gノーズ」を装着した「240Z」のスタイルを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
この、どちらがS30型のフェアレディZっぽいのか?というイメージは前述のように人それぞれで、おそらくそのまま好きなZの姿と一致しているのではないかと思います。
ちなみに私は「どちらも好き」です(笑)。
初めて見て心を奪われたのは240Zの流麗な姿でした。
前回お伝えしましたが、スーパーカーブームの時に、大判のスーパーカーの写真集に堂々と載っていたのがマルーン(あずき色)の「240z」でした。
ランボルギーニやフェラーリ、マセラティなどのスーパーカーに魅了されていた同級生達と写真集を囲みながら「おれはカウンタック!」「じゃあボクは512BBもらう!」なんてワイワイいい合っていたなか、それらのイタリアン・スーパーカーに後ろ髪を引かれつつ、「日本のフェアレディZもかっこいいよ!」と言った私に対して、周囲の反応は真っ二つに分かれたのを覚えています。
赤や黄色など華やかなボディカラーをまとった、いかにもエキセントリックな形のスーパーカー達に比べると、わりと身近な感じがするZのデザインとマルーンの地味なカラーは、少年達の心を奪うにはいささか物足りなかったのかもしれません。
ただその当時、そんな友達といっしょに自転車で走っているときにZとすれ違えば、やっぱり他の乗用車とは異なる存在感と、走る姿のカッコ良さに、しばらくみんなで見とれていたシーンも忘れられません(淡い記憶では、白の240Zだったと思います)。
そして時が経ち、オトナになってから改めて出会ったZは、ショートノーズでした。
オトナになった私の、子供時代からのZに対する印象をガラッと塗り替えてしまった車輌は、ゼロヨンのコースで現行車に負けない迫力の走りを見せつけていました。
その迫力と共に、ノーズの短いスッキリとしたスタイルリングが、私の心にしっかりその存在感を刻みつけたのでした。
■Gノーズ装着の「240Z」の誕生と根強い人気のワケ
「240Z」はS30系・フェアレディZの派生モデルの一つで、流線型のノーズカウルとリヤゲート後端のスポイラー、そしてリベット止めのオーバーフェンダーが装着された性能上位モデルとして、初期の発表から2年後にラインナップされました。
旧車ファンの間では「240(ニーヨンマル)」または「240Z」といえばGノーズ装着のモデルを指しますが、正式名は「フェアレディ240Z-G」となります。
さらにいうとこの「240Z」の元祖は、北米輸出仕様の「ダットサン240Z」です。
排気量が大きく広い土地を突っ走るアメリカ車の市場に食い込むため、1,998ccのL20型エンジンのボア&ストロークをアップして、2,393ccに拡大したL24型エンジンを搭載した左ハンドル仕様の車です。
意外と知らない人もいるかもしれませんが、「240Z-G」と同じ時期に、「ダットサン240Z」を逆輸入したようなショートノーズの「フェアレディ240Z」も併売されていました。
このGノーズは見掛けだけのものではなく、れっきとした空力パーツとして開発されたものです。
「240Z」同士でショートノーズの車両と最高速度(カタログ値)を比べると、ショートノーズ車の205km/hに対して、「240Z-G」は210km/hと5km/hアップしています。
参考までに、L20型搭載の初代フェアレディZの最高速は185km/hです。
当時は、カタログや雑誌で発表される最高速の数値を見てはスポーツカーのファン達が一喜一憂していた時代なので、この5km/hの差はけっこう大きいものでしたが、近年の300km/hオーバーが当たり前の時代では誤差のような数値でしかありません。
しかし、今の旧車ファンの心を捉えている要素はもはやそこではなく、やっぱりあの流麗なシルエットに惹かれて憧れたという人が多いのではないでしょうか。
■もうひとつの派生モデル「Z432」がいかに特別だったのか
当時の日産が力を入れていたのがレースで勝利することでした。
日本でもツーリングカーレースの観覧席が毎回満席になるほどの盛り上がりを見せていた時代で、フェアレディZのイメージアップのためにレースで勝つという目的で高性能モデルの「Z432」を投入しました。
レースで勝つための最大のポイントとなるエンジンは、当時合併したばかりのプリンス自動車が開発した、レース用エンジンとほぼ同じ設計である「S20型」が搭載されました。
「432」の由来は4バルブ・3キャブレター・2カムシャフトという意味で、今風に言うとDOHCの高性能設計エンジンに、競技用のスポーツ・キャブレターを装着、という感じです。
当時の国産車で4バルブ機構を持つエンジンは他に無く、160馬力というパワーは2000ccクラスのエンジンとしてはぶっちぎりの性能でした。
そのため、市販車を改造した車輌にもかかわらず、ほぼレース専用設計の車輌(ポルシェ908やフォードGT40など)とレースで互角に渡り合い、狙った以上のイメージアップを達成しました。
実物の「Z432」を見掛ける機会が何度かありましたが、そんな素性にもかかわらず、低回転での排気音は意外なほど静かで、「さすがに市販車はいろいろ規制されているんだな」と思いました。
しかし、エンジンの回転を上げたときにその印象はガラッと変わり、精密な部品が高回転でキレイに作動したときに生まれるキレイな高音を響かせていたのが印象に残っています。
■当時と今では人気の度合いがまるで逆!?4シーターの「2by2」
初代の発売から4年後に施行された「48年排出ガス規制」によって、高出力なモデルが直撃を受け、「240z」や「Z432」がカタログから姿を消していきました。
そんななかで追加されたのが、ボディ中程を延長して4シーターにした「2by2」です。
イメージリーダーだった高性能モデルが無くなり、活気が削がれた感のある販売状況でしたが、この「2by2」がカンフル剤として効き、フェアレディZの売り上げをV字回復させました。
当時のフェアレディZは2シーターだたっため、一部の限られた層にしか需要がありませんでしたが、この4シーター化によってファミリー層にも需要が広がったのです。
その結果、S30系全体で最も多くの販売台数を記録したモデルとなったそうです。
しかしこの人気は近年の旧車ブームになると真逆といって良い状況になってしまいます。
美しいフォルムを持つ昔のスポーツカーというイメージで見たときに、「2by2」の長いフォルムが野暮ったく受け取られ、一転して不人気車扱いになってしまったのです。
昨今に目を向けると、フェラーリやポルシェの4シーターモデルがひとつのジャンルを確立している状況もありますが、趣味のクルマとしてのS30系・フェアレディZはやっぱりカッコ良さが第一、ということなのでしょう。
ちなみに、ここ数年の旧車ブームの様子を見ていると、徐々に「2by2」の人気が上向いてきた気配を感じます。
運転席に収まってしまえば2シーターのZと何ら景色は変わりませんし、趣味と実用性を兼ねて1台持ち、というスタイルの旧車ファンが「2by2」を求めるようになってきたようです。
■おわりに
この後は、昭和51(1978)年に施行され、さらに基準が厳しくなった「51年排出ガス規制」に対応させるため、キャブレターだった燃料供給装置がインジェクションに置き換わったり、触媒の装着など排気ガス規制対策デバイスが追加されました。
さらにパワーウインドウの導入などの電動化が始まったりと、細部に変更が加えられましたが、昭和53年に次期モデルの「S130系」にバトンタッチされ、生産が終了となりました。
世界全体では55万台もの数が生産されて、歴代のZの中でもトップと言われるS30系・フェアレディZですが、現存する台数は見る影もありません。
昨今は、手に入らないといわれていた外装パーツのリビルド品も増えてきたようで、ダメージを受けても修理が容易になってきたようです。
とはいえ、まだまだ替えが効かないパーツも多くあります。
ドライブに出掛けた後は水分を飛ばしてやるなど、できるだけケアをおこない、末永く一緒に過ごせるように目を掛けてあげてください。
次回はフェアレディZの系譜とその魅力【S30系・マニアック編】をお届けする予定です。
お楽しみに。
[ライター・往 機人 / 画像・日産]