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2023年現在、100年に一度の転換期といわれている。
自動運転が開発され、新型車には電気自動車も多くなってきた。
そんな環境のなか、旧車と呼ばれる年代のクルマを、新たな愛車として選ぶ方も多くいる。
なぜ新たな愛車として迎え入れたのか?
新たにオーナーとなられた方にお話を伺った。
■根っからの日産フリークなファミリー
今回、お話を伺ったのは、親子で旧車を愛車としているご家族だ。
お父さまは日産スカイラインGT-R(R32型)を所有しつつ、最近日産パルサー VZ-R(N15型)を通勤メインのクルマとして購入したのだとか。
長男である息子さんは、お父さまと同じ型のスカイライン GT-Rを所有されている。
今回お話を伺うことはできなかったが、次男の息子さんは、日産フェアレディZ(Z33型)にお乗りとのことだ。
おわかりの通り、大の日産フリークなご家族なのだ(笑)。
今回、パルサーVZ-Rを購入されたお父さまの内容となる。
今所有されているクルマについて伺った。
「R32スカイラインGT-Rは2008年頃、知人が手放す車両を購入しました。それまで、DR30 スカイラインRSターボに乗っていたのですが、やはりGT-Rには一度は乗っておきたいという思いを持っていたため、意を決して乗り換えました」
やはり、多くのクルマ好きが一度は憧れる、GT-R。
日産フリークであり、憧れを持っていた方にとって、そんな縁談の話は願ったり叶ったりに違いないだろう。
最近購入された、パルサーについて伺った。
「パルサーは半年ほど前、中古車店で購入しました。通勤で使っていたK12マーチからの買い替えになります」
なぜ、今まで乗られていたマーチより古い、パルサーに乗り換えられたのか?
「パルサーVZ-Rも、いつか乗りたいと思っていました。今回の購入時には、VZ-Rしか考えていませんでした」
そこまでの熱い思いを持たれているには理由があるはず。
さらに詳しく伺ってみた。
「昔、耐久レースに日産のワークスとしてVZ-Rが出てました。その時にびっくりするほど速かったんです。」
筆者も、当時VZ-Rがレースに出ていたのは知っていた。
しかし、残念ながらまだ幼かった筆者は、実際にレースシーンを見る機会がなかった。
レースでの活躍を、生で見た感想も聞くことができた。
「そのレースでは、当時の愛車と同じDR30のRSターボも出走していたのですが、VZ-Rが立ち上がりの加速で離れていっちゃうんですよ。テンロク(1.6L)なのに。それが衝撃でしたね」
「まだ幼かった、息子二人も観戦していたのですが『お父さんのクルマを抜いてった!』と驚いていましたよ!」
幼い息子さんにとっても、父親が乗っている身近な存在である同型のスカイラインが抜かれてしまったことは、記憶に残っているそうだ。
「特に次男がカルチャーショックだったようでして、のちに免許を取って最初に買ったクルマがVZ-Rでした(笑)」
現在、Z33にお乗りの息子さん。
幼心に受けた衝撃がきっかけとなったのか、最初の愛車として3ドアのパルサーVZ-Rを選び、腕を磨いていたそうだ。
VZ-R購入時、他に候補のクルマはあったのか?
「なかったですね。VZ-Rだけでした。最近のスポーツモデルの中古車も同価格帯でありましたが、候補には入っていませんでした」
なぜ、指名買いだったのか?
「この年代(90年代)のクルマって、個性があるじゃないですか。そこに惹かれてました。この頃って、各社ライバルメーカーのクルマに勝ってやろう!とかラリーで優勝してやろう!とか、攻めの姿勢だったのが良いですよね。VZ-RにもN1という仕様もありましたし」
■心がけているのは予防整備
ここからは、購入後のエピソードについて。
すでにR32 スカイラインGT-Rもお持ちなので、経験は豊富だ。
今までの経験を踏まえ、納車後におこなった整備があるとのこと。
「GT-Rでも同じことを心掛けているのですが、出先で不動にならないよう、予防整備をしています。今回、納車後にオルタネータや点火系などの交換をしました。燃料系はまだなのですが、ここもやっておけば心配は減りますね」
予防整備としては、かなり手厚い部類と思う。
中古車である為、今までの扱われ方が分からないことは多い。
“無事に帰宅する”これは事故に限ったことではなく、忘れがちではあるが整備についても、重要なことと思う。
マイナーな不具合に見舞われたこともあるそうだ。
「タコメーターが動かなくなってしまう症状が出てしまいました。メーター交換をしようと思ったものの、VZ-R専用メーターはすでに製造廃止。標準グレードの物はまだ手に入ったので、メーター修理専門のお店に修理を依頼しました。新しいメーターから故障した部品を移植して、専用メーターを直してもらいました」
「他にも調べると在庫が残り1個の物が多く、気になるところは交換しました」
その行動力と決断に恐れ入ってしまう。
90年代車は多くの「グレード専用部品」がある。
その部品自体の新品はなくとも、流用や移植で修理が可能であり、専門店もあることには驚いた。
■カスタムも長期の目で見た安心感を
次にこだわりの部分について伺った。
「本当は3ドアが欲しかったのですが、タマ数も減っており、値段も息子が購入したときの1.5倍になっていました。そのなかで見つけたのが今の愛車です」
パルサーVZ-Rにはボディ形状は3タイプある。
4ドアセダン、3ドアハッチバック、5ドアハッチバック。
程度と金額から5ドアハッチバックを購入されたとのことだが、最初拝見した時に違和感があった。
「5ドアはRVブームもあって、フロントバンパーがRVっぽいデザインになっています。それが、ちょっと好みと合わなかったため、3ドアVZ-Rのバンパーに交換しました」
話を伺って、違和感の理由がわかったのだった。
VZ-Rが新車で販売されていたころ、世間はRVブームであった。
そのため、パルサーの5ドアにはRVテイストを与えていた。
そのデザインのまま、VZ-R専用エンジンを載せて販売していたのだ。
他にも、リアのスポイラーをオーテックバージョンの物に変更されている。
交換する際、標準装備のスポイラーと取付穴の位置が合わなかった。
バックゲートを別途中古で購入、穴を開け直してから交換されたそうだ。
従来の穴を埋めることによる、トラブルを避ける為のこだわりが表れていた。
また、マフラーも購入時は社外の物が装着されていたが、純正採用の実績があるフジツボ製に交換されたとのこと。
■ぜひ、そのクルマのことを理解して乗って欲しい!
これから、90年代のクルマに乗ろうと思っている方へ、何かアドバイスがあるか伺ってみた。
「せっかく乗るなら、そのクルマのことを理解して、少しでもいいので勉強して乗ってもらいたいですね。もし、ネームバリューだけで乗りたいと思っているのでしたら、良い結果とならないことが多いので、やめた方がよいと思います」
90年代のクルマは、まだまだ現役で走っている個体も多く、街中でも目にするだろう。
映画やアニメなどでフューチャーされることや、過去の映像作品も動画サイトで目にするだろう。
そこでクルマの名前を知り、同じクルマに乗りたい!と思う人は多くいる。
いつまでも現役で、人気で居続けることは嬉しいことだ。
ただ、そのクルマのことを理解せずに乗った時、旧いが故に現代の感覚と違うことはもちろん、トラブルも発生する。
理想と違うことが起きた時、大きく落胆するだろう。
しかし、ほんの少しでも、そのクルマについて知る努力をしたことで、感じ方は変わってくる。
「せっかく憧れのクルマを愛車としたのに、残念な思い出となってもらいたくない」
そんな思いのこもった言葉だった。
■ 総括 メーカー同士、意地の張り合いに熱くなっていた時代
今回お話を伺ってわかった、現代にあえて旧車を選ぶ理由。
そこには、デビュー当時の活躍を目の当たりにしてきた方ならではの理由があった。
各メーカーのスポーツモデルには、明確な意識をしているライバルがいた。
そのクルマたちは、ワークスとして戦うレースに留まらず、そのクルマを選んだオーナー同士もお互いを意識し合い、サーキットなどで性能をぶつけ合っていたのだ。
ユーザーも含め、ライバルに秀でるよう切磋琢磨していた時代を見てきたオーナーならではの、熱さを感じるための選択であったと知ることができた取材となった。
[撮影&ライター・お杉]