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昨今の旧車ブームによって、旧いクルマに対してにわかに興味を持たれた方は多いことだろう。
これまでもお伝えしてきた通り、旧車には現代のクルマにはない魅力があるのは紛れもない事実である。
しかし、相手は最低でも20~30年落ちのクルマだ。
快適装備をこれでもか!と装備した現代のクルマと同じように扱えるとは到底思えない。
同じように感じる方は少なくないだろう。
旧車に憧れはあっても、実際に手に入れようとすると、どうしても購入をためらってしまうことは決して不思議なことではない。
クルマは自身の生活の一部分になるものだ。
初めて旧車を購入しようとする方にとって、旧いクルマを一筋縄に扱えるか、不安なことこの上ないものだろう。
筆者自身、プロ・アマチュアにかかわらず、数多くの旧車愛好家とお付き合いをさせていただいている。
これらの観点および自身の経験も含め、これから旧車を購入予定の方に少しでも参考になるように、愛車を末永く維持して旧車ライフを満喫できるヒケツを紹介したい。
■旧車の不便な部分とは?
▲エアコンが備わる前の旧いクルマ独特の装備、三角窓
この記事をご覧のあなたは旧車、すなわち旧いクルマは現代のクルマに比べて、何かと不便な部分が多いイメージをお持ちではないだろうか?
当時を知る由もない、とくに20代の若いオーナーにとっては、憧れの旧車とはいえ、自身が生まれる前のクルマの購入を考えたときに悩みがちな部分であろう。
ある程度、歳を重ねたベテランオーナーには当たり前のことかもしれないが、ここで具体的にどのような部分が不便なのか、ここで一例を挙げてみよう。
●「エアコン・パワステ・パワーウィンドウ」が装備されていない
昭和や平成初期の中古車には、「フル装備」と表示がされていたが、これは「エアコン・パワステ・パワーウィンドウ」の3点を指す。
ある一定の年代より旧いクルマは、これらが備わらない車種が多いため、快適性能からして劣るイメージを持たれる方が多いよう感じるが、まずこの部分から考えてみよう。
なお、エアコンについては後述する。
パワステ(パワーステアリング)については備わらなくとも、カスタムなどで極端に太いタイヤを履かせていたり、小径ステアリングを装着していない限りは、それほど困ることはないだろう。
ステアリング操作の軽い現代車に慣れてしまっていると、やや旧車への抵抗感を感じるかもしれない。
しかし、クルマが停車した状態で無理に据え切りをせずに、少しでもクルマが動いている状態でステアリングを切るなど、当時、誰もが行っていた運転方法に慣れれば、それほど苦にならないはずだ。
思えば、筆者の母も当時細い腕で、ノンパワステのVWゴルフを転がしていたものだ。
次に、パワーウィンドウが備わらないクルマについて述べよう。
よく、パワー(いるんです)ウィンドウなどと揶揄されるが、そんなことはない。
レギュレーター周りのメンテナンスがしっかり行き届いていれば、窓の開閉が重いということはまずないはずだ。
むしろ筆者はクルマを修理する観点から、旧車にパワーウィンドウが装備されていると、逆に身構えてしまう。
まずパワーウィンドウの開閉スイッチは、そもそも旧車でなくとも壊れる可能性が高い部品であるし、経年劣化によりモーターやレギュレーターが傷んでいるクルマが多い割には、部品の供給を心配しないといけない部分でもある。
偏った考えではあるが、パワーウィンドウが備わらないことで、イグニッションスイッチがオフの状態、さらにバッテリーが上がっている状態でも窓の開閉ができるといえば、これは意味メリットではなかろうか?
パワステにしても、パワーウィンドウにしても、無くてもなんとかなるものではないだろうか?
最後にエアコンについて述べる。
エアコン(エアーコンディショナー)とは、その名の通り、空気を調整する機能だ。
クーラーとヒーター両方の風を混合(ミックス)し、室内空間をドライバーにとって快適な温度と湿度に調整する機能がエアコンである。
少なくとも70年代前半までのクルマには、エアコンという概念がないクルマが数多く存在する。
ヒーターと三角窓(画像参照)のみ備わるのだ。
旧車であれば、現代のクルマには絶対にない三角窓やクロッチクーラー(外気取り入れ口)といった装備がある。
これらはドライバーの体感温度をそれなりに下げてくれるが、気温40℃を超えることもある昨今の猛暑では完全に役不足だ。
旧車にはクーラーのみ後付けできることが多い。
これは当時からの贅沢な手段ともいえる。
旧車にクーラー装着はエンジンに悪影響があり、NGという意見もあることは確かだ。
しかし、昨今のクーラーキットは旧来のものに比べ、コンパクトかつ性能が良く、とても冷えるものが多い。
高額な装備ではあるが、検討してみても良いと思う。
●現代のクルマでは当たり前のものが装備されていない
その他、旧車にはナビやドライブレコーダーはおろか、ETCも後付けが当たり前、ドリンクホルダーなども当然のごとく備わらない。
リモコンドアロックなど、もっての外だ。
シートについてもフルフラットはおろか、ある年代より旧くなるとリクライニングすらできない車種もある。
ビジュアル面からのイメージが先行して、こういった部分を知らずに旧車を購入してしまい後悔したという話もないわけではない。
■多少不便な部分があっても、まずは自分をクルマに合わせる
▲エアコンが備わらないクルマの、後付けクーラーの一例
ここまで、ほんの一部分ではあるが、旧車の不便な点を解説した。
今日は空前の旧車ブーム真っただなかであり、業界はとても賑やかだ。
旧車であっても、自分好みのカスタムを楽しんでいるオーナーは多く存在する。
なかには旧車カスタムの域を超え、旧車の不便な部分をフォローすべく、現代の最新デバイスを装着する例も決して珍しくはない。
極めればそれをレストカスタムとも、魔改造とも呼ぶ。
いかんせん旧車の構造は現代車に比べれば、とてもシンプルである。
例えば、クラシックな鉄板製のダッシュボードを切削加工して、最新の2DINナビを装着することも可能であろう。
リクライニングができないシートの代わりに、現代車のパワーシートをシートレールごと溶接して装着する方法だってある。
筆者も20代の頃は個人的に、このようなカスタムが好みであったが、皆さまはいかがお考えだろうか?
不便だからといってあまり深く考えず、これ見よがしに最新装備を旧車に移植するようでは、何のために旧車に乗っているのか分からない。
一度加工したものを元に戻すことはとても面倒である。
そもそも絶版となった部品はハード・トゥ・ファインドである場合が多く、失ったら最後、2度と手に入らないモノも多い。
決して、現代の装備を旧車に装着することを否定するわけではないが、その最新のデバイスが自身にとって本当に必要なものかを考えることも重要である。
多少不便な部分があっても、その当時の時代背景を考えることも、旧車趣味のひとつではなかろうか?
旧車に乗れば、現代車への進化の過程を身をもって体感できる。
なぜ、現代においてマニアがビートルズを真空管アンプとLPで聴く趣味があるのかを、よく考えてみたい。
旧車趣味も同じベクトルであるのは間違いないのだ。
なお、ベテランかつ通なオーナーは、あたかもそのクルマが新車のころのオプションを装着したかのように巧みにカスタマイズする。
筆者はこういった先輩オーナーの隠れたこだわりをみて、自分もまだまだであると感じるものである。
当時モノのモモやナルディーのステアリング、レカロシートなどが高額で売買される理由はここにある。
旧車と長く付き合いたいのであれば、自身にとって本当に足らないと感じたモノを後付けすれば良いのではなかろうか。
機能がなくなることで、その大切さやありがたみが分かってからでも決して遅くはないはずだ。
クルマを自分に合わせるのではなく、まず自分をクルマに合わせることが、ベテラン旧車オーナーへの道ではなかろうか。
■洗車をしたら、車庫にしまわずにドライブへ
旧車は磨きがいのあるクルマが多い。
旧いクルマはその佇まいこそが特別なものであり、一切カスタムせずとも存在感のあるクルマが多いものだ。
ボディーにしっかりワックスが乗りかかり、モールに磨きがかかっていれば、多少のキズヘコミがあろうとも、凛として見えるモノだ。
旧車を手に入れれば、クルマを磨くことも趣味の一つになることであろう。
ただ、一つここで注意を促したい。
雨を浴びたり、洗車後のクルマは、ボディ内側の至る部分に水分が溜まっている。
フェンダーやトランクの裏側、足回り、そしてフロアやドアの内側などだ。当然この部分は、手の届かない部分である。
タオルで水分を拭き上げることはまず不可能だ。
では、いったいどうすれば良いのか?
それは、クルマが水を浴びたらまずは走行してほしい。
クルマの内部は走行することで、至る部分で負圧が生まれる。
この負圧が、クルマに溜まった水分を吸い上げてくれるのだ。
旧いクルマは錆びるからといって、バケツに水を汲み、軽く絞ったタオルで吹き上げる。
いわゆるバケツ洗車を行うと、塗装に傷が入りやすい。
しっかりと水を使ってホコリを流したうえで、シャンプーで汚れを浮かし、入念に泡を流し、これを吹き上げる。
これこそ洗車の基本だ。
そのうえで、先述の通り、クルマを走らせることでしっかりと水を切りたい。
洗車後のドライブも、洗車の一工程といえるのだ。
ドライブから帰ってきたら、各部をグリスアップすれば完璧だ。
これも旧車維持のための必須事項だ(旧車のグリスアップについては以前の記事をぜひお目通しいただきたい)。
■目先のカスタムよりも、メカにお金をかける
▲旧車は一筋縄とはいえない。常にメンテナンスは念頭に入れておくべきだ
憧れのクルマを購入した次には、自分好みにカスタムをしたくなったり、アクセサリーを購入したくなる。
これは至極当然のことだ。
ただ少し待ってほしい。
購入したクルマのコンディションはいかがだろうか?
購入したクルマの見た目はキレイであっても、クルマの下回り、すなわちメカの状態が悪かったということは決して珍しい話ではない。
クルマを購入するときに、下回りを見て購入することはほとんどないことであろう。
また旧車の場合、車検切れなどで、試乗をせずに購入することも多いことだろう。
購入元がメンテナンスや修理に力を入れているショップであれば心配はないであろう。
しかし、これが販売専門のショップであったり、個人売買などでクルマを手に入れた場合、まずメンテナンスを引き受けてくれる工場を探すべきである。
購入したばかりの愛車が、次回の車検に問題なく合格できるとは限らない。
大きな費用がかかる場合もあれば、入手困難な部品が必要になる場合もある。
旧車は一筋縄では行かないとよくいわれるが、こういった場合に痛感することが多い。
カスタムは、購入したクルマが本当の意味で絶好調になってからでも遅くはない。
クルマを購入してから、少なくとも最初の車検を通すまでは、しっかりメンテナンスの予算を用意しておくべきだ。
■とにかくクルマに乗ろう!使用による傷はなんのその
▲さほど使用せずとも、家庭用充電器では完全放電したバッテリーの充電は難しい
どうしても愛車を大切にしている気持ちから、なかにはセカンドカーを購入し、クルマをガレージにしまいがちになるオーナーもいることだろう。
そして、それは筆者も同様だ。
色々な要因があると思う。
雨風に愛車をさらしたくないといった、至極単純なことから、燃料の高騰が叫ばれるなか、燃費が悪いため、ガソリン代がかさんだり、絶版部品が多く、できる限り事故に遭いたくなかったり・・・。
しかし、旧車を放置するとロクなことがない。
まず、キャブレター内のガソリンが劣化しエンジンが掛かりづらくなる。
さらに、ガソリンタンク内は結露が発生するため、ガソリンに水分が混じりやすい。
そしてこれがタンク内部の錆の原因となり、これが燃料ポンプの故障の原因ともなる。
タイヤは常に地面に接している部分に力がかかるので、丸いタイヤが四角く潰れる。
これがいわゆるフラットスポットだ。
このまま走ると、バタバタとした振動が不快なこと極まりない。
バッテリーも短命になる。
充電器を繋げれば良いと思われるかもしれないが、一般的な家庭用充電器は劣化して抵抗と化したバッテリーの過充電を避けるため、50%以上容量が消耗したと思われるバッテリーの充電を行わない。
バッテリーを交換するか、ブースターケーブルを繋げない限り、エンジンを始動できなくなってしまうのだ。
とにかく旧車は1週間に一度はエンジンに火を入れて、それなりの距離を走るべきだ。
旧車の日常使いはもったいないという意見を耳にするが、こればかりは肯定も否定もできない。
しかし、愛車のコンディションを隅から隅まで理解しているオーナーは、やはり日常使いをしている方が多い。
筆者もその傾向にあるのだが、どうしてもバッテリーを放電しがちなほどクルマに乗らないと、自身のクルマであっても、完調なのか不調なのか分かりづらくなってくる。
旧いクルマの扱いに長けたベテランの旧車オーナーは「やはりクルマは乗ってなんぼ」であることをよく理解している。
日常的に火が入るエンジンは、隅々までオイルが行き渡り、クランクの回りも軽くとても調子の良いものだ。
とにかく乗ることが、愛車の維持管理の近道であることは間違いない。
多少の傷など、何のその。
とにかくクルマは乗って楽しもうではないか!
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[ライター・撮影/クマダトシロー]