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最近のドイツではタクシー業界にある変化が起きている。
ドイツのタクシーといえば、ご存知の方も多いと思うがメルセデス・ベンツが大多数を占める。
著者が在住しているドイツのシュツットガルトでも、タクシーの9割近くはメルセデス・ベンツが使われている。
そんななか、最近のドイツタクシー業界で日本のあるクルマが人気である。
それは「トヨタ プリウスα」だ。
実際にベルリンやフランクフルトなどの大都市を訪れると、プリウスのタクシーを多く見かけることがある。
ではなぜ、トヨタのプリウス、しかもプリウスαがドイツのタクシーで人気なのか?
今回はその理由について解説していこう。
■メルセデス・ベンツのタクシーが大多数を占めているドイツ
前述でもお伝えしたとおり、ドイツのタクシーはメルセデス・ベンツEクラスが圧倒的シェアを占めている。
その背景として、メルセデス・ベンツは一般のカスタマーに販売する車両とは別に、法人向けのタクシー専用車両の販売も行っている。
これは一般の車両とは異なり、必要最低限の装備だけを残し、通常の販売価格から2〜3割程安く設定されているからだ。
加えてタクシー業務に必要な料金メーターなどが標準装備されているため、他社のクルマを購入し「イチから」タクシー車両に改造していくよりも圧倒的にコストが抑えられるようになっている。
さらにメルセデス・ベンツの強みは「快適な乗り心地と安全性」を重視した作りとなっている。
つまり「乗客を目的地まで移動するためにもっとも適したクルマ」ということもあり、結果的にヨーロッパ全体でタクシー車両として選ばれているのだ。
■日本のタクシー事情はというと
日本では主にトヨタ車がタクシーとして起用されており、一昔前まではクラウンが大多数を占めていた。
これはドイツでいうメルセデス・ベンツEクラスと同じ立ち位置になるだろう。
しかし日本も同様にここ数年でプリウスのタクシーが急増している。
トヨタは2017年にLPガスを燃料とするタクシー車両の生産を中止すると発表しており、加えてエコカーへの注目も高まってきたことから、コストなプリウスが採用されるケースもしばしばだ。
最近では、タクシー車両はクラウンからJPNタクシーやプリウスαへと置き換わりつつあるようだ。
■プリウスはタクシー車両に最適なクルマ?
プリウスαの初代は2011年5月から販売開始され、3代目プリウスのプラットフォームを採用したモデルだ。
ホイールベースは80mm延長され、後部座席はかなりゆとりある空間が確保されている。
タクシー車両として選ばれるクルマにはいくつかの共通点がある。
第一に重要視されるのは車両価格だろう。
プリウスαは比較的安価でありながら、十分な装備と乗り心地の良さを誇っている。
さらに価格帯の割に高級感があり、富裕層を乗せても違和感がなくタクシーとしては申し分ないスペックといっていいだろう。
次に重要視されるのがランニングコストである。
タクシーは当然個人で使用するクルマよりも遥かに長い距離を走行するため、かなりのランニングコストが掛かってくる。
ガソリン代は特に多額の費用が必要となるため、低燃費なクルマが重宝されている。
プリウスαはハイブリッドカーであるため航続可能距離も長く、加えて数年に一度のハイブリッド専用バッテリーの交換を除けば交換部品代もそこまで高額にはならないだろう。
■ドイツのタクシーでプリウスαが人気の理由
ではなぜ、ドイツにはタクシー専用のメルセデス・ベンツがあるにも関わらずプリウスαがここ数年で選ばれるようになったのか。
ここでドイツで生活をする著者も常々感じていることだが、急激なガソリン代の高騰である。
2022年12月現在のドイツでは、レギュラーガソリンが1L当たり(約320円)、ディーゼル(軽油)はさらに高く、1L当たり(約340円)となっている。
これは日本の約2倍の金額である。
ドイツのタクシー車両はディーゼルエンジンのクルマが多く、燃料代がこの価格ではかなりの痛手であることは間違いない。
加えてロシア・ウクライナ問題の影響もあり、収束の見通しが立たないなか、先行きが不安な状況が続いている。
こうした理由を背景に、低価格でありながら低燃費で乗り心地が良く、ランニングコストも非常に抑えられるトヨタのプリウスαが選ばれているのだ。
現状はヨーロッパ全体でガス代の高騰や電力の削減など生活に必要な公共料金の値上がりが激しさを増しており、今後とも厳しい状況が続くとされている。
数年後にはさらに多くの日本車タクシーを見かけることになるだろう。
果たしてこれが喜ばしいことなのかどうかは分からない。
しかし、日本車が世界でも絶大な信用を得ていることの裏付けだといえるのでは?と筆者は考えている。
[ライター・撮影/高岡ケン]