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取材を通じて、さまざまな20代のクルマ好きの方と知り合う機会がある。そして取材を終えるたびに、赤い彗星シャア・アズナブルことクワトロ・バジーナ大尉が機動戦士Zガンダムの劇中で放った「新しい時代を作るのは老人ではない!」の台詞が脳内でフラッシュバックする(「なんのこと?」と思ったら、友人知人のガンダム好きに聞いてみてください。喜んで教えてくれます)。
劇中のシャア(クワトロ・バジーナ)の年齢は27歳という設定。いまでこそ20代の発言とは思えないと感じるが、このシーンをリアルタイムで観たのは小学生のとき。当然ながらものすごく年上の人が発しているセリフに思えた。妙に大人びて見えたシャア(クワトロ・バジーナ)の「新しい時代を作るのは老人ではない!」の台詞は、小学生のガキンチョには理解不能で、いまだに記憶に残っているほどだ。そしていつの間にかアラフィフになってしまった現在、この台詞がボディーブローのように効いてくる。
なぜなら、20代のクルマ好きの人たちと話をしていると、もう、明らかに自分が新しい時代を作ろうとしている世代の人たちとは違う星?の住人であることをを否が応でもでも実感してしまうからだ。もちろん、この内容自体が老害発言であることは自覚しているつもりだが・・・。
敢えて自戒の念を込めて、ギャップに感じたことをいくつかまとめてみた。
■1.もしやインターネットの恩恵?初対面同士でも和気藹々
かつてプロ野球では、他球団の選手との交流(特にグラウンド上)は御法度だったという。しかし最近では、1塁ベース上で他球団の選手同士が楽しそうに会話をしている光景を見ることがある。WBCやオールスターなど、球団の枠を超えて同じチームで戦えば、チーム(ライバル球団)の垣根を超えて関係性がより深まるだろう。ましてや、お互いにライバルであっても敵ではないのだから、これはこれでいいのかもしれない。
翻ってクルマ界隈の話。かつて、走り屋が集まるようなスポットにやってくるクルマとそのオーナーたちは一匹狼的な人か、仲間同士でつるんでいるようなイメージがあった(もちろん、地域や場所によって違いはあると思いますが)。
しかし現在は、深夜のパーキングエリアなどに集まっている人たちを見ていると、初対面同士でも和気藹々と楽しそうに話している。事実、カッコいいと思ったクルマの所有車と思しき若い人に筆者が話し掛けてみて素っ気ない(いわゆる塩対応)だったことはほとんどといっていいほどなかった。むしろ、お父さん世代の方が「話し掛けるなオーラ」が出ていることが多い気がする。
■2.リア充度高め
一昔前のクルマ好きというと、男同士でつるんで女性とは縁遠い…というケースも珍しくなかったように思う。手塩に掛けて造り上げた愛車を手放し、結婚資金や指輪代に充てたというエピソードを、数え切れないほど聞かされた。人はこうして大人になっていくのだろうか・・・。
(単なる偶然かもしれないが)取材先で知り合う20代のクルマ好きの人たちの仲間に、女の子が混じっていることが多い(しかもかわいい子が多い!)。フットサルやポケモンGOなど、さまざまな娯楽のひとつにクルマ趣味があって、アングラ臭がしないのだ。彼氏がクルマ好きで、仕方なくついてきている(なので機嫌悪い)・・・そんな時代を経験してきた身としてはうらやましい限りだ。
■3.見た目やんちゃだけど、バリバリ稼いでいる
ちょっといかついクルマに乗っていて、昔だったら明らかにやんちゃな格好をしている人に取材するべく話し掛けることがある。正直「この人に話し掛けて大丈夫かなあ」と思うこともある。ところが、いざ話し掛けてみると、拍子抜けするくらいものすごく好青年で、しかもかなりディープなクルマ好きだったりする。見掛けで判断してはダメだなと猛省した次第だ。
ちょっといかついクルマに仕上げるまでの試行錯誤やこだわりも興味深い。絶妙な車高を導き出し、実用性を兼ね備えるまでいかに大変だったとか、愛車に掛けるこだわりだとか、かなりの研究を重ねていることが分かる。「若いし、独身だから無茶できるんでしょ?」というおじさん世代からのイヤミが聞こえてきそうだが、さにあらず。妻子がいて、ローンを組んで家を持ち、仕事もバリバリこなしているような方も少なくない。
「昔は結構やんちゃしてたっスけどね」といいつつ、バリバリを仕事をこなし、実際、結構稼いでいるようだ。そうでなければ、家族を支え、マイホームを手に入れて、なおかつ現行モデルのトヨタ アルファードにフルエアロは組めないだろう。仮に共働きだったとしても、たとえ残クレで手に入れたとしても、それなりに稼ぎと社会的な信用(きちんとローンが組める)がなければこの構図は成り立たない。「将来、独立して稼げるようになったら、ベンツのSクラスを新車で買ってみたいっスよね」も、ビックマウスでもなんでもなく、数年後にはあっさりと実現していそうな気がする。
■4.原体験で決まる。父親がクルマ好き
話を伺っていると、父親がクルマ好きで、気づけば自分も…という方が多い。泣かせるエピソードとして、ステアリングや追加メーターなど、父親が若いときに愛用していた部品を受け継ぎ、自分の愛車に取り付けているという方が何人もいた。反面、父親がクルマ好きで、息子さんはさっぱり興味なし、というケースも少なくない。その分岐点はどこにあるのだろうか?ちょっと本気で研究してみたい。
父親が憧れや尊敬の対象であったり、大人になったいまでも良好な親子関係を築き、会えばエンドレスでクルマ談義。目下、電車大好きの5才の息子がクルマ好きになってくれるかは未知数だけど、仕事で借りてきたクルマを見せたり、助手席に乗せたりするなどの「原体験」になるような種まきはしているのだが、果たして・・・。
■まとめ:いつの時代も「新しい時代を作るのは老人ではない?」
かつてNHKで放映されて、最近になって復活した「プロジェクトX」。放送開始から割と初期の段階で「執念の逆転劇 世界を驚かせた一台の車/名社長と闘った若手社員たち」という特集が組まれた。要約すると、アメリカの排ガス規制法である「マスキー法」に、ホンダの当時の若手社員が奮起してCVCCエンジンを開発し、見事世界で初めてクリアするというストーリーだ。当時の社長であった本田宗一郎は、手塩に掛けて育ててきた若者たちの成長した姿を見るにつけ、その座を退いたという。
「ったく、若いモンのクルマは…」などと思っている老害の方が危険かもしれないと思うことも正直ある。もちろん、筆者も例外ではない。もう、若くはない。認めたくないけれど、退化(老化)がはじまっている。かつてやんちゃをしていたはずのおじさん世代の方も、もうその感覚を忘れてしまっているのかもしれない。
取材を通じてさまざまな世代の方と接して感じるのは、年齢を重ねた方のほうが「えっ…」と思うことが(正直いって)少なからずある。社会的地位が上がるにつれて「バカヤロー、ふざけんな!」と怒鳴りつけられることも少なくなるからだろうか。それなりのクルマに乗る以上、それに相応しい人格も持ち合わせていなければ…と、自分への戒めとして考えるようになった。20代の方々と頻繁に接するようになり、自分が知らず知らずうちに「老害」になっていないか、あるいはこれから先、なってしまうのではないか?常に冷静になって見極めたいと思う。
[画像/TOYOTA,Honda,Adobe Stock・ライター&撮影/松村透]