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解雇された人の苦悩や不安は解雇された人にしか分からないという話

最近、TwitterやAmazonの社員に対して人員削減の報道を目にした人も多いだろう。

Twitterにいたっては、新たに同社のオーナーとなったイーロン・マスク氏が社員に向けて「激務か退職か」の選択を迫るメールを送信したとして話題となった。

額面通りに受け取れば、会社に残れば激務が待っているし、退職をすれば(3ヶ月分の給与を受け取れるとはいえ無職だ。

企業のトップとしてはしごく真っ当な判断なんだろう・・・ということは、頭では理解できる。

しかし、これぞまさに現代における踏み絵に思えてならないのだ。

解雇された人の苦悩や不安は解雇された人にしか分からない。

解雇された本人はもちろんのこと、その家族も路頭に迷うことになりかねない。

恥を忍んで告白すると、何を隠そう、私自身、リストラされた経験がある。

だから「身に染みて分かる」のだ。この辛さや絶望が。

それは忘れもしないリーマンショックが日本経済を直撃し、その余波が色濃く残る2009年の春だった。

当時、勤めていた会社にいつものように出社した。

その日は4月下旬に差し掛かった、ゴールデンウィークも間近の金曜日だった。

社内でとくに親しく、そしていまでも付き合いのある上司が昼食に誘ってくれた。

これまで何度も一緒にランチに出掛けたし、それは日常の一コマにすぎないと思っていた。

少なくともこのときまでは・・・。

上司オススメの日替わりランチを食べ終えたころ、不意に「このあと、おそらくリストラされるから」といわれた。

この日の朝、社長を含めた上長会議の際に伝えられたのだという。

いきなりではしんどいだろうから、いまのうちに心の準備だけはしておいてねという、上司なりの配慮だったんだと思う(実際、心の準備ができて良かった)。

事実、前日の木曜日にも解雇予告をされ、この会社を去って行った同僚が数人いた。

それから一日経ち、まさか自分もターゲットになろうとは・・・。

この日も自分を含め、中途採用組の何人かがリストラされるという。

そしてランチから自席に戻り、ほどなくして社長室に呼ばれた。

案の定、解雇予告の通知が差し出され、いますぐサインしろというのだ。

いまとなれば、(ストレートにいうと)刺し違えるだけの度胸も、徹底抗戦する悪知恵も働くのだが、覚悟していたとはいえ、やはり動揺した。

まぁ、もともとこの会社には長くいるつもりはなかったし、遅かれ早かれかなと思い、あっさりとサインをした。

いきなり退職が決まったこともあり、また新規プロジェクトだったため、会社も後任あてがう時間がなかったのだろう。

大した仕事の引き継ぎもできないまま、デスクまわりの片付けをはじめた。

すると件の上司が話し掛けてきて、階段の踊り場で少し雑談をした。

上司のいうとおりにリストラされたこと、新規プロジェクトはいったん凍結されたことを知った。

退職しても付き合いが続くことを約束し、ふたたび自席に戻った(この上司とはいまでも付き合いがあり、数年前にNDロードスターを手に入れたのも完全に自分のせいだといわれた)。

そして定時になり、もうここへも来ることもないだろうし、「短い間でしたがお世話になりました」と挨拶するまでもなく(そこまでお人好しになる必要はもはやないだろうということで)、静かに退社した。

なにしろいきなりのリストラだったこともあり、無理やり押し込められた荷物で、通勤用の鞄はまるで腹を膨らませたフグのようにパンパンに膨らんでいた。

会社都合で退職したのですぐに失業手当が出るとはいえ、30才をすぎていきなりの無職。

しかも、奇しくもこの日は他界した母親の誕生日だった。

そんなわけで、母親の誕生日=リストラ記念日(?)となってしまったのだ。

あー、また転職活動しなきゃだなぁ(このときはまだ独立しようなんて考えはまったくなかった)、リーマンショックで仕事が見つかるかなぁ。

世間は花金で、さらにゴールデンウィーク間近で浮き足立っているなか、不安と絶望に苛まれつつ、電車に揺られて帰宅した。

この年のゴールデンウィークをどう過ごしたのかはまったく覚えていない。

ひとつ、強烈な印象として残っているのは、失業手当を申請するべく、ハローワークに向かったときのことだ。

自分のように失業者が殺到するかもしれない・・・。

そう考えて、早めに自宅を出た。

そしてハローワークに到着すると、失業手当申請待ちの行列ができていた。

すでに15人くらいは並んでいたように思う。

自分が列に並んだあとも続々と失業者が集まりはじめ、最終的には50人を超えたんじゃないかと思う。

無事、失業手当の申請は受理されたのだが、手続きを終えてふとあたりを見回してみると、自分を含めたその場にいる誰もが俯き、そして苛立っていた。

好んでこの場にいる人は誰ひとりとしていない。

誰もが早くこの場から立ち去りたいと思っていることは明白だった。

後にも先にもこれほど負のオーラが蔓延した場に遭遇したことはない。

自分も、早くこの場から逃げだしたかった。

と同時に、このときの光景を目に焼き付けておこうと努めた。

この先、どれほど仕事で嫌なことがあっても、これほどしんどい経験はそうはないだろうと感じたからだ。

リストラされてからわずか半月後、父が病で体調を崩し、入院することとなった。

結果論ではあるが、失業中ということもあって、頻繁に見舞うことができた。

就職活動も並行して行っていたが、思うような結果が出ず、悶々とする日々を過ごしたことを覚えている。

しかし、同じ年の秋に、父が退院して自宅に戻ることはぼほ不可能だと担当医師から告げられた。

その宣告を受けているとき、たまたま電話してきたのが、かつてお世話になった会社の社長だった。

久しぶりの会話だったが、こちらの事情を伝えるとかなり驚いていた。

「とにかく1度会おう」。

こうして久しぶりに社長と再会することとなった。

リストラされ、失業中であることを伝えると、別会社を立ち上げたからそっちを手伝ってくれないかという。

こうしてあれよあれよという間に仕事が決まり、そして父は天国へと旅立っていった。

奇しくも、明日が父の命日だ。

ここから数年間、ラジオ番組制作という、未知の世界に足を踏み入れることとなる。

そして、この数年後に別会社を閉じることになり、勢いだけで独立することになるのだから、人生何が起こるか分からない。

今年の秋、フリーランスから法人成りし、一企業の代表となった(一人親方だけど)。

日本の制度では社員のクビを簡単に切れないことになっているが、仮に切れるようになったとしても、従業員をリストラできるだけの冷酷さが自分にはないような気がする。

繰り返そう。

解雇された人の苦悩や不安は解雇された人にしか分からない・・・。

[余談]

後で知ったのだが、自分がリストラされ、ハローワークで絶望の淵をさまよっていたそのとき、通りを隔てたわずか数百メートル先の建物で妻は仕事をしていたのだという(ハローワークとはまったく別の仕事だ)。

知り合う10年近く前のことだから、お互いの存在など知るよしもない頃だ。

美空ひばりの愛燦燦の歌詞を引用するならば、人生って不思議なものですね。

[画像/Adobe Stock ライター/松村透]

 

 

 

 

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