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2023年5月に「第61回静岡ホビーショー」が開催された。
タミヤ、ハセガワ、アオシマ、フジミ模型など、国内外に知られるメーカーの本拠地として内外に知られる静岡。
その「プラモデルの聖地」といわれるお膝元で開催される「静岡ホビーショー」は、その年に発売予定の新製品が数多く発表されるため、近年は海外からのバイヤーも大勢訪れ、国際的なイベントになりつつある。
今回は、そんな静岡ホビーショーで発表された気になるクルマ系ホビーの新製品を紹介しながら、会場で感じたトレンドについてもまとめてみた。
■バラエティ豊かなタミヤの新製品
まずはクルマ系ホビーの王道といえる、組み立てキットの新製品をチェックしてみた。
タミヤブースでは、1/24スポーツカーシリーズの最新作としてゴードン・マレーが手がけた「GMA T.50」が8月に発売。
再販アイテムとしては、1/24スケールの「ランチア ストラトス ターボ」、1/20スケールの「ポルシェ 935 マルティーニ」といった'70年代の懐かしいキットが発売される。
電動RCカーの乗用車系モデルでは、「トヨタ ガズー レーシング WRT/GR ヤリス ラリー1 ハイブリッド」、「ポルシェ 911 GT3(992)」、「フィアット アバルト 1000TCR ベルリーナ コルサ」、「2002 メルセデス・ベンツ CLK AMG レーシングバージョン」、「アルファロメオ 155 V6 TI マルティーニ」、「フォルクスワーゲン ゴルフII GTI 16Vラリー」など盛りだくさんの内容。
2022年のWRCチャンピオンマシンの製品化から旧製品の仕様違いまで、バラエティに富んだラインアップはタミヤならではといえるだろう。
個人的に気になったのは、1/10電動RCカーシリーズの「フォルクスワーゲン ゴルフII GTI 16Vラリー」(価格未定)。
参考出品ながらとても出来がよく、ゴルフIIの魅力をよく表現していた。
注目すべきポイントは、ゴルフII GTI 16Vのラリー仕様という、比較的マイナーな車種の製品化である。
ビジュアル的にはラリー・ゴルフのグループA仕様のほうが迫力はあるし、ゴルフII GTIという車種的な魅力でいえば、ラリー仕様よりもロードバージョンの方がウケは良さそうだ。
しかし、オンロードとオフロードの両方で楽しめる設計のため、これは以前販売されていた「ランチア デルタ インテグラーレ」の路線を踏襲していることが伺える。
カラーリングを見る限りでは、特定のラリーをイメージしたものではないのであっさりとした印象だ。
同車のベストリザルトは、1987年ポルトガル・ラリーとアルゼンチン・ラリーにおける3位入賞なので、そのあたりのロゴが追加されるのだろうか?
今後の正式発売が気になる内容だ。
■限定品が気になるハセガワ
ハセガワのプラモデルはシャープな表現が特徴的で、今回発表された1/24カーモデルの新製品も実車の雰囲気を凝縮したような出来栄えだった。
1/24スケールのプラモデル「カルソニック スカイライン(スカイラインGT-R [BNR32 Gr.A仕様] 1993 JTC チャンピオン)」は、7月下旬に発売予定の限定品(税込価格:3,960円)。
1993年全日本ツーリングカー選手権のチャンピオンマシンを再現したもので、Gr.A仕様のディテールを的確に再現。
個人的には、フェンダーに食い込むように再現されたネガティブキャンバーの前輪に魅力を感じた。
カルソニック スカイライン自体は昔から様々なメーカーで製品化されているものの、最新の技術で設計されたハセガワ製品のシャープさは注目に値する。
ブース内で目を惹く存在だったのが「ニッサン スカイライン 2000GT-R(KPGC110)レーシングコンセプト」(税込価格:3,850円)。
1972年の東京モーターショーで展示された、ケンメリGT-Rレーシングコンセプトを再現した製品である。
レーシング仕様のパーツを新金型で製作し、新デカールをセットしたこの新製品。
これまでありそうでなかったアイテムであり、美しいボディカラーが印象的だった。
6月下旬発売の限定品なので、気になる方は早めに入手することをお勧めしたい。
もうひとつの注目アイテムは、7月下旬発売予定の「マットビハイクル “迷彩仕様” w/ロケットランチャー」(税込価格:4,400円)。
ハセガワのマットビハイクルをベースにしたこちらの限定品は、『帰ってきたウルトラマン』第32話「落日の決闘」に登場した、ロケットランチャー装備&迷彩仕様をキット化した内容。
ルーフに装備された30連装ロケットランチャーはレジン部品を新規作成したもので、怪獣キングマイマイとの戦いに使用された姿を再現できる。
ただ、キットに迷彩パターンのデカールは付属せず、塗装指示となるとのこと。
そのため上級者向きの製品内容となっている。
アイテムとしては非常に魅力的だが、多くの人にとっては買ったままコレクションになってしまうのではないだろうか。
■映画の劇中車がアツいアオシマ
青島文化教材社のブースには、なんと映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー」のデロリアンが展示されていた。
これは2024年に発売を予定している、1/24スケールプラモデルのプロモーションのため。
アオシマは以前から同映画のタイムマシンであるデロリアンを製品化しているが、今回発売されるプラモデルは完全新金型により製作されるまったくの別物。
展示されていた試作品の出来も上々で期待が持てそうだ。
アオシマといえば、映画やアニメなどの劇中車を積極的にリリースすることで知られ、ブースには『頭文字D』や『ナイトライダー』などの製品も展示されていた。
なかでも大きな存在感を放っていたのが映画『トラック野郎』シリーズ。
1/32スケールの完成品トイラジコンとして12月発売予定の「一番星 望郷一番星 ACアダプター付き』(税込価格:36,080円)、1/32プラモデルとして8月に発売が予定されている「一番星 熱風5000キロ」と、10月発売予定の「一番星 突撃一番星」(税込価格:19,580円)が展示されていた。
トイラジコンのほうは、LEDをふんだんに使った電飾が特徴的で、付属のACアダプターにより乾電池を使用することなく、安定してイルミネーションを楽しむことができる。
プラモデルのほうは、基本的に以前発売された製品の再生産ながら、より組み立てがしやすくなるような改良を施しているという。
約半世紀近く前の昭和の映画作品が、令和の時代に新製品として発売されるのは実に驚異的だ。
■F1のビッグスケールモデルも登場
さまざまなジャンルのプラモデルを発売しているプラッツのブースでは、BEEMAX製の「1/12 ロータス 99T 1987 モナコGP ウィナー」(税込価格:28,600円)が展示されていた。
その横には開発中の1/12 マクラーレン MP4/4もあり、アイルトン・セナがドライブしたマシンがビッグスケールモデルとして相次いでリリース。作りごたえ満点の製品内容といえそうだ。
今回各社から発表されたカーモデルの新製品は'70年代から'90年代の車種が多く、逆に新型車の少なさが印象的。
1/24カーモデルの主な価格帯は4千円以上で、メインターゲットは50代以上の男性だ。
まさに筆者もその世代だが、老眼により模型製作は正直しんどいものがある。
しかし、このような素晴らしい完成見本を見ると、思わずやる気スイッチが入るのも事実。
ネオクラシックをはじめとする各社のプラモデル製品は、子育てが落ち着いて時間に余裕ができた世代に新たなモチベーションを与える存在になるかもしれない。
■トレンドの変化が本格化したミニカー市場
次に完成品ミニカーの新製品をチェックしてみた。
世界的なトップメーカーである京商では、1/18スケールの新製品がメインとなっていた。
少し前はボディの素材にレジンを使用したものが多く見られたが、今回発表された京商オリジナルミニカーは、ダイキャスト製のフルディテール製品が印象的だった。
「京商オリジナル 1/18 フェラーリ F40」(税込予価:38,500円)は、ご覧の通りフルディテール製品。
フロントセクションとエンジンルームは忠実に再現され、カーボンケブラーのデカールも貼り込まれている。
京商のフェラーリ製品は、1/12スケールから1/64スケールまで総じてクオリティが高く、国内外から高く評価されているのは周知の通り。
この新製品が1/18 F40製品の新たなベンチマークとなるのは間違いないだろう。
1/18スケールの新製品には、Gr.Aの国産ラリーカーも含まれる。
「京商オリジナル 1/18 トヨタ セリカ GT-FOUR (ST165) 1991 モンテカルロ #2」と「京商オリジナル 1/18 スバル インプレッサ 1994 RAC #4」(税込価格:28,600円)は、どちらもボンネットとドアの開閉が可能。
作り込まれたエンジンルームと室内を眺めることができる。
ミニカーショップ キッドボックスによる独自のミニカーブランド「ENIF」。
懐かしい国産車をシャープに再現する高品質な仕上がりを特徴としている。
7月発売予定の「トヨペット コロナ マークII 1900 ハードトップ GSS 1971年型」(税込価格:13,600円)は、イエロー、シルバー、ホワイト、ブラックの4色のカラバリを設定。
フロントグリルの繊細な彫刻やレザートップの表現がリアルだ。
毎回ユニークな新製品を発表するトミーテック。
近年は車両以外のストラクチャーにも力を入れ、ちょっとしたジオラマを再現できるフィギュア付き製品なども発売している。
そんなトミーテックが展示したのが、なんと高速道路。
1/64スケールで再現される高速道路は、上下線が立体構造になっていて、車線上に自分の好きなミニカーを展示することができる。
さらに渋滞シーンとか事故処理、速度取り締まりといった、さまざまなシーンに対応できるので、かなり遊びゴコロのある企画だ。
実は、2022年秋に東京で開催された全日本模型ホビーショーにも、同じ高速道路が展示されていた。
今回も展示したということは本気で製品化を考えているということだろう。
販売価格の調整は難しそうだが、もし発売されたらクルマホビー市場に残る快挙になることは間違いない。
トミーテックの遊びゴコロはこんなところにも。
今回発表された1/64スケールの新製品は、ショーケース内に留まらず高速道路上にも並べられていた。
高品質なミニカーで知られる香港のミニカーブランド「TSM-Model」。
その同社が展開する1/64スケールのミニカーブランドが「MINI GT」だ。
会場では開発中のポルシェ 911 RS 2.7と、ポルシェ 911 GT3 RSが展示されていた。
近年目覚ましい伸張を遂げている1/64ミニカー市場の中でも、「MINI GT」はハイクオリティな製品内容とリーズナブルな価格を両立しているのが特徴。
ダイキャスト製ミニカーならではの重みと繊細な仕上がりで人気が高い。
■ 二極化が進むミニカー
1/64スケールのミニカーは、1/43とか1/18スケールのミニカーに比べてニッチな存在だった。
しかし、今回の静岡ホビーショーにおいては、ミニカーの主役に躍り出た印象がある。
その理由には、前述の1/43とか1/18スケールのミニカーの価格が上昇して手軽に買える価格帯でなくなったことが大きい。
1/43ミニカーは1万円前後のものが主流で、カラバリを揃えるなどのコレクションは難しくなっている。
その点、1/64スケールのミニカーには千円台で買えるアイテムもあるなど、コレクションの楽しみがまだ残っているのだ。
もうひとつの理由は、1/43や1/18スケールで製品化すべき車種がほぼ出尽くしたこと。
売れ筋車種のほとんどが製品化されてしまった現状では、これまでとは違うスケールで製品化する必要が出てきたのだ。
今回のショーでは、トミーテックや「MINI GT」以外にも、1/64ミニカーの新製品が多数展示されていた。
また、置き場所に困らないコンパクトサイズであることも大きなメリット。
特に妻子持ちの場合、かさばる1/18ミニカーはこっそり買ってくることが難しい。
しかし、1/64ミニカーならポケットに入れて持ち帰ることも可能なのだ。
このような理由により、1/64ミニカーに対する需要はますます増えていくはずだ。
1/64ミニカーとは逆に、1/12のビッグスケールも増えてきた。
写真は「TSM-Model」の1/12 ティレル P34で、1977年モナコGPに出走したカーナンバー3のロニー・ピーターソン車を再現したもの(価格未定)。
フォードDFVエンジンをはじめとするディテールの再現が凄まじい。
価格もきっと凄まじいものになるはずだ。
こちらも「TSM-Model」の、1/12 マクラーレン F1 GTR #59 1996 Le Mans 24 Hr Winner。
参考出品のため実際に販売されるかどうか不明だが、ウェザリングされたボディが特徴的で、完成度は極めて高い。
こちらは京商が輸入販売する、TOP MARQUES社製の1/12 ランチア 037 1983 No1 モンテカルロ ウィナー W ロール(税込価格:110,000円)。
TOP MARQUESの本国サイトを確認したところ、同製品にはいくつかのバリエーションが存在した。
筆者は個人的にグループBのミニカーコレクションをしているので、是非ともコンプリートしたいのだが、価格が税込110,000円では1台を買うことさえ難しい。
こちらはエスワンフォーが2023年4月に発売した「キャラクタービークルシリーズ 1/12 ルパン三世 カリオストロの城 FIAT500」(税込価格:44,000円)。
あまりにも有名なルパン三世の劇中車を1/12スケールのダイキャスト製ミニカーとして製品化したものだ。
付属品が豊富に用意されているので、フィギュアと組み合わせることで映画のシーンを再現することが可能。
このようにミニカーの新製品は、手軽な1/64ミニカーと高級志向の1/12ミニカーが元気で、1/43と1/18ミニカーは脇役に徹した感があった。
クルマホビーのトレンドは少しずつ変わってきているが、アラフィフ世代以上のクルマ好きがメインターゲットとなっているのは間違いない。
子育てが落ち着いて、金銭的にも余裕が出てきた世代が狙われているのだ。
財布のヒモを引き締めたいところだが、「限定品」という言葉についついやられてしまうのも事実。
さて今日は何をポチろうか(笑)。
[ライター・撮影 / 北沢 剛司]