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■本来、眼中にはなかったモデルだったけど……
ボクがサニークーペを購入したきっかけは、ある日、購入しようと計画していたクルマがオーナーもろとも消えてしまったことにはじまる。
当時のボクは、2シーター・シンドロームに侵されていて、公道を走行可能なクルマ5台のウチ、ミニを除く4台が2シーター。
そこで、1台を趣味的要素も感じられる4ドア車にしようと考え、アンテナをはっていたわけだ。
そのとき出会ったのが、1969年型のスカイライン2000GT、いわゆるハコスカだ。
いつものショップからの情報で、オーナーが売りたがっているというので交渉を依頼。
折り合いがついて、スペース確保のためボクスターSを手放し、準備を整えていたら、いつの間にか消息不明になってしまっていたわけ。
で、結構ガッカリしていたら、ショップの社長がワンオーナーで走行距離約4万キロの310サニークーペを持っているという。
ワンオーナー&低走行は、車種に関係なくボクにとってのキーワード。
310サニーは、以前OERツインキャブ仕様にチューニングしたセダンに乗っていたことがあるが、ノーマルは初体験。
特別な興味があったわけではないが、なんとなくムラムラっときて、購入を決めてしまったのだ。
2020年2月のことだった。
▲ワンオーナー車であることに加えてほぼフルノーマルで走行距離42000キロ弱!! 衝撃のコンディションにムラムラっときて購入を決意したのだ
■納車前に、ボク流の基本仕様への変更を依頼
興味の対象ではなかったけど、ボクのモノになるのだから自分好みのエッセンスを加えたくなるのは必然だ。
このサニーは、1980年型のGXクーペで、上位機種のインジェクション+5速とは異なり、シングルキャブレターの4速という仕様。
車高調整式サスペンション以外はフルオリジナルだったが、納車までにボクの好みに合わせて、いくつかのカスタマイズを依頼した。
その内容は、
・サイドミラーはブルーバード510用の純正フェンダーミラーに変更
・ドライバーズシートは日産純正バケットシートのレプリカを選択
・ステアリングはMOMOのプロトタイプ(フラット)に
・ホイール&タイヤは、ローズオートオリジナルの鉄ちん風アルミと、ヨコハマのクラシックスポーツタイヤ「A539」の組み合わせ
というものである。
で、納車の日…見た目は、けっこうカッコイイぞ。
ボクは、「よぉ相棒、楽しくやろうゼイ」なんて心の中で呟きながら、サニーとの生活をスタートしたのだ。
■今では懐かしく思える「あの音」が…!!
初ドライブの高速道路。ボクは思わず笑ってしまった。
この時代のクルマに義務付けられていた「キンコンチャイム」と呼ばれる速度警告音が鳴ったからだ。
キンコンチャイムは、1974年11月の省令により装着することが義務付けられ、1986年3月に廃止された日本独自のモノ。
若い頃に乗っていた、1975年型アルファスッド、1977年型ジェミニクーペ、そして1981年型プレリュードの3台でキンコンチャイムを経験していたのだが、このサニーのキンコンによって忘れていた記憶が蘇ったわけ。
20代のボクを追体験したような気がして、笑えてきたのだ。
また、スピードメーターが160km/hまでしかないことも、厳しい排出ガス規制とオイルショックの影響で、高速性能やハイパワーを誇示できなかった「時代」の産物といえるのではないだろうか?
■イロイロな人に声をかけられ、笑顔に囲まれるサニー
サニーに乗っていると、イロイロな人に、イロイロなシチュエーションで声をかけられる。
たとえば信号待ちの路上。
クルマの脇をすり抜けてきたスクーターのおじさんに「懐かしいサニーですね」と声をかけられたり、歩道を歩く夫婦がこちらを見て「サニーだ」といったりする。
もちろん声は聞こえないが、誰でも読唇術が使えてしまうシンプルな口の動きと顔の表情で、ハッキリわかってしまうのだ。
隣の車線のドライバーがサニーに気付き、大胆に手を振ってくるとか、すれ違うクルマからのパッシングサイン、あるいはドライバーからのサムズアップアクションなど、今まで乗ってきたどのクルマよりも激しく反応されてしまうのだ。
もちろん、コンビニやファミレス・公園などの駐車場でも人気者。
なんの変哲もないフツーのクーペだけど、いわゆる大衆車クラスのクルマだけに、親しみやすい雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
▲サニーの周りにはなんとなく人が集まる。510もフェローバギーも、このコンビニでたまたま出会った人だ
信号待ちでも話しかけられるし、走行中のサムズアップアクションの交換も多数……サニーは人気者なのだ。
■必要なくても手をかけたくなる困った性分
絶好調ではあるけど、リアサスが硬すぎてよく跳ねるし、暴れたがることが気になったので調整しようと思ったけど、完全に固着している状態で調整不可能。
仕方がないので、新しいモノに交換することを決めた。
でもね、これだけでやめときゃいいのに、ボクはつい欲が出ちゃう。
ついでだから、という大義名分を振りかざし、4速ミッションを5速にすることにしたわけだ。
さらに、エンジンもシングルキャブのままだけど、チィと圧縮比をアップしたうえで、秘密のエッセンスを加えることにする。
仕事を依頼して数日後、「5速ミッションだけどローバックの方がいいだろ?」という電話が……そりゃあそっちの方がいいけど、これで予算オーバー確定だ。
本当は、何もしなくても問題ない状態のサニーなのに、結構な費用を投じてしまうことになってしまった。
興味の対象ではなかったサニーだけど、乗れば乗るほどに好きになり、自分を表現するために手を加えたくなるのだから仕方がない。
困った性分なのだ。
■サニーとの別れ
サニーは絶好調であり、出張のパートナーとしても大活躍。
次に手を加えるとするなら、リミテッドスリップデフを入れてブレーキを強化することだな、なんて考えながら楽しんでいた。
ただ、少々困っていたのが自宅の駐車場。
ガレージ内に入れていたサニーの入出庫には、ガレージ前のスペースに駐車している3台をパズルのように移動させる必要があったからだ。
▲本来は2台用のカクイチ製ガレージに3台を収納。シャッター前のスペースに駐車している3台のクルマをパズルのように動かして通路を作らないと、ガレージ内のクルマは入出庫できないのだ
そのうちの1台は、倅の嫁さんにアシとしてプレゼントすることになっていたけど、もう1台も、旧車の全長4メートル級小型セダンに替えたいと考えた。
そこで2021年の秋頃、友人が経営するショップに相談に行ったのだが、そこでトントン拍子に話が盛り上がり、910型ブルーバードバンとサニーの2台を下取りに出す入手困難車のプロジェクトをスタートさせたのだ。
完成予定は2022年11月頃だったが、2023年2月となった現在でも未完成。
当然、本来なら今もサニーとの生活は継続中で、最後の想い出作りのためにも走り回っていたはずである。
でもね、2022年8月、1983年式フェアレディ 200Zターボがボクの前に現れてしまったわけ。
その時点で新たにクルマを加える予定はなく、金銭的な余裕もゼロ。
いくら「フェアレディ」とか「ワンオーナー」とか「ステアリング以外フルオリジナル」といったボクを動かすキーワードが揃っていたとしても、購入はムリな話なので、検討はしたものの断るためショップに出向いたのだ。
そしたら、「2台の下取り車を先に出してくれたら支払いは後でいい」と、甘い甘い悪魔の囁きが……。
たとえ後でも支払わなくてはならないのだが、ついその気になって2022年10月、ボクはサニーとの濃厚な2年半に別れを告げたのである。
▲約2年8ヶ月と短い期間だったけど、乗るたびに、とてもハッピーでワクワクする瞬間を与えてくれたボクのHB310サニーに感謝
[撮影&ライター/島田和也]