伝説の2シーターオープンスポーツカーであるトミーカイラZZを、ピュアEVとして復活させたトミーカイラZZ EV。99台しか生産されず、まさに幻のスポーツカーと言える存在です。旧車王では2022年11月に350万円という高価格で買取っています。今回は、そんな超希少な国産ピュアEVオープンスポーツカーのトミーカイラZZ EVの登場した経緯と特徴を紹介します。
トミーカイラZZ EVとは
トミーカイラZZ EVはエンジンを持たないピュアEVで、2015年10月から99台限定で販売されました。ここでは前身となったガソリンエンジンのトミーカイラZZを振り返りながら、誕生の経緯を紹介します。
前身となったトミーカイラZZ
前身となったトミーカイラZZは、京都の小さな自動車メーカー「トミタ夢工房」から1997年に発売されました。創業者であり開発者の富田義一さんと解良喜久雄さんは「二人の爺さん(爺爺)(ZZ)が開発したからZZと名付けた」と語っており、2人の夢と遊び心が詰まったスポーツカーであることが分かります。
シャーシにはアルミモノコック、ボディはFRPで作られており、エンジンは日産製SR20DEが搭載されています。エンジン出力は185psと目を見張るほどの数値ではありませんが、車重は690~740kgと超軽量なため、まさにレーシングカーと呼ぶにふさわしい車でした。
トミーカイラZZはイギリスで生産されており、輸入車の衝突安全基準が改正された関係で1999年に生産終了。その生産台数は、206台(海外を含めると220台)にとどまっています。
トミーカイラのブランドを受け継ぐGLM
そんな幻のスポーツカー、トミーカイラZZをEVとして復活させたのは、京都大学発の次世代車開発ベンチャーとしてスタートしたGLM株式会社です。
新型車を検討する際、トミーカイラの創始者である富田義一氏と出会い、ZZ EVの開発が開始されることとなります。
新型車の開発初期、当時GLMの代表だった小間裕康氏は、トミーカイラZZが同じ京都で開発・発売された車だということを知ります。
「とにかく、とんがったクルマを世に送り出したかった」という小間氏は「トミーカイラ創業者の冨田義一氏にZZのEVを作りたい」と直訴。富田義一氏は快く依頼を受け入れ、ピュアEVスポーツカーの開発が開始されました。
実際の開発に際しては、元祖トミーカイラZZの販売当時とは安全基準が変わっていたため、モノコックをイチカから作り直し、フロント周りの意匠が大きく変更されています。
EVらしさをダイレクトに感じられるソリッドなスポーツカー
トミーカイラZZ EVはスパルタンで伝統的なスポーツカーらしさと、EVらしさ兼ね備えたスポーツカーです。ここでは、そんなトミーカイラZZ EVの特徴と魅力を詳しく紹介します。
航続距離はわずか120km!?実用性皆無のレーシングモデル
トミーカイラZZ EVに乗り込むと、見慣れたナビはおろかオーディオやエアコンスイッチすら見当たりません。リクライニング機能のないバケットシートは最大限まで低く設定され、ヒップポイント280mmです。
そこはまさにレーシングカーの世界そのもので、スタートはEVらしく無音ですが、その未来感とは裏腹にパワステやブレーキブースターは装備されていません。ブレーキは初期制動が弱いためガツンと踏み込まなければならず、慣れるまでは注意が必要です。
ルーフもサイドウインドウも装備されておらず、ドアは内側からしか開けられません。航続距離も120kmと短く、長距離移動はおろか近距離のドライブでも心もとないレベルです。まさに実用性は皆無ですが、この車の魅力は、その不便さをも超えて余りあまる走りの楽しさにあります。
超軽量ボディにハイパワーモーター
実用性を犠牲にしてまで手に入れたのは、スポーツカーとして他に類を見ないモーター+軽量ボディというパッケージングです。
トミーカイラZZ EVの車両重量は850kgしかなく、組み合わされるモーターの最高出力は305ps、最大トルクは42.3㎏・m。軽自動車よりも軽い車体に、高性能な2Lターボを上回る出力を備えていると考えれば、トミーカイラZZ EVがいかに俊足かは容易に想像できるでしょう。スタートから時速100kmに到達するまでの時間は、わずか3.9秒です。
もちろん、トラクションコントロールやABSは装備されておらず、そのパフォーマンスを引き出せるかどうかは全てドライバーにかかっています。「レーシングカーを公道で操る」これこそ、トミーカイラZZ EVの持つ魅力です。
トミーカイラZZ EVの中古車市場
トミーカイラZZ EVの販売台数は、先祖であるトミーカイラZZを下回る99台で、中古車としては極めて希少な車種と言えます。大大手中古車販売サイトを確認したところ、原稿執筆時の2022年12月現在、わずか1台のみですが、690万円で販売されていました。
実用性がほとんどなく趣味性が極めて高いため、誰しもが飛びつく車種ではないのかもしれません。
まとめ
テスラやポルシェなど、今ではEV+スポーツカーの組み合わせはそれほど珍しい存在ではありません。しかし、トミーカイラZZ EVが発売された2015年は、まだまだ一般的ではありませんでした。
そんな時代に発売されたトミーカイラZZ EVは、先祖であるトミーカイラZZに込められた「夢」と、現代の最先端技術である「EV」を組み合わせた日本のモノづくり精神を象徴する唯一無二の存在です。
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