先日、私が所有しているアウディ・初代TTを整備工場に入庫させました。
1週間ほど代車としてお借りしたクルマが、2代目のトヨタ・ヴィッツ。
ひとりのクルマ好きとして、結構興味深く観察することができたので、記事にしてみようと思います。
日頃から趣味性が高いクルマに乗り慣れている方々にとっては、興味の範疇の外にあることも多いであろう国産コンパクト。
老若男女を問わず、多くの人の移動を支える「フツーに街中で見かけるクルマ」に改めて着目してみると、面白い発見があるかもしれません。
「チョイ古」な国産コンパクトといっても、選択肢として頭に浮かんでくる車種の数は膨大。
今回は、私が今までお借りした代車から厳選して、先述のトヨタ・ヴィッツと、トヨタ・ポルテ(初代)を比較します。
ポルテをお借りした期間は、ヴィッツと同じく約1週間。
参考までにお伝えすると、ヴィッツは約1000km、ポルテは500kmほど走行しました。
■ヴィッツとポルテ、まずはスペックを比較してみよう
まず、2台のスペックを確認しましょう。
私がお借りしたヴィッツは、2代目(90系)の前期型、2005年式の「Ⅰ’ll(アイル)」というグレード。
本革とスエード調ファブリックのハーフレザーシートや、本革巻きステアリングが奢られた、ちょっぴり高級なグレードです。
排気量1.3Lの直列4気筒エンジン(2SZ-FE)を搭載し、車重1020kgに対し、最高出力は87psです。
駆動方式はFF、トランスミッションはCVTで、サイドブレーキは手引き式。
対してポルテは、初代(10系)の後期型、2010年式の「130i」というグレード。
排気量は(ヴィッツと同じく)1.3Lで、直列4気筒。
こちらは2NZ-FEという形式のエンジンのようです。
車重1090㎏に対し、最高出力は(こちらもヴィッツと同じく)87psで、駆動方式はFF。
トランスミッションは4ATで、足踏み式のパーキングブレーキを装備しています。
トヨタ・ポルテは、ヴィッツの派生車種として誕生したクルマ…といっても、ベースとなったのは今回比較する2代目ではなく、初代ヴィッツ。
初代ヴィッツと初代ポルテは、プラットフォーム(NBCプラットフォーム)やパワートレーンをともにしている関係です。
初代ヴィッツの背を高くして、助手席側に大きなスライドドアを付けたモデルが、初代ポルテという認識で問題ないでしょう。
対して、私がお借りした2代目のヴィッツは、Bプラットフォームを用いたモデル。
BプラットフォームはNBCプラットフォームの改良版にあたります。
そして先述したエンジンの違いについても、簡単にご紹介しましょう。
ヴィッツに搭載されている2SZはダイハツ製であるのに対して、ポルテの2NZはトヨタ製。
2SZの方が後発、新開発のエンジンです。
燃費性能などが若干向上したらしいのですが、やたらマニアックになってしまうので詳述は避けることにします(製造品質にも若干の違いがあるようです)。
とはいっても最大出力は同じですし、ほぼ同列に語って差し支えないでしょう。
プラットフォームとエンジンのどちらも面からみても、2代目ヴィッツはブラッシュアップが施されています。
初代ポルテと比較するうえで、技術の先鋭性に多少の違いがあることは留意が必要です。
…とはいっても、その違いは微小。
従兄弟のような関係の2台であると捉えても問題はないはずです。
比較してみると、さまざまな気づきが得られるはず。
■ヴィッツとポルテ、レスポンスの良さを比較してみよう
スペックを確認したところで(だいぶマニアックな説明になってしまいましたが)、実際に運転してみてどう感じたか、インプレッションを比較してみましょう。
結論から申し上げると、ヴィッツもポルテも、どちらもすごくいいクルマ。
私の好みに合う方はポルテでした。
ヴィッツとポルテの双方を運転して、共通している印象は「出足が速い」ということ。
アクセルペダルを踏みこんだときに、即座にスロットルが開いて応答してくれる感じが、意外にも気持ち良いのです。
言い方を変えるのであれば、レスポンスが良いということ。
私が所有しているアウディ・初代TTよりも、はるかに加速のツキが良いのです。
その出足の良さは、とても87psとは思えないほど。日常使いにおいて、モアパワーを欲することがないのです。
まるでスポーツカーのよう…と言っても過言ではないかもしれないレスポンスの良さ。
その理由を深堀りしてみると、ヴィッツとポルテではスロットルの仕組みに違いがあることに気が付きます。
2代目ヴィッツは電子制御スロットル・システムを採用しています。
アクセルペダルの操作がコンピュータ制御で電気的に接続されることによって、スロットルバルブに伝わるという仕組みです。
対して初代ポルテは、より原始的なワイヤースロットル。
アクセルペダルとスロットルバルブがワイヤーによって繋がっており、ドライバーのアクセル操作が直接的に機関系に伝達されるという仕組みです。
先にご紹介した通り、メカニズム的には2代目ヴィッツの方が、初代ポルテよりも先鋭的。
スロットルに関しても例外ではなく、電子制御スロットルの方が新しいといえます。
その利点は、構造がシンプルなため部品点数が節約できること、そしてドライバーの無駄なアクセル操作を意図的にキャンセルすることができることなどが挙げられます。
不要なアクセル操作をコントロールすることによって、燃費向上が狙えることは確かでしょう。
その一方で、運転する際のダイレクト感(レスポンスの良さ)が失われてしまうという欠点もあるのです。
しかし私個人の印象としては、ヴィッツの方が、ダイレクト感が強かったのです。
スロットルがワイヤー式なポルテよりも、電子式のヴィッツの方がレスポンス性に長けるのは不思議です。
スロットル以外の別要因が存在すると考えるべきでしょう。
2NZと2SZのエンジン差異に関しても、本来は考慮すべきだとは思うのですが、前者(ヴィッツ)が64kW/116N・mに対して、後者(ポルテ)が64kW/121N・mとほぼ同じなので、今回は無視することにします。
あまりマニアックすぎるのもアレなので…(すでに手遅れだったらごめんなさい)。
正確にいうと、ヴィッツは若干トルクが薄いのですが、ヴィッツの方が出足の良さが顕著なので、トルク以上に“速さ”を体感させる要素があるということですね。
スロットル構造以外の要因として考えられるモノは、車両重量と車体剛性。
ヴィッツの方が、軽くて硬いのです。
先にご紹介した通り、ポルテの車重が1090kgなのに対して、ヴィッツの車重は1020kg。
たかが70kg、されど70kg。
アクセルのツキの良さ(≒出足の“軽さ”)には少なからず影響を与えているはずです。
同等の出力性能を誇るエンジンがそれぞれクルマを動かす場合、軽いクルマの方が速く転がることは想像に容易いでしょう。
ボディ形状からしても、ヴィッツの方が車体剛性に長けているといえます。
ポルテは背が高く、室内空間が広い点が魅力。
助手席側につく大きなスライドドアも魅力的です。
しかしながら、これらが車体剛性(=クルマの硬さ)には不利に作用します。
窓ガラスが大きく空間が広い構造は、高い剛性を確保するうえで限界があるのです。
実際に運転してみても、その違いは明白。
交差点を曲がるたびに、車体が“頑張っている”ことをヒシヒシと感じます。
すなわち、(ヴィッツに対して)剛性が低いポルテは、エンジンの出力が車体の歪みにスポイルされてしまっているのです。
動力がタイヤに伝わる際に、剛性が低い車体性能が追い付かないが故に失われる力が大きいほど、出足はモッサリとしてしまいます。
その結果、より軽くて硬いヴィッツの方が車体の応答性が高く、レスポンスが良いと感じさせたのでしょう。
…というわけで、今までヴィッツとポルテのどちらが速いかを「ああでもないこうでもない」と考察してきたのですが、そもそも論、我々はお買い物に行くクルマ(国産コンパクト)にレスポンスの良さなど求めていないのです。
それにも関わらず、これらのコンパクトカーに“速い”と感じさせるセッティングが施されていた理由として考えられることはただ一つ。
それは、「遅いと感じさせないため」ではないでしょうか。
実際問題、アクセルを深く踏み込んでみても、(エンジンは唸りを増すけれども、)加速度は大して変わらないのです。
すなわち、レスポンス性に優れたセッティングは、高出力ではないローパワーなエンジンを搭載しつつも、実用領域で不足と感じさせないための工夫だったのです。
そう考えてみると、過剰な「速さ」の演出はナンセンス。
出足を鋭くすると、速度を維持するためのアクセルコントロールが難しくなってしまいます。
応答性が高すぎるのも、なかなか考えものですね。
■自分の偏愛にハマるお買い物クルマを見つけると、すごく楽しい
それゆえに、個人的により好印象だったのは、相対的に出足がマイルドな初代ポルテ。
非常に運転がしやすいのです。
日常領域で不足を感じることは一切ないし、速度維持が容易で長距離を走っても疲れづらいし、高いアイポイントも車体感覚が掴みやすくて非常にグッド。
そして何より、非常に広くて便利です。
小さな子どもがいる主婦をターゲットにしたことが、随所からうかがえます。
後席横のドリンクホルダーには2Lペットボトルが入るし、助手席側のスライドドアは開口部が超広大。
前席のヘッドレストを外してうしろに倒せば、後席と連結させることもできてしまいます(お昼寝に最適!)。
さらに助手席を前に倒せば、テーブルに早変わり。
さまざまなギミックから一貫した設計意図を感じ取れるクルマに触れると、日々の移動に彩りが加わる気がします。
スライドドアを操作したいがゆえに、無駄に助手席側から出入りしちゃったりして。
クルマの楽しみ方は一つではないことを実感しました。
想定ターゲットを固定したことによって、一貫した設計意図を明確に感じることができたポルテに対して、ヴィッツはオールマイティな優等生のようでした。
ターゲットを固定することなく、さまざまな利用形態に対応できるように、極めて綿密に作り込まれたことがうかがえます。
近所のマダムのお買い物の足になるだけではなく、営業マンの相棒になることや、レンタカーを借りた若者の旅行のお供をすることすら想定されているように感じます。
誰がどう使っても不満がないような、非常に気が利くクルマだったことに驚きを覚えました。
結構な散文になってしまいました…。
メカニズム面や設計思想の面など、さまざまな側面から2台の国産コンパクトについて考察してきましたが、私がこの記事を書くうえでもっとも強調したいことは、「フツーに街中で見かけるクルマ」も、すごく楽しいということ。
マニアックな目線でさまざまなポイントに着目してみると、国産コンパクトは見どころだらけ。
今、非常に安価で手に入れることができる「チョイ古」な国産コンパクト。
いざ生活をともにしてみたら、面白い気付きをたくさん得ることができること、間違いなしではないでしょうか。
[ライター・カメラ / 林哲也]