■手に入れて7年、故障知らずのソアラ
クルマは目的地までいかに快適に、楽しく走れるか。
その時間や経験にも価値があると思う。
まず、駐車場で眺め、ドアノブに手をかけ、室内の香りを愉しむ。
エンジンを掛ける前の所作だけでも大変味わい深い。
それは未就学児だったころから今まで変わらず、自分のクルマ、他人のクルマ問わず、タクシーやバスだって大なり小なり気持ちが入り込んでしまうのが筆者だ。
そんななかでも幼い時分から妄想に妄想を膨らませて、枕の下にカタログを敷いてまで乗りたいと願ったクルマがある。
全長は5メーターに迫りながらも4座しかない。
長いノーズに収まるのはストレート・シックス。
嗚呼、なんて「必要な無駄」なんだろう。
そんなことを思いながら乗るのが愛車の3代目、トヨタ・ソアラ 3.0GT Gパッケージ(JZZ31)だ。
2015年の年末に購入してから所有して現在7年目となる。
購入時は7万6000キロで現在は13万キロを越えた。
購入してから数年は週末限定のクルマだったが、それでも毎年2万キロに満たないくらいはコンスタントに走り続けていた。
車体は1999年モデル、購入時で既に16年落ち。
せっかくの旧車王の記事なので、故障などにおける苦労話やハウツーを書き記したいものだが、大小問わずトラブルはゼロ。
運がいい個体だったとしか言いようがないが、クーペとはいえさすがのトヨタといえるのかもしれない。
本当にひとついうなれば、リアのトランクダンパーが抜けかけていて、冬に一度ギロチンされかけたことがある。
これらは海外からまだ部品が出るので、買えるうちに入手すべきであろう。
西は九州、北は東北まで自走で行き、仕事の関係で片道150kmを毎週走っていたこともあった。
バルクヘッドが存在する普通のクーペながら、布団を敷き、後部座席で車中泊をしてロングツーリングに出たこともある。
もちろん海老ぞりになって眠ることになるのでお勧めはできない。
■大きくても意外と乗りやすいクーペ
満タン法で計測するならば、高速道路燃費はリッター11キロ代。
モデルライフのなかでも中期から追加された3.0Lモデルは、1.8トンを超える車体でありながら案外経済的なものだと感じた(同じようなコストで8人乗れるミニバンがあることには目を瞑りながら...)。
ソアラの車体を見てよく「車幅の感覚を掴むのが難しくないですか?」といわれることも少なくないが、慣れの部分を除いてもかなりわかりやすいクルマだったと感じている。
例えばトヨタの古いクラウンやセンチュリーもそうだが、窓やピラーの立ち方、運転座席の位置やノーズの見え方が、非常に良くリンクして考えられていると感じる。
数年前、レクサスのGS350を所有していた際、ソアラと同じ感覚で車庫入れをおこなったら、まったく自分の見当違いのサイズ感で車体を擦りそうになってしまったことがある。
似たような全長、FR、ブランドでも、設計の思想が異なるとここまで違うのかと自分の過信っぷりを反省した。
3代目ソアラといえば、ターボのモデルが大変な人気ではあるし、4.0Lモデルの豊かなトルクも大変な魅力だ。
ただ、筆者は日本の道を走るクーペであることを考えれば、3.0Lは分相応なパワーを備えていると感じる。
また、3リッターのモデルには壊れやすい装備があまり奢られていないことも、現代に乗るには良い要因だろう。
内装はファブリックのシートと本木目、アイボリーとブラウンの空間。
ラウンディッシュに乗員を取り巻く空間の思考そのものが、いかにもバブル前後の開発だ。
80年代後半に作られたであろうベースのコンセプトは、現代でも通用するものである気がする。
嫌味なくシンメトリーにつくられたセンターコンソール、ささやかなカップホルダー、横方向にベクトルを流した木目の加飾と同居するエアコンレジスター。
91年の登場時からマイナーチェンジの際にも、基本的に大きな変更はほとんどない車内。
インテリアにはメッキの部品も塗装された箇所もないが、リッチな車内を演出していると思う。
国産車のマニアが乗り込むと「あぁ~トヨタ車の香り!」と漏らす車内の独特な匂いを含め、メーカーが思い描いた”演出”ではない部分まで、筆者の記憶に刻まれている。
■ソアラを取り巻く環境を振り返る
何度かオーナーズクラブのミーティングに参加させていただいたこともあったが、10代のオーナーさんをはじめ、新車から乗り続けている60代の方まで幅広いユーザー像であると見受けられた。
平成に生産された他のFR車であれば、ドリ車にしたりカスタムしている個体の参加数もかなり多いかと思うが、ノーマルで参加されている方もそれなりに多く、ソアラという個体のキャラクターが好まれているのだなあ、と感じられることも少なくなかった。
ここ数年の筆者は、サブ車や別の趣味のクルマを持ち、ソアラにはあまり乗らない状態が続いている。
おまけにイベントが激減した数年前から集まりに行くことも少なくなり、自分自身のカーライフへの接し方も随分変わったなあ、と感じる今日この頃だ。
記事の執筆のためにオーナー様への愛車取材をしていると、「生涯乗ります!」と教えてくれる方も多い。
そんな力強い言葉をうかがうたび、自分はどうだろうかと自問自答している。
「ソアラとの関係も、そろそろ見つめ直す時期がやってきているかもしれない」
そんなことを思いながら運転席のドアを開けると、やっぱり愛おしさがこみあげてきてしまうものだ。
“眺めてるだけで良い”、と“まだ沢山誰かに乗ってほしい”の気持ちの間で、もう少しの間揺れ動くことになるだろう。
こういった悩ましさも含め、古いクルマと付き合っていくことなのかもしれない。
[ライター・画像 / TUNA]