レガシィグランドワゴン――。この名前を知っている人は、よほどのスバル通かRV好き(当時はSUVをこう呼んだ)でしょう。
それもそのはず、たったの3年しか使われなかったモデル名なのですから。
でも、「レガシィグランドワゴン」が、今に続く重要な役割を果たしたモデルであることは間違いありません。
その姿から想像がつく人もいるでしょう。
そう、現在の「アウトバック」の原型となるモデルなのです。
▲1995年「レガシィグランドワゴン」
■ハリアーやフォレスターの誕生より前に
セダンの「レガシィB4」が国内市場から姿を消した今、スバルのフラッグシップとしての位置づけを担うアウトバック。
先代まではレガシィB4も存在しており、その姿からも“レガシィの派生モデル”であることは、容易に想像がつきます。
では、いつレガシィから派生し、そして独立したモデルへとなっていったのでしょうか。
その起源を辿っていったときに行き着くのが、1995年に誕生したレガシィグランドワゴンです。
レガシィグランドワゴンは、レガシィツーリングワゴンをベースに車高(最低地上高)をあげ、大型フォグランプを埋め込む専用デザインのフロントマスクと2トーンボディカラー、オールシーズンタイヤの装着によりRV仕様としたもの。
エンジンは、レガシィよりも余裕をもたせた2.5リッターを搭載し、「フォレスター」誕生以前のスバルでオフロード色を強めたモデルとして登場しました。
▲インテリアも専用のシート生地などを採用
1995年という時代は、1980年代後半から巻起こったRVブームの余波が残っていた時代。
前年の1994年にはホンダ「オデッセイ」が誕生し、レガシィツーリングワゴンGTが開拓したステーションワゴンの台頭もあったものの、街中では三菱「パジェロ」やトヨタ「ランドクルーザープラド」、日産「テラノ」、いすず「ビッグホーン」といったRV車が数多く走っていたものです。
レガシィツーリングワゴンGTによって“走りのワゴン”というジャンルを確立したスバルがRVをラインナップに加えたかったことは、想像にかたくありません。
実際に、いすずからビッグホーンのOEM供給をうけ、スバル ビッグホーンとして販売していたこともあります。
▲スバル「ビッグホーン ハンドリング・バイ・ロータス」
しかし、スバル ビッグホーンは、いすず ビッグホーンのエンブレムを六連星に変えただけのクルマ。
スバルらしさは皆無で、“売れるクルマ”となるわけはなく、1993年に販売を終了します。
グランドワゴンが実質的なビッグホーンの後継者だと言うと少し乱暴ですが、スバルとしては待望の自社製RVだったのです(余談ですが、グランドワゴンと同じ1995年には同じ手法でインプレッサベースのインプレッサグラベルEXを発売しています)。
■ランカスター、そしてアウトバックへ
なぜ、レガシィグランドワゴンを「名車&迷車」として取り上げるのか。
それは、クルマそのもののデキや希少性などではなく、ネーミングにあります。
レガシィグランドワゴンという名称は、わずか3年しか使われなかったのです。
しかも、グランドワゴンからすぐに現在のアウトバックへと改称したわけではなく、なんとマイナーチェンジで名称変更されたのですから、不遇な話。
新名称は、イングランド北部、ランカシャー州北西部の都市名に由来する「レガシィランカスター」となりました(改称後、わずか1年でフルモデルチェンジを実施するので、BG型ランカスターもなかなかの不遇モデルに……)。
▲わずか1年の販売となったBG型「レガシィランカスター」
とはいえ、レガシィグランドワゴンが残した功績は、小さくありません。
実はアウトバックの名で販売された北米でこのクルマはヒット。
1998年にはボルボが「V70XC」を発売し、1999年にはアウディが「オールロードクワトロ」を投入するなど、多くの追随車を生み出しました。
初代トヨタ「ハリアー」が誕生したのも、グランドワゴン登場以後の1997年です(フォレスターも1997年に登場)。
この流れは現在も続き、今ヨーロッパのワゴンモデルを見てみると、メルセデス・ベンツ「C/Eクラス オールテレーン」にフォルクスワーゲン「ゴルフ/パサート オールトラック」、ボルボ「V60/V90クロスカントリー」と、ステーションワゴンベースのクロスオーバーSUVのラインナップは多岐にわたります。
▲2023年ボルボ「V60クロスカントリー」
その元祖がレガシィグランドワゴンだったと考えると、存在感は希薄でも残した功績は非常に大きなものだったと言えるのではないでしょうか。
なお、レガシィグランドワゴンはランカスターへと改称後、レガシィシリーズは3代目へとフルモデルチェンジ。そして、次のフルモデルチェンジで4代目となるとともにグローバルネームである「アウトバック」を名乗るようになり、現在へと至ります。
▲BH型「レガシィランカスター」
▲BP型「レガシィアウトバック L.L.Bean EDITION」
個人的には、BH型ランカスターに追加された水平対向6気筒エンジン搭載モデル(ランカスター6と名乗った)や、BP型アウトバックに設定された「L.L.Bean EDITION」も気になりますが、レガシィツーリングワゴンのRV仕様であると同時に、2.5リッターエンジン搭載の上級仕様として大人の雰囲気をまとったグランドワゴンに大きな経緯を評したいと思います。
[画像:スバル・Volvo/ライター:木谷宗義]