現在ミニカー業界でもっとも勢いのあるカテゴリーが、1/64サイズのミニカー。
今や1/43ミニカーや1/18ミニカーを上回る勢いで、各社から新製品が続々登場している。
そこで今回は、1/64サイズのミニカーが主流となってきた歴史的な背景と、人気の理由について掘り下げてみたい。
■拡大を続ける1/64ミニカー
ミニカーといえば、ひと昔前はミニカーの標準スケールとなる1/43製品が主流だった。
そのあとは1/18スケールの製品が数多く発売されるようになり、大きなスケールのミニカーが数多く見られるようになった。
しかしここ数年は1/64サイズのミニカーが急速に勢力を拡大。
逆に1/43スケールのミニカーは新製品が減り、少し前まで元気のあった1/18スケール製品も現在は以前のような勢いは見られなくなっている。
■1/64ミニカーが好調なワケとは?
このようなミニカーのトレンドにはいくつか原因がある。
まず大きな理由として挙げられるのが価格面での優位性。
原材料や人件費の高騰、それに円安に伴い、ミニカー全体の価格上昇が止まらない状況になった。
そのため、1/43ミニカーは今や1万円前後のものが多く、気軽に買えるようなアイテムではなくなっている。
ましてや、1/18ミニカーになると1万円を超えてくるものがほとんどなので、欲しくても手が出せないという状況になってきた。
以前のようにひとつの車種でカラーバリエーションを揃えたり、F1マシンをドライバー違いで揃えるようなミニカーコレクションの楽しみが難しくなってきたのだ。
一方、1/64サイズのミニカーであれば千円以下で買えるアイテムもある。
もちろん単価が安ければ多くのアイテムを購入できるわけで、カラーバリエーションなどの仕様違いも追いかけられる。
1/64サイズのミニカーにはまだミニカーコレクションの醍醐味が残っているのだ。
もうひとつの大きな理由は、1/43や1/18スケールでは、製品化すべき車種がほぼ出尽くしてしまったこと。
人気車種のほとんどが製品化され、複数のメーカーが同じ車種を同スケールで製品化することも珍しいことではなくなった。
そのため、従来とは違うスケールで製品化する必要が出てきたのだ。
お気に入りの車種は、すでに1/43や1/18スケールのミニカーで持っている場合が多い。
しかし、新たに1/64サイズのミニカーが発売されれば、買ってしまうのがミニカーファンというもの。
そういった意味では、1/64サイズのミニカーはまだまだ開拓の余地があるといえる。
しかも近年の1/64サイズミニカーはクオリティの高い製品が多い。
1/43スケール並みの再現度を誇る製品はもはや当たり前。
なかにはボンネットやドアが開閉するフルディテール製品もあり、そのクオリティには度肝を抜かれる。
一切の妥協を廃した精緻な出来の製品も少なくないので、もはや1/64サイズのミニカーに「安かろう悪かろう」という言葉は通用しない。
もうひとつ重要なのは、サイズが手頃ということ。
1/64サイズのミニカーはだいたい6cmから8cm前後のものが多いので、パッケージに入った状態でもさほど保管場所に困らないというメリットがある。
逆にいえば1/18ミニカーは高価でパッケージも大きく、収納場所があっという間に埋まってしまうのがネックだった。
1/64サイズのミニカーは、手軽な価格でコレクションが楽しめ、なおかつ収納場所にも余裕があるのでありがたい。
ミニカーコレクターにとっては最後の楽園というべき存在だ。
■実は昔からあった1/64サイズ
そんな1/64サイズのミニカーは、実は昔からさまざまなブランドが存在していた。
日本のトミカやアメリカのホットウィール、フランスのマジョレットなどの手のひらサイズのミニカーがそれに当たる。
それらは1/64スケールという縮尺ではなく、パッケージサイズに合わせてスケールが決まっている。
そのため、必ずしも1/64スケールであるわけではなく「3インチミニカー」と呼ばれることもある。
ただ、その多くは1/64スケールに近い大きさで、実は子どもの頃から親しんでいた身近な存在であることが分かる。
■日本の1/64サイズミニカー
1970年に誕生したトミカは、日本を代表する手のひらサイズのミニカー。
「黒箱」と呼ばれる初期の日本車から「青箱」と呼ばれるトミカ外国車シリーズを経て、現在は「赤箱」と呼ばれる製品が販売されている。
トミカで厳密に1/64スケールとなっているものは少なく、例えば1/62など微妙に縮尺が異なる場合がほとんど。
そのため厳密に1/64スケールにこだわるならセレクトから外れてしまうのが難点。
とはいえ、大人の鑑賞に堪える派生アイテムも多数展開されている。
2001年に発売された「トミカリミテッド」は、トミカのボディはそのままに、各部に彩色を施し、さらにゴム製のタイヤと新規製作によるホイールを装着したハイグレード製品。
現在はシリーズ自体がディスコンになってしまったが、その後継といえる「トミカプレミアム」が2015年に誕生した。
こちらはトミカシリーズとは別のオリジナル金型を使用していて、トミカでは発売されないようなネオクラシックのモデルなども発売。
ミニカーファンのみならず、クルマ好きの間で話題となるような車種も多数製品化されている。
「もしトミカが昭和30年代に誕生していたら」というコンセプトで2004年に誕生したのが、トミーテックが発売する「トミカリミテッドヴィンテージ」。
各製品はボディの大きさに関わらず1/64スケールで統一。
懐かしい国産車を中心にラインアップを広げている。
再生産をしないため、プレ値で取引されるアイテムも少なくない。
そして2006年に発売されたのが「トミカリミテッドヴィンテージNEO」。
こちらは1970年代以降に登場した国産車および輸入車を製品化したもの。
フェラーリやレーシングマシンなどはエンジンルームも再現されていて、世界的にもトップクラスの再現度を誇っている。
さらに2010年からは「トミカラマヴィンテージ」も発売。
トミカリミテッドヴィンテージのミニカーと併せて楽しめるジオラマ製品として話題となった。
トミーテックはさらに「トミカラマヴィンテージ」の新作として、高速道路を発表。
2024年2月の発売とされている。
複数の製品を組みわせることで都市部の高速道路を再現できるこの製品は、これまでミニカー関連商品の常識を覆す超大作で、その勢いは止まるところを知らない。
日本のメーカーとしてはもっとも多くの1/64ミニカーを輩出している京商。
サークルKサンクス限定で販売された1/64ミニカーは、高品質と低価格を両立したシリーズとして大好評となった。
かつては精緻な出来の「ビーズコレクション」なども展開。
現在もさまざまな企画で1/64ミニカーをリリースしている。
アオシマの「1/64 ニッサン パイクカーコレクション」は、ボディカラーが分からないブラインドトイとして発売されている製品。
880円という低価格なので、運試しに買ってみるのも面白い。
書店でも1/64ミニカーを買うことができる。
デアゴスティーニの「日本の名車コレクション」は、文字通り日本の名車を1/64ミニカーで再現したシリーズ。
1/64スケールでは表現が難しいフェンダーミラーも、別付けではなく取り付けた状態で再現するなど、精巧なつくりを特徴としている。
■海外の1/64サイズミニカー
海外メーカーにも1/64サイズのミニカーがたくさんある。
特に最近は香港と中国のメーカーが積極的に参入し、さまざまなミニカーが発売されている。
すべてをご紹介するのは難しいので、その中からいくつかピックアップしてみた。
アメリカ製のミニカーは、ホットウィールで世界を席巻したことでも知られるように、昔から手のひらサイズの製品がたくさん作られている。
発祥はイギリスだが、ホットウィールと同じアメリカのマテル社が展開するマッチボックスは、昔から手のひらサイズのミニカーを展開している老舗ブランド。
ベイシック系からコレクター系までさまざまなアソートがあり、日本未入荷品も少なくない。
コレクション沼にハマってしまいがちなアイテムだ。
アメリカには、写真のジョニーライトニングをはじめとする1/64スケールのミニカーブランドが存在する。
アメリカ以外のメーカーでは製品化されないようなマニアックなアメリカ車もあるので、アメ車好きにはたまらない。
欧州のメーカーは、昔から3インチサイズのミニカーを発売してきた。
なかでもフランスのマジョレットは老舗とも言える存在。
日本では製菓会社のカバヤと共同で新作ミニカーを発売している。
スーパーで手軽に手に入るミニカーとしても貴重な存在だ。
ひと昔前は、100円ショップでもマイスト製などの1/64サイズのミニカーを販売していた。
出来はそれなりだが、トミカよりはるかに安い100円でミニカーが買えるという唯一無二の存在だった。
トイザらスのオリジナルミニカーブランドとして発売されているスピードシティは、現在もっとも手軽に入手できるミニカー。
1/60スケールで249円という低価格が最大の魅力。
売れ線のスポーツカーだけでなく、アウディ・スポーツ クワトロのようなマニアックな車種もラインアップされている。
シトロエン、プジョー、ルノーなどは、純正コレクションとして3インチミニカーを発売している。
1000円以下で買える気軽さとカラーバリエーションの豊富さは、純正品ならではの魅力だ。
ドイツのメーカーは、鉄道模型のHOゲージに相当する1/87スケールの製品が多く、1/64スケールはこれまでマイナーな存在だった。
1990年代につくられたミニチャンプス製の1/64ミニカー「マイクロチャンプス」は、当時人気だったDTMマシンなどをラインアップしていた。
しかし、販売が振るわずディスコンになってしまった。
ミニチャンプスでは「マイクロチャンプス」の失敗の後も「ミニチャンプス 64」ブランドで再び1/64ミニカーに参入した。
ミニチャンプスと同じようなシャープな出来栄えだったが、このシリーズも残念ながら失敗。
短命に終わってしまった。
中国や香港などのメーカーが生産する近年の1/64ミニカーは、非常にクオリティの高い製品が多い。
ターマックワークス製のミニカーは、レースカーやラリーカーのラインアップが豊富で、日本人好みの車種も数多く発売されている。
香港のTSM-Modelが展開する1/64ミニカーのブランドが「MINI GT」。
高品質とリーズナブルな価格を両立しているため人気が高い。
高品質なミニカーをリリースするメイクアップでは「Titan 64」のブランド名で高品質な1/64ミニカーを発売している。
1/43や1/18ミニカーと変わらない入念な仕上げが特徴で、究極的な完成度の高さを見せる。
その代わり価格は1万円を超えるので、良くも悪くも1/64ミニカーを超越した存在だ。
このように、1/64サイズのミニカーはさまざまなアイテムが揃っている。
厳密に1/64スケールにこだわるかどうかはその人次第だが、対象を絞り込んだとしてもバリエーション豊かなミニカーコレクションになることは間違いない。
手のひらサイズのミニカーはやはり奥が深い。
[ライター・画像 / 北沢 剛司]