去る12月11日、西東京は国道20号線沿いにある谷保天満宮にて、クラシックカーが集結し、谷保天満宮旧車祭が開催された。
境内のそこかしこに往年の名車や希少車、スーパーカーが立ち並ぶ。
実に3年ぶりに開催された同イベントに参加した車両は115台に及んだ。
主催はオートモービルクラブジャパン(以下ACJ)。
谷保天満宮は日本のカーイベント発祥地であり、その始まりは明治41年に発足されたオートモービル・クラブ・ジャパンによる国内最初の遠乗会にある。
現在のACJは2011年8月1日このクラブの103周年の記念の日に再結成され、以来20年以上にわたり様々なカーイベントを催してきた。
その意味では、谷保天満宮旧車祭はクラブの中でも本命イベントといえるものだ。
神社を中心に所狭しと並んだ旧車たちに大人は懐かしさや羨望のまなざしを、子供は見たことのないスタイルのクルマ達に目を輝かせていた。
■象徴たるタクリー号
日本初のツーリングである遠乗会、このイベントに有栖川殿下が自らハンドルを握って参加したのがタクリー号であった。
初の国内産ガソリン自動車、明治40年に国産吉田式自動車としてタクリー号は生まれた。
人力車や馬車、荷車が走る未舗装路をガタクリ、ガタクリと走る様からタクリー号と愛称が付いている。
しかし、残念ながら本物のタクリー号は現存しておらず、画像の車両は2012年4月に発足した実働レプリカ制作プロジェクトにより復刻された車体だ。
こちらは谷保天満宮旧車祭世話人会が中心になり、1930年製のオースチン・セブンをベースに制作された車両になる。
同年8月1日に谷保天満宮本殿にて完成披露が行われ、第1回の熱海ヒストリカGPのひと月まえには天満宮から熱海の梅園まで実際に走っている。ACJの象徴ともいえる車両だ。
■谷保天満宮とACJ
谷保天満宮は東日本最古の天満宮であり、亀戸天神、湯島天満宮と並び関東産大天神と呼ばれている。
学業の神様である菅原道真を祀っていることからも学業成就や合格祈願、厄除けはじめ、もちろん上記の経緯からもわかるように交通安全祈願の祈祷もおこなっている。
当日も参加車両が神主に祈祷を受けることができるようになっていた。
この後、午後からはパレードランとして国立まで沿道の人々に見送られながら走ることもあり、 多くの参加者が愛車とともに祈祷を受けていた。
■横道を行く
毎回本会場以外で止まっているイベントに来た車両を見て回るイベントの横道。
今回はイベント会場であるが、第2会場となったことで本殿に直接行ってしまった方が見過ごしたかもしれない車両群としてスポットを当ててみたい。
第2会場はイタリアンカーを中心に90年代の軽スポーツが並んでいた。
その中で、入って正面の中心にいたのがスバル360ヤングSSだ。
スバル360は1958年、まだまだ庶民にはクルマは高嶺の花として考えられていた時代にサラリーマンでも手に入れられるクルマとしてデビューした。
小さくても大人4人が快適に乗ることができる性能を実現するためのパッケージングや軽量化に挑戦。
当時スバルの持っていた元航空機メーカーとしての技術を余すことなくつぎ込んだモデルだ(スバルオンラインミュージアムより)。
デビューより10年の年月を経て競合他社に対抗するべく送り出したスポーツモデルがヤングSSだ。
その性能はデビュー当時の358㏄16馬力から排気量は変わらずに、36馬力と実に2倍以上のパワー、マニュアル3速から4速モデルへの変更を持って登場した。
外装には専用のボディカラーやボンネットのヤングSSを示すストライプ、タコメーターや革巻きステアリングを装備するなど、スバルのスポーツモデルの原点ともいうべきモデルだ。
会場では同じくRRのフィアット500に挟まれながら、その小さなテントウ虫はしっかりと存在を主張していた。
■Back to 20世紀
実は今回ほど横道が目移りしたイベントもなかったのではないか?と思えるほどに街のそこかしこに旧車が止まっているイベントであった。
会場である谷保天満宮が基本、参加車両で手いっぱいであったこともあり、当然のことながら見物に来た車両はそうした周辺駐車場にまわる。
そうして会場を中心に見渡すと、コンビニや路地を走るクルマの多くが旧車という事態になっていた。
谷保の町並みは最近改装が目覚しい南部線沿線としては、駅舎も含め昔の雰囲気を比較的に残している。
それも相まってまるで町全体が過去に戻ったかのような気分になれた。
それが良いか悪いかは筆者には答えられない。
しかし、わずか数時間のタイムスリップはとても心地のよい時間をもたらしてくれたと思う。
■オートモービルクラブジャパンHP
https://acj1908.com/
■谷保天満宮HP
http://www.yabotenmangu.or.jp/
[ライター・撮影/きもだ こよし]