■活況だった1990年代後半の中古車業界
私が中古車販売店の営業になったのは25年前の1997年、平成9年のことでした。
当時はまだ「旧車、旧車」と騒がれていない時代でした。
新車販売が低迷するなか、中古車業界は活況。
軽自動車、ミニバン、ステーションワゴン、セダン、スポーツカーなど、どのジャンルも飛ぶように売れる時代でした。
1997年といえば、中古車販売もインターネットより雑誌媒体が主流。
関東版カーセンサーやGoo(現グー)は約3cmもの分厚さだったんです。
それだけ、中古車販売店や掲載する台数が多かったということですね。
当時はとにかく若いお客様の勢いがすごかったことを覚えています。
免許取り立ての方も頭金なしで、すぐにローンを組んでクルマに乗っていたような時代です。
100~150万円くらいの価格帯の中古車が売れ筋でした。
新人の私でも月に10台は売れた結果、すぐに天狗になってしまう業種だったのです。
独立も夢ではない、古物商と土地と資金があれば開業できました。
販売車の仕入れのほとんどが業者オークションで、売れ筋を買い集めたもの勝ち!という世界。
今振り返ると、程度を見極めて仕入れしていた販売店があっただろうか・・・。
メーター改ざん車や、修復歴有無の確認が曖昧のままユーザーに流れているケースも多かったように思います。
■勢いのある中古車業界に飛び込んだ結果・・・
私が最初に配属になった店舗は、スポーツカー専門店でした。
R32スカイライン、S13シルビア、180SX、ソアラ、スープラ、MR-2、セリカ、RX-7、GTO、ドリ車など人気車がずらり並び、華やかな展示場でした。
土日は朝から来店が絶えず、店頭にならべられた中古車は次々に売れていきました。
ただ、似たようなお店が同じ県内に続々と出店してきた結果、客取り合戦が勃発。
とにかく中古車を売らなきゃいけない時代でしたので、展示車をどこよりも綺麗に見せて、いいことをいって売る営業スタイルになっていたのも事実です。
クルマの知識はそこそこに「どうやったら客を落とせるか?」というしか考えていませんでした。
なにしろ、中身のない「お調子者営業マン」です。
そんな調子だったので、クレームが多かったことも事実。
売れば会社に評価されるけれど、何とも後味が悪い・・・。
気付けば数字に踊らされて、お客様のために売っているという実感がなくなっていったのです。
■他店との差別化で生まれた70スープラ専門店
そんな葛藤のなか、悩んでいる暇もなく、ずるずると時は流れてしまいます。
そんなとき、あるきっかけから、車種を絞った専門店に目をつけたのです。
それはつまり、同業他社とは一線を画す「差別化戦略」でした。
1990年代後半当時、スカイラインGT-R専門店は存在していたと思いますが、車種を絞ることでお客様も減るので、当時の社長には大反対されました。
強行突破ではじめたのが70スープラ専門店です。
セリカXXに憧れていた時期があったので、70スープラは自然な流れだったのかもしれません。
なぜこれにしたのか?実ははっきりとは覚えていません。
でも・・・これは当たりました。
特に2.5GTツインターボRは、置けば売れる入れ食い状態でして、全国のオークションで片っ端から仕入れしました。
しかし、スープラが売れまくる一方で、物足りなさもありました。
トヨタ車は壊れないので、ご納車後、次にお客様とお会いするのは車検のタイミングなのです。
久しぶりにお客様へ連絡してみると、いつの間にか別のクルマに乗り換えていたり、他のショップに出入りしていたり・・・。
自分でも、何のためにクルマを売っているのか分からなくなりました。
クルマを集めて、ただ磨いて売るだけなら誰でもできる。
30歳を過ぎて、こんな仕事をしていてはダメだと思うようになっていったのです
■運命的な出会いとZ32専門店の誕生
そんななか、たまたま下取りで入ってきたのが真っ赤な元年式のフェアレディZ(Z32)でした。
私が二十歳の頃にデビューしたクルマでしたが、当時は高嶺の花だったので、頭からすっかり消えていたのです。
改めて見たZ32は、華やかで、美しくて、格好良くて・・・。
今まで見てきたスポーツカーとは違う雰囲気とオーラを持っているように感じたのです。
まさに運命的な出会い。
私は直観的に「これがおそらくラストチャンスだ!日本一のZ32専門店を作るぞ!」と迷いなく決めました。
特にトヨタが良いとか、日産が良いとか、メーカーへのこだわりはなく、Z32の格好良さだけで決めたようなものでした。
その頃のZ32はまだ新車も販売している現役モデルでありながら、中古車相場は100~200万円に落ち着いてきていました。
なぜか根拠のない勝算と自信があったのです。
しかし、この決断が自虐行為になるとは思いもよらず・・・。
実は、そこからさらに苦悩の日々に陥っていくのです。
[つづく]
[ライター・撮影/小村英樹(Zone代表)]