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筆者の愛車はホンダ S2000(AP1)。 1999年式の「初期型」だ。約16年前に中古で手に入れた。 16年という年月を過ごしているうちに、S2000は「旧車」となったようだ。 S2000を含む80〜90年代に生産されたクルマたちはいつしか「ネオクラシック」と呼ばれ、中古市場も高騰中と聞く。 しかし正直なところ、現在のS2000の立ち位置など個人的にはどうでも良い。 ほぼ毎日乗り、人生の節目はもちろん、苦しい場面も一緒にくぐり抜けてきた存在。 S2000が語られるときは「唯一無二」と表現されるが、自分にとってはこの個体こそが唯一無二だと思っている。 ▲エンジン載せ換え以降25万キロ以上走行している(実走行は31万キロ)筆者のS2000。外内装ともくたびれてきた 筆者のS2000は、2012年に中古エンジン(約8万キロ)に載せ換えている。 それから約10年が経過。 エンジンも25万キロを越え、車体は31万キロを越えた。 2021年の秋頃からはエンジンが掛かりにくくなる症状も。 「本当に良くないことが起こり始めている。早く対処しなければ二度と乗れなくなるかもしれない」 そう危機感を抱いていたところ、友人の紹介でS2000のリフレッシュ&チューニングを数多く手がける広島県福山市の「ComeTec」にご縁があり、エンジンのオーバーホールが決まった。 今回は愛車の修理レポートとともに「S2000との付き合い方」を取材。 “旧車”となったS2000とのこれからの付き合い方について「ComeTec」の代表・熊谷展宏さんにお話を伺った。 ▲AP1に搭載される直列4気筒DOHCエンジン「F20C」の特徴的なカムシャフト。高回転エンジンのため慴動部が多く複雑な構造[写真提供/ComeTec] ■S2000のスペシャリスト「ComeTec」 今回、お世話になった「ComeTec」。 代表の熊谷展宏さんは、ディーラー勤務を経てホンダ系のチューニングショップへ。 2010年に「ComeTec」を設立。 自動車メディアでは「ホンダ車のスペシャリスト」として登場するイメージが強いが、手掛ける車種は幅広い。 熊谷さん自身がMINIのオーナーだったこともあり、MINIやAbarthなどの輸入モデルからGRヤリス、86/BRZといった近年の国産モデルまでさまざま。 ショップを経営する傍らスーパー耐久のメカニックとしても活動するなど、豊かな経験と実績を誇る。 なかでもS2000は特別な存在で、リスペクトしているとのこと。 ◆熊谷さん:20年も前によくぞ出したなと思います。ホンダはこの先、FR車を出すことはないでしょう。S2000は特別な存在だと思いますし、ライフワークとして携わりたいですね。「あと20年以上元気に走る」をモットーに取り組んでいます。 ●デモカーはサーキットマシンとして22万キロの個体をリフレッシュ! ▲塗り替えられたマツダのボディカラー「セラミックメタリック」が、S2000のもつ凛とした美しさを一層引き立てる[写真提供/ComeTec] デモカーは22万キロ走行個体を譲り受け、サーキットマシンに生まれ変わらせている。 リフレッシュとチューニング、耐久性も高められている。 「車体がしっかりしていれば、一級のマシンになります」と熊谷さん。 ◆熊谷さん:デモカーはサーキット専用ですが、最も力を入れているのは、できるだけ新車に近づけるリフレッシュメニューです。お客様が手に入れた当時の気持ちになっていただけるようにベストを尽くします! もちろん、お客様のサーキットと普段乗りの割合によって、リフレッシュ&チューニングメニューも調整可能です。基本のメニュー設定は「エンジン、トランスミッション」「車体、足回り」「外内装」の3パートあり、いずれかを軸にプランを立てていきます。サーキット仕様をご希望の場合は、レストアしながらモディファイできますよ。 ▲ベース車両は22万キロ以上走行したAP1の初期型[写真提供/ComeTec] ▲エンジンはオーバーホールの際に戸田レーシングのキャパシティアップ2350キットを導入[写真提供/ComeTec] ▲骨組みまで分解。ボディや足回りにはAP2補強パーツも加工流用されている[写真提供/ComeTec] ▲車体、足回り、エンジンが完成した後はレースに出場[写真提供/ComeTec] ▲どんなサーキットでも扱いやすく、耐久性も高められている[写真提供/ComeTec] ■あらためて愛車の状態を目の当たりに ▲カーボンが堆積してしまったエンジン内部[写真提供/ComeTec] さて、筆者の愛車。 エンジンの内部を確認して言葉を失ってしまった。 真っ黒に汚れたエンジン。 「愛車は大切な存在」などと、SNSで発言した言葉がみるみる霞んでいった……。 エンジンを分解した直後の状態を熊谷さんに伺った。 ◆熊谷さん:カーボンの堆積が、これまで見た中で最もひどいレベルでした。原因はいくつかの要因がからみ合っていると思われます。8万キロの中古エンジンに載せ換えているそうですが、このエンジンが載せ換えられるまでにどんな乗り方やオイル管理をされていたかも影響していると思います。 ーーこのエンジンが載せ換えられるまでに、どんな乗り方がされていたと推測されますか? ◆熊谷さん:近距離移動の「ちょい乗り」が多かったり、渋滞によるストップ&ゴーが頻繁だったりするシビアコンディションが多かったと推測されます。 「ちょい乗り」やストップ&ゴーの繰り返しは、低回転走行により理想的な燃焼がしにくくなり、カーボン発生の原因になります。 さらにエンジンオイルの温度が低いままだと、性能が発揮できずエンジンの消耗が進み、ブローバイガスが増えて、これもカーボン発生の原因になります。 この堆積したカーボンがピストン、シリンダー、バルブシールの間に入り込んでしまうことで燃焼が悪くなり、さらにカーボンが溜まるという悪循環を生みます。 ーーオイル管理は、適切なサイクルで行われていなかったということでしょうか? ◆熊谷さん:交換時期というよりも、S2000に適したオイルを使用していなかったことでエンジンに負担がかかっていた可能性があります。 エンジンオイルにはポリマー(添加剤)が入っていますが、オイルが熱して冷えたり水分を含んだりを繰り返すうちに、ポリマーが分解されて泥状の沈殿物、いわゆるスラッジになります。 質の良くないエンジンオイルだと、スラッジが出やすくなります。さらにスラッジがオイルと一緒に回ってしまうと、仮にその後良いオイルを使ったとしても性能は落ちます。ピストンリングに堆積すると燃焼室にも入り込み、オイル上がりを起こします。 筆者の1基目のエンジンが17万キロを迎えた頃、当時お世話になっていた主治医からオーバーホールの提案があった。が、当時の筆者は予算の事情もあり、結局中古エンジンへの交換を選ぶ。そして主治医に無理を言って探していただいたのが、現在のエンジンだ。 ▲筆者のエンジンはオイル上がりを起こし、ブローバイガスが増えていたはずだ[写真提供/ComeTec] ーー最初に「いくつかの要因」とおっしゃっていましたが、他にはどんなダメージが考えられますか? ◆熊谷さん:S2000が高回転型エンジンであるがゆえのダメージですね。一般的な自動車よりも1000回転以上多いS2000の圧縮比は11.7対1と高いため、シリンダーやピストンに負担が掛かります。元々強くつくられているものの、通常より消耗は早く、劣化にともなって出力も低下していきます。 ▲摩耗したピストン[写真提供/ComeTec] ▲シリンダーも摩耗していた[写真提供/ComeTec] ●あらゆる部品を交換 さらにエンジン周りのあらゆるパーツが、経年劣化によって交換レベルに達していた。 乗り始めてまもなく交換したラジエーターも樹脂部分がボロボロに。 エンジンマウント、ミッションマウント、ノックセンサー、オルタネーター、O2センサー、サーモスタット、オイルポンプ、ウォーターポンプなどが交換となった。 エンジンハーネスは熱で損傷。 始動不良の原因にもなっている可能性があるという。 ありがたいことに、ストック部品を使って新調することになった。 エンジンハーネスは今後、供給が危ういとされる部品のひとつでもある。 「ストックしておくのがおすすめです」と熊谷さん。 ●ヒーターバルブの破損 ▲ヒーターバルブが割れている。いつ水漏れしてオーバーヒートしてもおかしくない状態だった[写真提供/ComeTec] ●アクセルワイヤーの劣化 ▲ケーブルの表面被覆材が剥がれ、要交換レベル。そしてアクセルワイヤーはすでに廃盤。生産はもちろんメーカーも在庫はないため中古品で対応[写真提供/ComeTec] ●エンジンマウントの破損 ▲ちぎれたエンジンマウント。かなりの振動があったはずだが、毎日乗っていると劣化のサインにも気づきにくくなってしまうそう。今後は定期的なメンテナンスを心がけたい[写真提供/ComeTec] ■油膜の厚い高性能なオイルと「適度なドライブ」でエンジンを保護 S2000といえば、エンジンオイルはどんなものを使うかがよく話題になる。熊谷さんに「良いエンジンオイル」について尋ねてみた。 ◆熊谷さん:S2000にとっての良いエンジンオイルとは「エンジンを保護するオイル」です。油膜の厚い高性能なオイルがおすすめです。 エンジンオイルは冷却、潤滑、汚れを取るなど、いくつもの役割をもちます。それがひとつでも欠けると、エンジンにダメージを負わせてしまいます。S2000のエンジンは高回転型で慴動部が多く、オイルに要求するレベルも高いだけに、役割がひとつ欠けたときのダメージも大きくなります。 当社では、24時間耐久レースで使われているものと同じエンジンオイルをおすすめしています。Moty'sのM111(5W-40)は、強力な油膜でピストンの摩耗を防ぎ、気密性も向上するのでブローバイガスの排出量を減少させてくれます。さらに洗浄性能の高さも大きな特徴です。このオイルを使ってレースでトラブルなく完走できているので、安心して使えますよ。 ーーオイル管理とともに心がけるべきことがありますか? ◆熊谷さん:1度のドライブはできるだけ長距離を走り、ときどきエンジンを回してあげてください。また、カーボンを分解してくれるガソリン添加剤での定期的なクリーニングがおすすめです。そして何よりも愛情をもってS2000に接してあげてください。 ●よみがえるF20C 筆者のくたびれたエンジンは新品に近づいた。 バルブシートカットを行い、バルブの気密性を改善。摩耗したピストンは新品に交換。シリンダーヘッドとブロックは面研して修正された。 ▲シリンダーヘッドはダミーヘッドボーリング、ホーニングされている[写真提供/ComeTec] ■この先、S2000を手に入れたい人へ 最後に、この先S2000を購入する際の注意点を熊谷さんに伺った。 ーーS2000の中古車を購入する前にまず、決めておいたほうが良いことはありますか? ◆熊谷さん:AP1とAP2、どちらの型に乗るかを決めておいたほうがいいでしょう。型式にこだわらずS2000というクルマが欲しいなら、AP2をおすすめします。年式が新しいぶん故障が少ないことと、今後最後まで生産され続ける部品は、AP2の最終モデルが中心になると思われるからです。 ーー程度の良い個体の競争率は高く、一刻も早くキープしたいと思われている方がほとんどだと思います。実際に店へ足を運んでの現車確認は大切ですか? ◆熊谷さん:大切だと思います。試乗が可能であれば必ず乗って、変な振動や異音がしないか確認しましょう。 例えば、S2000はもともとリヤのハブベアリングが強くありません。そこが傷んでいる個体は、乗ってみると高音で引きずるような、あるいは唸るような異音がするはずです。しかも一定の速度域でしか症状が出ないこともあるので、できれば速度域ごとの確認もしたほうがいいかもしれません。 ーーもし試乗が難しい場合は、どんなポイントを重点的にチェックしておくと良いのでしょうか? ◆熊谷さん:S2000はサーキットで酷使され、エンジンを消耗している個体が多いです。できるだけ状態の良いエンジンを選びたいですね。最も素早く見分ける方法は、煤の付き方でしょうか。マフラーのテールとバンパーが煤けている個体は避けたほうが良いでしょう。 外観では、色褪せと幌の状態をチェックしてください。レッドやイエローのボディカラーを選ぶ際は色褪せしやすいです。 ちなみに、特に色褪せしやすいレッドやイエローなどは屋内保管推奨ですが、露天駐車がやむを得ない場合は、2〜3年おきにコーティングして、できるだけ塗装を長持ちさせるようにすると良いでしょう。全塗装するのも手ですね。色にこだわりがなければ、色褪せが目立ちにくいシルバーやホワイトを選ぶのもありです。 幌は、10年を越えていれば張り替えがおすすめです。穴やヒビが入っていないかをチェックしましょう。今は社外品でも質の良い幌があります。カラーも豊富なので好みの幌を選んでみるのも楽しいですね。 ▲レッドやイエローは色褪せしやすい。部分的に塗装していると、経年劣化によって色のばらつきが出ることも ーー極端に低走行な個体も見かけますが、そのような個体はどこに注意すれば良いでしょうか? ◆熊谷さん:例えばAP1(初期型)で約8万キロ走行の個体があったとします。年式にしては低走行だからといって、状態が良いとは限りません。サーキットで消耗しているかもしれないですし、「ちょい乗り」によってカーボンの堆積があるかもしれません。 S2000は高回転型エンジンで消耗が早いぶん、8万キロだとコンディションが落ちている個体が多いはずです。走行距離よりも「どんな乗られ方をしてきたか」に注意したほうが良さそうです。 ●「リフレッシュ費用」込みで購入計画を ーーお話を伺っていると、購入してから何らかのトラブルに見舞われる可能性が高い気がしますね。 ◆熊谷さん:そうですね。現在流通している個体は、10万キロ以上のものがほとんどだと思われます。車齢20年以上といえば、通常なら寿命を迎えているはずです。 購入の際はぜひ、リフレッシュ費用込みで予算を組んでいただきたいです。ゴム類、マウント、パッキン、などの消耗品交換からオイル漏れ対策なども必要になります。しかし骨格がしっかりしているなら、新車に近いレストアもできます。メンテナンス次第で良い状態のS2000と長く付き合えると思います。 ーー今回の修理でリフレッシュがどんなに大事かをあらためて実感しました。納車当時の16年前の気持ちを思い出し、愛情をもって乗っていきたいと思います。ありがとうございました! ■取材後記 プロの手に委ねてみて、気づきはもちろん反省点が多すぎた。16年間どれだけボーッと乗ってきたかを痛感した…。 この先はエンジンだけでなく、コンピュータや足回りなど、他の部分の問題も抱えるかもしれない。 できるだけ対応しつつS2000と長く暮らしたい。「人生の相棒」となるように…。 最後に、丁寧な作業とアドバイスをくださった「ComeTec」さんに感謝申し上げます。 [取材協力]ComeTec 広島県福山市神村町2107-2公式HP:https://www.cometecracing.com/Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100032848646363 [ライター・撮影/野鶴美和]
運転免許を取得するまで、クルマにまったく興味がなかった筆者。 運転はむしろ苦手で当初はAT限定免許を取得。 そんな自分がS2000を愛車とし、20年近く所有している。 「嫌い」が「好き」に変わった。 これは人生でもベスト3に入るほどの謎だ。 S2000はクルマの愉しさを教えてくれ、今も充実したカーライフを与えてくれている。 ■発売から25年が経過したホンダ S2000 S2000はホンダ創立50周年記念車として1999年4月に発売、2009年まで生産された。 ホンダ伝統のオープンスポーツモデル「Sシリーズ」の系譜を受け継いでいる。 キャッチコピーは「リアルオープンスポーツ」。 オープンカーでありながら「サーキットが本籍」というほどの、高い走行性能を備えている。 ▲駆動方式はFR。50:50の理想的な車体重量配分を実現した 生産終了から15年が経とうとしている今でも多くのファンに愛されているのは、量産車でありながら量産車にはない「車格を超えた存在感」があるからではないだろうか。 日常生活でもサーキットでも、乗る人の心を解き放ってくれるS2000。 これまで過ごしてきた日々とともに、筆者なりに感じた魅力を振り返ってみたい。 ■S2000との出会い 筆者が1999年式の初期型(前期型/AP1)を所有し始めて、18年を迎えた。 ボディカラーはグランプリホワイト。 手に入れた当時4万5000キロだったオドメーターは、33万キロに迫っている。 S2000が発売となった1999年当時、筆者はシビック・クーペに乗っており、クルマに興味を抱き始めたばかり。 同じホンダの最新スポーツカーだったS2000も自然とチェックした。 ホンダの公式サイトにはS2000専用コンテンツが開設され、ドアの開閉音やエンジンサウンドなどの音声サンプルも聴くことができた。 また、オーナーがカーライフを投稿するコンテンツ「愛車自慢」にもS2000の投稿が増えていた。 あるオーナーの投稿の「山頂まで走り、S2000で車中泊をしてご来光を拝んだ」という内容がきっかけで、S2000との暮らしを妄想するようになった。 「いつか手に入れたい」という気持ちが生まれ、S2000に傾いていく。 ■所有して感じたS2000の魅力 【魅力1】官能的なF20C型エンジン 昨年、大規模なリフレッシュを決行した。 経験豊かなショップ「ComeTec」とご縁があり、エンジンを修理していただいた。 心から感謝を伝えたい。 慣らし運転を終え、何の不安もなく高回転まで回せるようになった。 S2000に乗る喜びを噛みしめている。 オーバーホールでは、劣化したエンジンまわりの部品がほぼすべて交換となった。 使われた部品は貴重なストック部品だった。 なかでもエンジンハーネスは、今後供給が危ういとされる部品のひとつと考えられる。 ストックしておくのがおすすめだ。 ●16年目・25万キロ超え。愛車ホンダ S2000のエンジンをリフレッシュhttps://www.qsha-oh.com/historia/article/nozuru-s2000/ ▲2LのNAエンジンながら最高出力250馬力を誇るF20C。高回転エンジンのため慴動部が多く複雑な構造をしている[写真提供 / ComeTec] S2000の大きな魅力はエンジン。 AP1に搭載される直列4気筒DOHC VTECエンジン「F20C」は、S2000のために専用開発された、9000回転を許容する超高回転型だ。 VTECが作動し、レッドゾーンに向けてドラマティックに盛り上がる様子は音楽を奏でているようで「心に語りかけてくる感覚」を覚える。 全開にした際の加速感も痺れるが、巡航状態からアクセルを踏み込んだときの機敏な反応も「エスとひとつになっている」というしみじみとした感動を与えてくれる。 【魅力2】オープンカーで良かった S2000に乗って魅力を感じた点のひとつがオープンカーであること。 最初はオープンカーに憧れていたわけではなかったが、当時装着していたハードトップを外し、オープンエアを感じた瞬間に世界が変わった。 風に包まれる感覚、ダイレクトに聞こえるエンジンサウンド。 海沿いや林道を走るときはオープンに限る。 景色、匂い、温度、音の変化を感じながら走るのが心地いい。 オープンカーがこんなにも五感を刺激するクルマだったとは。 オープンドライブ後に飲むビールも心満意足なのだ。 ▲ハイXボーンフレーム構造によって、クローズドボディと同等の剛性を実現。電動ソフトトップは6、7秒で開閉する 【魅力3】操る愉しさと難しさが同居する S2000は、誰でもある程度楽しく走らせることができる。 道をトレースするように、イメージ通りに曲がっていく。 ただ、調子に乗っていると途端に牙を剥く。 10年ほど前、ワインディングで事故を起こしたS2000(初期型)の救出に仲間と駆けつけたことがある。 オープンの状態で横転しており、ドライバー本人は道路と座席の隙間にうまく入り込んで無事だった。 運良く小柄な体型だったことと、ハイXボーンフレームが命を救った。 事故を起こしたのは、運転歴が浅く、若いオーナーだった。 彼の仲間がいうには「運転がうまくなったと褒められて有頂天になり、勢いよく走り出してまもなくクラッシュした」とのことだった。 そもそも公道でするべきではないのはもちろんだが、S2000の性能を運転がうまくなったと錯覚していたのだろう。 S2000、とくに初期型といえば「ピーキー」、「乗り手を選ぶ」などの言葉が発売当初からついてまわっているが、実際に乗ってみると普段使いでそれらを感じることはない。 高い速度域での旋回時にコントロールすることが難しいという意味だ。 振り返ってみると、乗り手の自制心やクルマへの向き合い方もS2000に試されているのではないだろうかと感じる。 そういう意味でも「乗り手を選ぶ」はあると思っている。 ■背中を押した2つのこと S2000を購入する前、とても迷った。 スポーツドライビング未経験の筆者が、このクルマを購入してオーナーとしてやっていけるのか。 そんなとき、背中を押してくれた2つの言葉があった。 1.自動車誌の記事 S2000が現行車だったころの自動車誌では、特集が頻繁に組まれていた。 記事の中にこんな一文があった。 「乗りこなすことがすべてではない。S2000に取り組んだ時間そのものに価値がある」 都合の良い解釈かもしれないが、この一文を読んで心が軽くなり、前向きになれたことを覚えている。 2.職場仲間の言葉 当時の職場仲間が、念願だったニュービートルを購入するとうれしそうだった。 そんな彼女の言葉が背中を押してくれた。 「本当に欲しかったクルマとすれ違うたびに、あのクルマに乗りたかったと思うのが耐えられない」 この言葉を聞いてからまもなく、中古車店へ足を運んだ。 ■購入するなら今…かもしれないが、しかし 一時は高騰していた中古車市場も、少し落ち着きを見せているようだ。 乗りたいと思っているなら今がチャンスかもしれない。 ただ、発売から10年、20年が経過している古いクルマでもあるので、購入時はリフレッシュ込みの予算が望ましいだろう。 せっかく手に入れても、次々に故障して入院を繰り返すようではモチベーションも下がってしまう。 そして修理のときにも感じたことだが、S2000の部品供給状態は厳しい。 メーカーにも事情があるにしろ、S2000という車種をもっと大切してはもらえないだろうか。 これは、同メーカーの他車種のオーナーも同じ気持ちだと思う。 S2000よりも高性能なクルマは、あれから数多く登場している。 それでも今なお多くのクルマファンの心を掴むのは、現代のクルマにはない魅力が詰まっているからなのだろう。 1台でも多く元気で走っていてほしいと、いちファンとして願うばかりだ。 ■あのレジェンドコミックの外伝作品に! 最後に、筆者はあのレジェンドコミック「オーバーレブ!」の外伝、「オーバーレブ! 90's -音速の美少女たち-」に出演した。 作者の山口かつみ先生とご縁があり、実現したものだ。 筆者がS2000を購入するまでのエピソードをストーリーにアレンジしていただき、憧れのキャラクターと同じ世界に存在することができた。 山口先生に心から感謝を伝えたい。 ▲©️山口かつみ(秋田書店)2021 「オーバーレブ!」は、続編の本編「クロスオーバーレブ!」が進行中。 最新話は「マンガクロス」にて楽しめる。 ●クロスオーバーレブ!https://mangacross.jp/comics/crossoverrev/1 ▲©️山口かつみ(秋田書店)2019 秋田書店公式HPの「ヤングチャンピオン烈」のページにて、「クロスオーバーレブ!」「音速の美少女たち」を試し読みできる。 ぜひ! ●秋田書店https://www.akitashoten.co.jp/ [取材協力] ・秋田書店 ・ComeTec 広島県福山市神村町2107-2公式HP:https://www.cometecracing.com/Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100032848646363 ・山口かつみ [ライター・撮影 / 野鶴 美和]
クルマに乗るのに、カーエアコンが必須な時期になりました。 1990年、東京都の猛暑日は2日間でしたが、昨年(2022年)は16日と、実に8倍! 一昔前はカーエアコンレス車に乗って「カーエアコンなんて軟弱なやつが使うもの」と、うそぶく方もいらっしゃいましたが、今や自殺行為以外の何物でもない時代となってしまいました。 と、こんなことを書いていた矢先の出来事。 この酷暑の中、すべての窓を全開にした8代目グロリア(Y31)とすれ違いましてね。 おそらくカーエアコンが効かないか、まったく動かないのでしょう。 運転席と助手席には、大学生とおぼしきお兄さんたち。 いや、若さってなんでもアリだなぁ。 いわゆるVIP系のドレスアップをされていない、ノーマル状態で綺麗なグロリア。 中古車の価格には疎いのですが、カーエアコンが不動であっても、決して安くはないと思います。 もっと快適で乗りやすい中古車もあった中での選択。 その素敵な笑顔からも、お兄さんが旧車ライフに踏み出し、グロリアを楽しんでらっしゃることがうかがえます。 納車、おめでとうございます。 くれぐれも熱中症にはご注意ください。 ■夏本番、コンプレッサーまわりの総取っ換え待ったなし! ここ数年、冷房の効きが悪くなった、愛車のS15。 外気が35度を超えると、吹き出し口から“ちょっとだけ涼しい”程度の冷風しか出ず、車内温度が下がらないという症状が出ていまして。 高速道路で渋滞にはまった際、助手席に座る妻を熱中症に陥らせたりもしました。 「さすがに、これはまずい」と、行きつけの自動車整備工場に持ち込んだところ、フロンガスは入っており、カーエアコン自体に異常はなし。 「コンプレッサーが弱くなっているほか、周辺の装備も劣化している。またエンジンルーム内が想定以上の暑さになり、効きが悪くなっているのではないか」との結論に。 そして「修理するなら、コンプレッサーまわりの総取っ換えがお勧め。多分、コンプレッサーだけ交換しても、すぐ周辺に異常が出る」とのこと。 まぁ、そうですよね。 コンプレッサーだけ交換して、勢いが復活! けれど弱いからこそ、バランスが取れていた周辺の装備(コンデンサーやエパボレーターなど)もあって、大きな負荷がかかれば一気に問題が吹き出るでしょう。 コンプレッサーまわりをまとめて交換となると、10万円を超える出費。 けれど猛暑日に達しなければ、まだそこそこ冷房が効いているのが悩ましいところ……。 いやいや、今年の暑さはこれからが本番。 熱中症や事故を防ぐためにも、交換しないわけにはいかないでしょう。 来年になったら、車検でお金がかかるわけですし。 昨今の暑さを想定したパーツに替わるのですから、きっと格段に冷房の効きが良くなる……のでは、ないでしょうか。 一般的にカーエアコンの寿命は10年ほどといわれており、頻繁に使用することで長く調子が維持できるそうです。 S15のカーエアコンは無交換で24年目ですから、かなりの“当たり”を引いたことになります。 こちらをご覧のみなさんは、これから年式が10年以上の古いクルマを購入されるのだと思います。 現車確認の際、カーエアコンまわりが交換してあるかを確認し、無交換だったら乗り出し前に交換してしまうのも手ではないでしょうか。 乗り出した後の不安や苦労の種は、ひとつでも潰しておきたいですからね。 ■夏は旧車の程度や素性を知る良い季節 日本車で最初にカークーラーを装備したのは、初代トヨペットクラウンで1957年。 カーエアコンを装備したのは、2代目トヨペットクラウン(マイナーチェンジ後)で1965年。 オートエアコンを装備したのは、トヨタセンチュリーで1971年だそう。 私が免許証を取得した頃(1990年頃)は、ほとんどの新車にカーエアコンが標準装備されるようになった時代。 子供の頃にはありふれていた三角窓、手動式の車内への空気導入口、後部座席の窓がわずかに外に開く機構は、すっかりと姿を消していました。 けれど当時のカーエアコンは効率が悪く、まだまだエンジンのパワーを食う代物でした。 今やカーエアコンやエンジンの進化、制御の高度化により、カーエアコンがエンジンパワーに与える影響はほとんどありませんが、当時やそれ以前は影響がとても大きいものでした。 特にAT車は排気量が1500~1600ccあっても、フル乗車すると勾配のきつい上り坂で、徐々に速度が落ちてしまいました。 あわててカーエアコンを切ってアクセルベタ踏みし、エンジンを唸らせて登ったのも、懐かしい思い出です。 当時はまだMT車の需要が大きかったのですが(MT27.5%:AT72.5%)、選ぶ理由に「カーエアコンの影響を受けにくい(低いギアで走ることにより、速度低下といった影響を最低限に抑えられる)」というのも、あったかもしれません。 程度の良い個体が多いことや球数の多さもあり、旧車を購入するにあたってAT車を検討されている方も多いと思います。 カーエアコンの影響は思いのほか大きく、特に夏場は大排気量車ではないかぎり、オーバードライブボタンやセカンドレンジを駆使してパワーの低下をフォローする必要が出てきます。 現代のクルマのようにDレンジオンリーで走行というわけにはいかず、必然的にトルクコンバーターやトランスミッションの程度も、重要になってきます。 日本の夏は、クルマにとって過酷な環境。 旧車は試乗が難しいと思いますが、可能ならばカーエアコンを入れて急勾配な上り坂に挑むことで、そのクルマの程度や素性、クセがある程度わかりますよ。 [画像・糸井 賢一,AdobeStock / ライター・糸井 賢一]
日本車黄金時代の名をほしいままにしている1980~1990年代の国産車。 筆者が物心ついたころには、ニューモデルよりクラシック、今やネオクラシックと呼ばれるような存在に。 しかし現行モデルは興味が持てず。 そんな経緯もあり、高年式のクルマを買うことはないと思っていたのですが……。 1973年型セリカLBも「経年劣化との戦い」に敗北を認め、普段使い用の高年式の軽自動車を考え、いろいろ縁あってRC1型スバルR2がやってきたのが4月某日でした。 最近は疎遠になってしまった知人に、初期型S13型シルビアに長年乗っていた人がいます。 風の便りでその知人もまたシルビアは保存に回し、今は某コンパクトハイブリッド車を普段使いにしていると聞きます。 もしかしたら、今後は1980~1990年代のクルマのほうが「経年劣化との戦い」が激化するかもしれません。 ■勝負は3日間 急遽、筆者の所にやってきたR2。 「お金はかけず手間をかける」で、臨番運行、名義変更、登録車検、保管届はすべて自分ですることにしました。 最大の難関は車検です。 半年前まで動いていたし、改造車でもキャブ仕様のクルマでもないので、灯火器類とワイパーさえ見ておけばいいだろうと、一か八かこのまま車検を通してみることに……。 1日目 まず購入したスバル360専門店で自賠責保険に加入。 その足で区役所へ臨番運行の申請に行き、いわゆる「仮ナンバー」を申請し、筆者の住民票を発行してもらいます。 この時点で翌々日の1ラウンド目に車検の予約を取ります。 2日目 前日申請した臨時運行許可証と臨番を持ってクルマ屋さんへ。 クルマを取りに行くのでクルマに乗っていくわけにいかず、久しぶりに公共交通機関を利用することに。 名古屋市交通局の市バスとガイドウェイバスのゆとりーとラインを乗り継いで、守山の某スバル360専門店に向かいます。 ナンバープレートはすでに返納されていたので、そのまま仮ナンバーを取り付けます。 念のため灯火器類とワイパーと警笛の動作確認、ただ「HIDが光量不足という事態もありうるので気を付けて」と一抹の不安も……。 一旦、運行届の経由地にも書いたいつものガレージに移動します。 ウォッシャー液とクーラントとブレーキフルードの残量を確認し、油脂類の漏れがないことを確認。 ここで、ワイパーゴムが硬化して切れかかっていることが判明したのです。 すぐに近くのホームセンターで新品のワイパーゴムを調達するも、ブレードが純正と違っていたようで、現物で形状と長さを確認する必要がありました。 実は一番てこずったのは、ワイパーゴムの選定だったかもしれません。 あとは下回りをしっかり洗車し、ガソリンを満タンにして翌日の車検に備えます。 3日目 継続車検なら、最寄りの小牧の軽自動車検査協会で済みます。 しかし今回は名義変更と中古新規登録があるため、名古屋市港区の軽自動車検査協会に行く必要がありました。 1ラウンドで予約を入れているのと、エンジンやエキゾースト周りのカーボンが少しでも飛ばせればと、名古屋高速を使って名古屋市港区まで走行します。 軽自動車なので住民票だけで名義変更は可能です。 重量税を納付し、ラインに並びます。 この日のうちに通検できなければ諦めて、どこかの業者に整備と車検に出すという「安物買いの銭失い」コースも覚悟していました。 幸い、特に問題なく車検に合格。 晴れて新しいナンバープレートが交付されます。 そのまま、その足で最寄りの警察署に寄り、保管届を申請します。 登録車の場合、名義変更では実印と印鑑証明が必要で、車庫証明の認可が出てから登録となるため、乗れるようになるまで一週間ほどかかります。 しかし軽自動車は取得して「登録した後ただちに」保管届の申請なので、あらかじめ置き場所が決まっていればその日のうちに乗れるようになります。 この手軽さも近年の軽自動車人気のひとつかもしれません。 ■掘り出し物?それとも安物買いの銭失い? 正直、安く買えて軽トラック以外のMT車の軽であれば、グレードも装備も問わないつもりでした。 しかし、筆者が購入したR2は、純正エアロにアルミホイール、キーレスにBluetooth対応の地デジ付きナビ装備です。 エンジンはNAのEN07型ですが、可変バルブのDOHCエンジン、ヘッドライトもまさかのHID仕様。 自分の名義になってから「実は身の丈に合わない物を買ったんじゃないか?」と面喰う始末です。 探していたときは、普段乗りなのだし、エアロ組んだりダウンサスを入れたり「いらんことをしないように気を付けないと」と冗談半分で考えていました。 しかし、いざ蓋を開けてみれると「いらんことをする気が失せるほどの豪華装備仕様(?)」だったのです。 まずは、町工場の多い地区で放置されガサガサになったボディに、最低限の手を入れます。 鉄粉取りの粘土クリーナーで鉄粉を除去し、ポリッシャーをかけてシュアラスターのワックスで仕上げて、鮮やかなプリズムブルーが復活。 実は青いクルマというのは磨くと映えるものなのです。 友人たちと、これで5万円くらいは査定がアップしたんじゃない?と冗談を飛ばせるくらいには仕上がったと思います。 オイルはサービスで交換してもらえたのですが、ファンベルトとエアクリーナーエレメントは後日、某中古カー用品店のジャンクコーナーで適合品の新品(合計で税込み660円!)を見つけて交換しました。 とはいっても自分のクルマになったのに何もしないのも寂しいので、長年使わずに持ってた水中花シフトノブを装着。 さらに、国産車特有の味気ない平板シングルホーンからエアホーンに変更しました。 ■結局あちこち手をいれたくなってしまうのは宿命か? しかし、好事魔多し、そうそう都合よくコトが進むわけでもないのが世の常です。 この際だからスパークプラグも新品にしようと品番を調べると、BKR5E-11が出てきたのですが、よく見ると「SOHC」のみの文字が・・・ 筆者のR2は機械式スーパーチャージャーモデルではないものの、可変バルブのDOHCヘッド、まさかと思い、さらに詳細な適合を調べると……。 NAのDOHCと機械式スーパーチャージャー付きで、それぞれ違うプラグが設定されていることが判明。 NAはLKR7AI、スーパーチャージャーはKR8BIというイリジウムプラグ専用の品番。 スーパーチャージャーならまだしも、シングルカム、ツインカムですらプラグを使い分けているあたりが、旧富士重工らしいといいますか……。 4気筒なので4本分のイリジウムプラグが必要となり、軽自動車としては地味にコストがかかります。 サスペンションアッパーマウントひとつにしても、かなりがっしりした物を使っているため、これでは高コスト体質になってしまいます。 他メーカーと価格面と利益率で不利になってしまい、軽自動車の自社製造からの撤退もやむなしだったのだろうな……と改めて感じました。 最近の気温上昇にともないエアコンの効きが悪いと感じるようになり、某カー用品店でエアコンガスを調べて貰ったところ「漏れもなくガスも正常ではあるが、圧縮が落ちている」という診断結果が。 ガスクリーニングやコンプレッサーオイルの交換で改善できるものではなく、コンプレッサー本体を修理するしかないという結論になりました。 都合のいい話というのはそうそうないもので、あとは海外製の低価格品でもいいのでタイヤを新品。 できればアブソーバーも新品(あわよくばガレージでDIY交換も考えていたり)にしたら、あとは最低限の油脂類と消耗品交換だけと思っていたのですが……。 覚悟はしていましたが、グレードの高い人気モデルを格安で買った以上、やはり相応のリスクは避けられないのが世の常とでもいうべきでしょう。 幸い、エアコンは効きが弱いと感じるものの、まったく冷えないわけでもないので、今年はこのまま乗り切って、来年の課題に回そうと思います。 普段乗りの普通のクルマを買ったつもりでいたのですが、人とは違うクルマを好きになる者の宿命からは逃れることができないようです。 [ライター・撮影 / 鈴木修一郎]
■手に入れて7年、故障知らずのソアラ クルマは目的地までいかに快適に、楽しく走れるか。 その時間や経験にも価値があると思う。 まず、駐車場で眺め、ドアノブに手をかけ、室内の香りを愉しむ。 エンジンを掛ける前の所作だけでも大変味わい深い。 それは未就学児だったころから今まで変わらず、自分のクルマ、他人のクルマ問わず、タクシーやバスだって大なり小なり気持ちが入り込んでしまうのが筆者だ。 そんななかでも幼い時分から妄想に妄想を膨らませて、枕の下にカタログを敷いてまで乗りたいと願ったクルマがある。 全長は5メーターに迫りながらも4座しかない。 長いノーズに収まるのはストレート・シックス。 嗚呼、なんて「必要な無駄」なんだろう。 そんなことを思いながら乗るのが愛車の3代目、トヨタ・ソアラ 3.0GT Gパッケージ(JZZ31)だ。 2015年の年末に購入してから所有して現在7年目となる。 購入時は7万6000キロで現在は13万キロを越えた。 購入してから数年は週末限定のクルマだったが、それでも毎年2万キロに満たないくらいはコンスタントに走り続けていた。 車体は1999年モデル、購入時で既に16年落ち。 せっかくの旧車王の記事なので、故障などにおける苦労話やハウツーを書き記したいものだが、大小問わずトラブルはゼロ。 運がいい個体だったとしか言いようがないが、クーペとはいえさすがのトヨタといえるのかもしれない。 本当にひとついうなれば、リアのトランクダンパーが抜けかけていて、冬に一度ギロチンされかけたことがある。 これらは海外からまだ部品が出るので、買えるうちに入手すべきであろう。 西は九州、北は東北まで自走で行き、仕事の関係で片道150kmを毎週走っていたこともあった。 バルクヘッドが存在する普通のクーペながら、布団を敷き、後部座席で車中泊をしてロングツーリングに出たこともある。 もちろん海老ぞりになって眠ることになるのでお勧めはできない。 ■大きくても意外と乗りやすいクーペ 満タン法で計測するならば、高速道路燃費はリッター11キロ代。 モデルライフのなかでも中期から追加された3.0Lモデルは、1.8トンを超える車体でありながら案外経済的なものだと感じた(同じようなコストで8人乗れるミニバンがあることには目を瞑りながら...)。 ソアラの車体を見てよく「車幅の感覚を掴むのが難しくないですか?」といわれることも少なくないが、慣れの部分を除いてもかなりわかりやすいクルマだったと感じている。 例えばトヨタの古いクラウンやセンチュリーもそうだが、窓やピラーの立ち方、運転座席の位置やノーズの見え方が、非常に良くリンクして考えられていると感じる。 数年前、レクサスのGS350を所有していた際、ソアラと同じ感覚で車庫入れをおこなったら、まったく自分の見当違いのサイズ感で車体を擦りそうになってしまったことがある。 似たような全長、FR、ブランドでも、設計の思想が異なるとここまで違うのかと自分の過信っぷりを反省した。 3代目ソアラといえば、ターボのモデルが大変な人気ではあるし、4.0Lモデルの豊かなトルクも大変な魅力だ。 ただ、筆者は日本の道を走るクーペであることを考えれば、3.0Lは分相応なパワーを備えていると感じる。 また、3リッターのモデルには壊れやすい装備があまり奢られていないことも、現代に乗るには良い要因だろう。 内装はファブリックのシートと本木目、アイボリーとブラウンの空間。 ラウンディッシュに乗員を取り巻く空間の思考そのものが、いかにもバブル前後の開発だ。 80年代後半に作られたであろうベースのコンセプトは、現代でも通用するものである気がする。 嫌味なくシンメトリーにつくられたセンターコンソール、ささやかなカップホルダー、横方向にベクトルを流した木目の加飾と同居するエアコンレジスター。 91年の登場時からマイナーチェンジの際にも、基本的に大きな変更はほとんどない車内。 インテリアにはメッキの部品も塗装された箇所もないが、リッチな車内を演出していると思う。 国産車のマニアが乗り込むと「あぁ~トヨタ車の香り!」と漏らす車内の独特な匂いを含め、メーカーが思い描いた”演出”ではない部分まで、筆者の記憶に刻まれている。 ■ソアラを取り巻く環境を振り返る 何度かオーナーズクラブのミーティングに参加させていただいたこともあったが、10代のオーナーさんをはじめ、新車から乗り続けている60代の方まで幅広いユーザー像であると見受けられた。 平成に生産された他のFR車であれば、ドリ車にしたりカスタムしている個体の参加数もかなり多いかと思うが、ノーマルで参加されている方もそれなりに多く、ソアラという個体のキャラクターが好まれているのだなあ、と感じられることも少なくなかった。 ここ数年の筆者は、サブ車や別の趣味のクルマを持ち、ソアラにはあまり乗らない状態が続いている。 おまけにイベントが激減した数年前から集まりに行くことも少なくなり、自分自身のカーライフへの接し方も随分変わったなあ、と感じる今日この頃だ。 記事の執筆のためにオーナー様への愛車取材をしていると、「生涯乗ります!」と教えてくれる方も多い。 そんな力強い言葉をうかがうたび、自分はどうだろうかと自問自答している。 「ソアラとの関係も、そろそろ見つめ直す時期がやってきているかもしれない」 そんなことを思いながら運転席のドアを開けると、やっぱり愛おしさがこみあげてきてしまうものだ。 “眺めてるだけで良い”、と“まだ沢山誰かに乗ってほしい”の気持ちの間で、もう少しの間揺れ動くことになるだろう。 こういった悩ましさも含め、古いクルマと付き合っていくことなのかもしれない。 [ライター・画像 / TUNA]
旧車、クラシックカーの維持といえば、部品供給や整備の問題と並んで所有の障壁となるのが保管場所ではないでしょうか。 生憎、日本は気候変動が極端で湿度が高いため、クラシックカーに限らず美術品や楽器類などを保管するには不向きな環境だといわれています。 耐候性も考慮されている自動車はまだいいほうで、フライトごとに整備が必要になる航空機になると、日本の環境では博物館でも動態保存はほぼ不可能ではないかと感じます。 慈悲のない経年劣化を少しでも食い止める方法について書いてみたいと思います。 ■王道はシャッター付き屋内ガレージ これができれば苦労しないといわれそうですが、やはり愛車の保管方法の王道といえばこれでしょう。 直射日光や風雨から愛車を守る方法としてこれに勝るものはないと思います。 保管はもちろん、メンテナンスやDIYレストアも夢ではありません。 但し、建屋のガレージを用意するにあたって気をつけなければいけないのが、どこまでもついて回るの湿気の問題です。 外気や雨をシャットダウンしたいがために、あまりに密閉性の高い構造にしてしまうと、もっとも避けたかったはずの湿度が上がってしまいます。 結露も発生しやすくなり、結局錆の原因になったり、本革内装にカビが発生するという事態に陥ります。 高温で蒸れた密室内は不快で中にいて我慢できるものではないというのは、人もクルマも同じことです。 換気口の設置等必ず換気を意識した構造にするのが鉄則です。 市場価格が億単位のスーパーカーやヴィンテージカーとなると、エアコン付きのガレージを用意するというのはそれなりの理由があるわけです。 エアコンとまではいかなくても、換気扇の設置でもかなり有効かと思われます。 キャブ調整や暖気でエンジンをアイドリングさせる際の酸欠事故を防ぐ効果も期待できます。 筆者の借りているガレージは鉄骨に波板を貼っただけの簡素なものですが、湿度や換気のことを考えるとこのくらいがちょうどいいのかもしれません。 ちなみに、屋内ガレージの類で侮れないのが、農村部の古民家に残っている、昔ながらの土蔵や納屋、家畜小屋等です。 昔の人の知恵とは素晴らしいもので、茅葺屋根の木造の土壁の建屋というのは温度変化が小さく、湿度も一定に保たれ、古い自動車を長期保管するには適した環境と推察します。 最近はなかなかそういう話も少なくなりましたが、昔はよく納屋や土蔵を整理していたらオドメーターが5000kmも進んでいないような1960~1970年代の国産旧車が新車当時に近い状態のまま見つかったという話をよく聞いたものです。 そういうクルマの中には他に所有しているトラックやトラクターと一緒にまとめて税金を払っていたことで、長年車検切れの状態でも登録抹消されず、納車時のパンフレットや保護ビニールが残ったまま1桁ナンバーまで引き継げたというケースも少なくありませんでした。 ガレージ内で保管するにしても、動かす頻度が週末だけとか月に数回だけというのであれば、ガレージ内で簡易的なものでもいいので埃除けにカバーをかけておくのもいいでしょう。 あるいは、外壁塗装時に近くに駐車しているクルマを塗装ミストから守る養生カバー(500~1000円くらい)でも十分です。 これであとはコンプレッサーでもあればエアダスターで埃を飛ばして、スプレー式の水なし洗車クリーナーで拭いておけば水洗いの必要もなくなります。 ■侮れないカーカバー カーカバーを使うとボディに傷がつく、湿気や汚れがたまって意味がない、という意見も耳にします。 しかし、結論からいえば直射日光による紫外線や風雨、土埃等の直撃を防ぐ効果は確実にあります。 何もしないで露天駐車するよりは間違いなくボディへのダメージは防止できます。 ただし、必ず最低限、防水生地、あるいは撥水加工されて生地で透湿を確保。 さらに裏起毛でボディ接触面がソフトなものを選び、脱着は天気のいい日に限り、定期的なメンテナンスを怠らないというのが前提です。 ▲筆者が初めて使った防水、裏地付きカバー。フェンダーミラー仕様は注文品(現在は廃版) 安価なカーカバーは安物買いの銭失い、高価なものほど良いというのが顕著に出る製品です。 前述の屋内ガレージ保管の埃除け用であれば、裏起毛なしのカバーでもいいと思います。 しかし、屋外で使うにはボディにこすれてしまいますし、透湿性のないカバーでは湿気がこもり錆の原因にもなります。 サイズにもよりますが、価格帯としてはある程度有名なメーカーの汎用品で20,000円前後から、車種ごとに専用サイズが用意されているオーダーメイド品では5万円~10万円を越えるものもあります。 毎日、日常的に使うクルマでは難しいですが、いわゆる旧車に位置づけられるクルマで、普段の実用目的ではなく、乗るのは週末程度、月に数回というのであればカバーはかなり有効です。 カバーを使用するときは必ず、ボディを一旦綺麗に洗いワックスをかけておきます。 あとはボディ側の面に接する裏起毛側に汚れを付着させないように注意しながらカバーをかけます。 何か月もかけっぱなしにするのではなく、晴れた日は週に1度カバーを外して虫干しし、スプレーワックスやボディクリーナーで埃を取るだけでOK。 これで何か月も水洗いしなくても済むようになります。 ▲カバーをかけて2週間、内3~4日ほど雨でもこの通り どうしても雨の日に乗らなければならない、あるいはカバーを外して乗っているうちに雨に降られてしまったときは、天気が回復してから、雨水を拭きとってカバーをかぶせてください。 ただしカバーには寿命があり、長い人では4~5年は使えたというケースもあるようですが、概ね2~3年、条件や気候によっては数か月~1年で要交換となるケースもあります。 事実、日当たりや、購入時の気候変動等で大きく変化するようで、同時期に複数購入して同じ敷地内で使っていても顕著に差が出るそうです。 最近は裏起毛付きの撥水、透湿機能付きのカバーで1万円以下で購入できるものもあり、一度試したことがりますが、ものの一か月で破れて使い物になりませんでした。 汎用性が高く価格も手頃で耐久性もある手堅い製品としては、まずは2万円前後で購入できるCOVERITE製がお勧めです。 専用品が欲しいという方は、オーダーメイドで車種別、ラインナップにない車種や社外品エアロ付きなどは持ち込みで採寸に応じてくれるメーカーもあるので、そちらを検討してみるのもいいかもしれません。 ▲現在筆者が愛用しているCOVERITE製カバー。このロゴのカバーを一度は見たことがある人も多いのでは。まずは汎用品からという人にはお勧め ■究極の保管方法「日常使用」 あるクラシックカー専門店の社長に「ロールスロイスやメルセデスの一番いい保管方法はどうすればいいのですか?」と尋ねたら「毎日、普通に乗ってください」と回答でした。 実際に技術工学的にも、機械は常時適度な負荷をかけ続けて運転すると一番長持ちするともいわれています。 本革内装は人が乗り降りしているほうがカビが生えにくくなります。 常に油脂類が循環し、機械部分が駆動していれば、偏摩耗も配管の詰りも発生せず、樹脂部品やゴム部品も柔軟性を保持することができます。 走行していれば、エンジンの熱や走行風で水気も飛び、錆の原因となる湿気を取り除くことができます。 何十年も日常使用している旧車、クラシックカーの中には年相応にヤレが進んでいるのに対して、致命的な錆や腐食には至っていないというのはよくある話です。 ある程度シンプルかつ堅牢で手堅い設計をしている車種で、なおかつ部品供給が安定している車種も存在します。 多少の不便や手間は覚悟のうえで、日常使用してしまうというのもひとつの方法です。 最後に、旧車の保管で小技をひとつ紹介します。保管場所に関係なく使える湿気対策で「除湿剤を車内に置く」という方法があります。 昔、試しにスバル360の車内に100円ショップで買った押し入れ用の除湿剤を車内においてカバーをかけて保管したところ、体感できるほど蒸れがなくなり、窓ガラスの曇りの発生も抑えられて驚いたことがあります。 但し置き型の場合、中身は塩化カルシウムのため、中身が漏れると最悪の事態になります。 取扱いには細心の注意を払う、あるいは定期的に天日干し等がいる吸湿剤を使うのもいいかもしれません。 苛酷な試練も承知で手に入れた旧車、少しでも良好で、長く現存させるための保存環境を用意するヒントになれば幸いです。 [画像/AdobeStock・ライター・撮影/鈴木修一郎]
■寒い日のエンジントラブル。原因はプラグかぶり 少し前、冷え込んだ日のこと。 所用で早朝に出かけるべく、愛車S15のエンジンをかけようしたところ、「キュ、ガッガッガッ!」と、セルは回るものの始動しない。 大丈夫です、こういったアクシデントにはもう慣れました。 いや、慣れちゃダメだろ! 何度か始動を試みるも、症状は改善せず。 くすぶっている感じはあるので、ガソリンはエンジンまで届いている……あっ、プラグかぶりか。 あまりに久しぶりだったので忘れていましたが、これはプラグかぶりの典型的な症状。 クラッチとアクセルをベタ踏みし、一呼吸。 キーをひねって、そのまま戻さない! キュ、ガッガッガッ、ボッ! ガガッ、ボッ、ボッ。 かかれ! かかれ! キーを戻すな! ごめんよバッテリー、もってくれ! ボッ、ボボッ、ボッ、ボッ……。 かかれぇっ! ボボボッ、ドゥン! かかったぁ! アイドリングに元気はありませんが、かかってしまえばこっちのもの。 5分ほど様子をみましたが問題はなさそうなので、出発することができました。 ■プラグかぶりの対処は、強引にエンジンをかけること 今のクルマは電子制御がよくできているので、プラグかぶりを経験したことがない人も多いと思います。 プラグかぶりのプラグは、おなじみスパークプラグのこと。 プラグかぶりは、なんらかの理由でシリンダーに送られたガソリンが燃焼せず、スパークプラグの電極を濡らしてしまった状況のこと。 プラグかぶりを起こした電極(スパークプラグ)は思うように火花をちらせず、結果、エンジンはひどくかかりづらくなります。 一番、手っ取り早い対処法は先ほど私がやったように、アクセルを踏み込んだままセルを回し続けてシリンダーに空気を送り、火花がちりやすい環境を作って強引に始動させること。 エンジンがかかってしまえば電極も乾燥し、調子も戻ります。 それでも始動しないならプラグかぶりではなく、オイルかぶりやスパークプラグ自体に問題が出ているかもしれません。 スパークプラグはそう高価なものでもないので、交換しちゃうのも手です。 「一度、プラグかぶりをおこしたスパークプラグは、もう元には戻らない」という話もあります。 厳密にはそう(スパークプラグの性能が落ちる)なのかもしれませんが、四輪で街乗りが中心の場合は、そこまで気にしなくてもいいと思います。 エンジンが冷え切る寒い日は、いくぶんかプラグかぶりがおこりやすくなります。 これから旧車に乗られるならば、対処法を覚えておいても損はありません。 ■四輪ならば、スパークプラグの熱価は適正が最良 旧車を購入したらリフレッシュとして、スパークプラグは交換すべきパーツのひとつ。 ただ、どれでもいいから交換すればいいものではありません。 スパークプラグは燃焼によって受けた熱を処理する度合を示した「熱価」があります。 熱価の数値が高いほど耐熱性が高く、低いほど火花をちらしやすい特性を持っています。 適正の熱価は車種やグレードによって異なり、デンソーやNGKといった、スパークプラグを扱うメーカーの公式サイトで調べることができます。 「高回転で走行することが多いから」と、適正よりも高い熱価のスパークプラグに交換する方もいらっしゃいます。 実際、スパークプラグメーカーも、乗り方にあわせた熱価を推奨しています。個人的には、それは1万回転以上で長く走行し続ける二輪を想定しての話で、四輪ならば適正な熱価のスパークプラグが、もっともエンジンの性能を引き出すと考えています。 そんな考えに至ったのは、過去の経験から。 ■耐久レースで学んだ、普及品の性能の高さ! もう20年以上、過去の話になりますが、原付で耐久レースに出ていたことがあるんですよ。その耐久レースはレギュレーションにより「エンジンはノーマル状態であること」が義務付けられていました。 初参加の際はスパークプラグにレーシングプラグを奢り、「半日以上、高回転で走行するのだから」と、熱価も高いものを選択。 ところが実際にレースが始まると、練習走行のときよりもパワーが出ず、タイムも遅い。 排気音も元気がない。 当初は「原因はセッティングのミス」と推測し、どうすれば調子が戻るのかと、チーム全員で頭を抱えました。 あれこれと手直しするも、調子は戻らない。 「この際、全部を練習走行時に戻そう」と、スパークプラグもかぶっていたわけではないのですが、純正で使用される製品に戻します。 すると、とたんに排気音が勇ましく響きだしたじゃないですか! 実際にパワーやタイムも戻り、調子の良いまま完走することができました。 交換したスパークプラグに問題はなし。 電極に焼けすぎの兆候もありません。 耐久レースなので回転数は6000回転前後をキープ。 この回転数は、日頃から「高回転で走行する」という四輪と同程度じゃないでしょうか。 スパークプラグは普及品でも十分に性能は高く、色々と余裕のある四輪ならば、適正の熱価こそが一番、性能を引き出してくれると学んだ経験でした。 話はプラグかぶりに戻りますが、元気で適正な熱価のスパークプラグはプラグかぶりを予防し、対処の際もエンジンが始動しやすくなります。 リフレッシュの際はもちろんですが、「エンジンの調子が悪いな」と感じたら、交換してはいかがでしょう。 [画像/Adobe Stock、ライター・撮影/糸井賢一]
紆余曲折を経て、ガレージを借りることとなり、電気が開通して早1年が経ちました。 ガレージ通いも、いまやすっかり日々のルーティーンです。 最近はカブオーナー(世にいう「カブ主」)で、ウーバー専業配達員の友人も同じ敷地内でガレージを借り、仕事道具のカブのメンテナンスピットとして使っています。 ときには壁にかけてあるソケットレンチや、電気をシェアすることもあります。 ■まさしく「限界ガレージライフ」? ガレージライフといえば、例えばGQやPOPEYE、BRUTUSあたりのライフスタイル雑誌に出てくるような、古い英国車と骨董品や雑貨のインテリアのファッションセンスに満ちたガレージを思い浮かべる方がいるかもしれません。 あるいはオールドタイマーやガレージ系YouTubeに出てくるような、二柱リフトもあって、加工機や特殊工具がちょっとした町工場並みの設備を揃えた「DIYメカニックガチ勢」を期待するかもしれません。 残念ながら、筆者にそんな甲斐性はなく、物置小屋に工具や設備を無理やり詰め込んだ雰囲気のガレージです。 サイズ的にも、スバル360だからかろうじて作業スペースとしてどうにか……という状況です。 ゆえに、同じ旧車王ヒストリア執筆陣のクマダ氏の記事を見ていると、これでガレージライフを名乗るのも正直穴があったら入りたいとさえ思えてくる有様です(苦笑)。 本来はあくまで、屋根付きシャッター付の月極駐車場。 ガレージや車庫というと、車両の保管場所以外に車両のメンテナンススペースという意味合いも出てくると個人的には思っています。 しかし、筆者が借りているガレージは昔の2Lのクラウンクラスを基準に最低限保管できる間取りのようです。 2ドアクーペのようなドアの大きい車両では、片方に寄せないとドアを開けるのにも苦労します。 おそらく現在のフルサイズSUVではかなり乗り降りが大変だろう、というのも予想がつきます。 賃料が比較的安価で、ほとんどの利用者がレンタルコンテナとして使っているのも、自動車の保管場所(特に本来室内保管が必須の高級車)には小さいという事情があると思われます。 ■昔の小型車の趣味車やオートバイとなると 車庫としては小ぶりですが、筆者のような昔の360cc規格の軽自動車をレストアしたいとなると事情は変わります。 エンジンの不調で一時的にセリカLBを保管したときは、ボンネットを開けて圧縮を計ったり、ラジエターホースを外したりするにも狭くて大変でした。 しかし、スバル360程度なら工具棚や機材を車庫内に設置して、外した部品を周りに置いてもどうにか作業スペースを確保できます。 現在は足回りもすべて外して、モノコックのみの状態ですが、単管パイプと自在キャスターを組み合わせた台車の上に載せてあります。 手で押すだけで前後左右に動かせるので、タイヤが装着されている状態より、狭い場所の移動は楽かもしれません。 ちなみに、この単管パイプは自宅に簡易ガレージを作ろうとしたときのもので、どうにかここで役に立ってくれました。 ■収納は自作の棚 いくらスバル360が小さいといっても、工具類や部品、スプレー等の置き場所は限りがあります。 内見したときに即思いついたのが、波板の壁の梁を利用して棚を作ることでした。 不動産屋さんに聞くと、壁や柱への多少の穴あけはOKとのこと。 よく見ると古い鉄板ビスがそのままになっていたり、床にアンカーを打ち込んであったりします。 退去時に自費で撤去さえすればいいとのことで、寛容な大家さんには本当に感謝です。 ちなみに、壁にかかっている流木らしき物体は、なぜかこのガレージの屋根の上に載っていた状態で、これは電気工事の際に見つけたものです。 エアガンは職場の引っ越しの際に出てきた、社長が昔遊んでいたというつづみ玉型のボルトアクションの空気銃、今ではガレージのオブジェになっています。 ■極力、もらいものや廃品を再利用 棚は新品の木材を使いましたが、配電盤は廃業したパチンコ店から出た中古、照明器具は職場の移転で出た廃棄品の再利用です。 中の工具や機材は20年間かかって集めたものです。 ボール盤は元土木関係のお隣さんからもらったもの、コンプレッサーは昔の職場の自転車屋でエア漏れを起こしたコンプレッサーを譲り受け、自力でエア漏れを直したものです。 一方で、溶接機はネットで買った格安のノンガス半自動溶接機。 仕上がりはそれなりですが、DIYで腐食部分の切り継ぎをする分にはどうにか使えるという感じです。 ■自分のガレージでDIYで弄ればリーズナブルになんて思われがち 専門業者に出せば最低でも数百万円といわれているレストア費用も、確かに自分でやれば部品代、油脂類代、塗料代だけで済みます。 全部自分でやれば数十万円でフルレストアできるのでは?と思ってしまいますが、なかなかそうはいきません。 筆者もここまで工具類を揃えるのに20年以上かかりました。 整備マニュアルと首っ引きでエンジンやサスペンションを自力で脱着して分解、組立ができるようになるまでに10年、そろそろ鈑金も自分でやってみるかと思い始めるまで15年かかりました。 自分でやってみて(仕事でもするようになって)、改めてレストア費用には工賃はもちろん、ノウハウの蓄積や、想定外の損傷に対応するための労力など、相応の意味があるのだなと思い知らされます。 筆者のスバル360は完全に個人の趣味なので、あえて仕事で請けるようなレストア作業なら絶対にやらないような(採算が合わないであろう)やり方とペースでのんびり作業しています。 クルマを実用品として考えている人は、安くクルマを買ってDIYで整備すれば安上りだと考えてはなりません。 やっぱりクルマの値段や整備の工賃には意味があり、それなりの金額を出して買ったクルマを信頼できる整備工場に出すのが費用対効果では安くつきます。 何かしら得るものがあるという意味で苦労は買ってでもしろという言葉があります。 しかし、何も得るものがなくても苦労したことの達成感に価値を見出せる人ではないとガレージライフは向いてないかもしれません。 [ライター・撮影/鈴木修一郎]
うまい・やすい・はやい。 筆者はこの言葉が嫌いではない。 デフレ文化がはびこる日本において、賛否両論があるワードであろうが、人間として生きるべく難易度低めに手に入れることができて、快適に物事を扱うことができるならばそれは人類の英知の賜物であろう。 クルマは人間を補助してくれるパートナーでもあり、めちゃくちゃに甘やかしてくれる存在でもある(やたらスパルタなクルマもいたりするが...)。 雨風を凌いで目的地まで安全に走ることができ、夏の暑い日に大量のペットボトルを買い込んで坂道を文句を言わずに登ってくれる。 旧車王ヒストリアというメディアで執筆するには、いささか趣味性に欠ける観点かもしれないが、日々の暮らしを豊かに彩ってくれる相棒はやはり自分のカーライフにおいて外せないものだ。 ここに「うまい・やすい・はやい」を意識し始めると、どんな感じになるだろうか。 ■これでいい...ではなく、これがいい! この9年で16台のクルマを購入し、そのすべてに愛情を注いできたつもりだ。 そのなかでも「これは好きだ!」と明確に思わざるを得ない存在がある。 それが自分にとってはダイハツの軽自動車であり、そのなかでも「タント」というトールワゴンに妙に惹かれてしまっている。 タントは初代モデルが2003年のデビューだ。 以前の記事にも執筆したが、トールタイプの軽ワゴンの風雲児であり優れた積載性や居住性は後続の軽自動車、ならびに日本のファミリーワゴンに大きな影響をもたらしたであろうことはさまざまなクルマの内装レイアウトを見ても明白だ。 室内長は2160mm、室内高は1355mmと、ベビーカーや自転車をそのまま載せられてしまう大きさなのだ。 日本のカントリーサイドへと足を運ぶと、山間部や公共交通機関が手を伸ばせない地域でもタントをはじめとするハイトワゴンの活躍ぶりを頻繁に見かける。 狭い道へと人と荷物をグングンと進むことができ、いわば社会インフラになりかけているといっても過言ではないように思える。 親子に“ぴったんと”という初代のキャッチフレーズが懐かしいが、日本に“ぴったんと”したクルマだ。 常々その存在には惹かれるものがあったのだが、実際に所有するとやはりその使いやすさに舌を巻くことになったのだ。 それまで所有していたアウディA4アバントを手離し、初代タントを購入したのは2022年の6月。 そこから約半年ほど所有して日常や業務で使用しつつ、下道で北海道1.5周と日本海側の東北地方を下道だけで移動したりした。 これまで所有したなかで自身の身体にもっともあったシートはシトロエン・C4のシートであったが、次点で初代タントがノミネートする。 その証拠は、毎日400km超を車中泊しながら3週間移動した実績に起因するものだが、実際に乗ってあまり緊張せず疲れない作りであると感じたのだ。 だから自分にとってタントはまず「実に“うまい”」クルマであるのだ。 まぐれだろうか、と思い他にも同年代で別ブランドの軽自動車を2台購入してみたのだが、残念ながらシートが身体に合わず今回改めて2代目のタント(L375)を購入する運びとなった。 ■うまい・やすい・はやい。三拍子揃った2代目タント 新たに自分のもとにやってきたのが2代目のタント(L375)だ。 見た目こそ初代からのキープコンセプトだが、その進化幅は小さくない。 車台はダイハツのAプラットフォームを採用。 エンジンは低速トルクにKF-VEエンジンを採用したことで初代と比べても出足が良い。 もちろんこの型だけ乗れば“古い軽自動車”の印象は拭えないかもしれないが、初代と比べれば「あれ?マイルドターボでもついたかな?」くらいにはトルクを感じるものだ。 CVTの相性は悪くなく、ストップアンドゴーが多い道での乗り味は喜びが大きい。 街中でリッター当たり15キロ以上は走るので、非常に経済的なこともメリットだ。 足回りは初代のタイヤ4本がどこにあるかを掴みやすい印象から、しなやかに動く足元といった感じに印象がシートの座面とも相まってグッとアップグレードされている。 ステアリングは一時期のコンパクトカーのようにものすごく軽いというわけではなく、不安定な雰囲気は感じさせない。 もちろん背が高い車体なので大きくロールはするが、予測を立てて安全な速度域で走るぶんには問題が無い。 内装に目を向けてみる。大きなセンターメーターが特徴的なタント。 ワイドに拡がるシンメトリーなインパネの造形と、大きなガラスエリアが軽自動車とは思えない解放感を感じさせる。 昔、ホンダのモビリオが登場した際、ユーロトラムをモチーフとしたデザインコンセプトだったが、同じくトラムのように大きくとった視界は当たり前のように景色が沢山見え、ドライブがそれだけでも豊かだと思える。 シフトレバーはインパネシフト。直観的に力を入れられるIパターンなので、夜間の駐車場での操作も非常にスムーズだ。 また、シフトレバーと同様にコンパクトにまとめられたオーディオやエアコンの操作類のお陰で初代タントよりもありとあらゆる隙間に収納スペースが増加。 花粉が舞う時期にお世話になる箱ティッシュや携帯電話のホルダーや充電器、折り畳み傘やマスクなどごっそり隠しておけるので、本来のデザインを邪魔しないことも収納力が高いハイトワゴン車がもつ高い性能の一つだと思っている。 内装のトリムに関していえば、初代の方がトリムの内張りにクロスなども多かったのだが、90°開くことができるファミリーカーのドア...ということを実用目線で考えると拭きとりやすくシンプルなドアトリムにも理由があるように思える(現行のLA650に試乗した際もそう感じた)。 シートアレンジにも一工夫あり、超ロングスライドする助手席シートはハイバッグ部分が前方へと倒れてテーブルスペースに。 キッズがいる家族には重宝する機能であろうが、パック寿司やピザを車内で楽しみたい独身男性にも素晴らしい。 また、フラットになるシートとピラーレスのドアはあまりにも相性がいい。もちろん積載のしやすさもいうことが無いが、ドアを解放しての昼寝は格別だ。 デイキャンプ道具なしでも居心地の良い空間が作れる。 こんな雰囲気をどこかで見たことがある。 きっとそれはかつての東京モーターショーのダイハツブースで味わった感覚に近い。 街中で大量に見るタントも、実はコンセプトカーで描いた未来の姿そのものなんじゃないだろうか。 ここまでエンジン特性と、インテリアの使い方について述べた。 エンジンの特性も、まさに“はやい”になるのだが、使いやすくて動作がスムーズ。 これもまた”はやくてうまい”部分といえるのではないだろうか。 ■このお値段で味わえる至福のカーライフ 購入時、走行距離は79000キロだった。 手元に来たときは内装の汚れが酷く、おそらくコンビニのカップコーヒーを盛大にこぼしたであろう凄惨な汚れがシートにまき散らされていた。 筆者はクルマを購入後、まず洗車をしながらよく観察する。 もちろん買ったばかりの愛車が嬉しい!という気持ちもあるのだが、傷などのダメージやモール類の劣化具合など自分でどのくらい修復が可能かを眺める。 内装に関しても同様だ。 今回は掃除機をかけつつ、カーペットリンサーで座席のクリーニングも施した。 清掃を行っているとスライドドアやシートレールの隙間からは夥しい砂埃が出てきてなんとなく砂利駐車場に停めていたのかな?と想像出できる。 樹脂類はアーマーオールとシリコンルブを使って磨き、ガラスの内拭きは薬局で買える100円の純水でふきあげると奇麗に仕上がるので筆者的に重宝している。 数時間かけて洗車を行うと、買った当初は汚かった車内も、それなりに気持ちよく過ごせる車内となった。 なにより、奇麗になると新車当時とまでは言わないまでも、クルマ本来のデザインやコンセプトが掴みやすくなる気もする。 エクステリアのデザインは直線基調で細部のデザイン以外は水平基調だった初代に比べ、ドア断面などに豊かな立体が追加され始めクルマとしての軽快さが追加されている。 左側のリアのドアは電動スライド、右後ろはヒンジと、変則的な構造である。 個人的には運転席を降りてサッと開けるこの方式は理想的なのだが、子供たちとコミュニケーションをとるママさんドライバーの為には、運転席で開閉リクエストをしてドア開閉の力を要せずに開くことができる電動スライドドアの方が好まれるかもしれない。タントも3代目以降はそういった方式をとっている。 また、外装を眺めてハッキリと異なるのはリアのクオーターウインドウの形状だ。 初代はスクエアな形状で見切りよく作られていたが、2代目は丸くとられて車内から感じる光も柔らかく感じる。 筆者は激安の軽自動車を足にするようになってから都心と郊外をクルマ移動する機会がグンと増えた。 それまで、首都高に乗りボンヤリと防音壁の向こうに延々と続いていくビル群や住宅の屋根を見ながら走っていた。 最近では殆ど首都高に乗らず、少し家を早く出て下道で行き来するようになった。 断捨離だとか、豊かすぎる生活をあえて手離したつもりは無い。自分にとって軽自動車のスピード感で移動することの心地よさがすっかりフィットしてしまったのだ。 それどころか、裏道へとスイスイ入れて荷物も沢山入る。 燃費に関してはA4アバントの倍だ。 ちなみに車体価格は車検が半年ついて12.9万円。 ナンバープレートなどの諸費用やオイル交換を含めても14万円でおつりがくる。 iPhone14proやロードバイクより安いこのクルマを“やすい”と言わずしてなんという。 実は欲しい軽自動車はまだ沢山あり、どんなクルマで何をしてみようという妄想は膨らむばかりだ。 このタントならば車中泊もしてみたいし、カメラ機材を積んで長距離の旅行にも出かけてみたい。 そう考えさせてくれる余裕が生まれたのも、キャパシティ的にも経済的にも懐の広い低年式軽自動車のお陰ではなかろうか。 “趣味車”と一括りにしてもさまざまな切り口があるが、ここで“うまい・はやい・やすい”を軸にしたクルマ選びから大きな喜びを得てみるのはいかがだろうか? そのうち「これでいい...」ではなく「これがいい!」に想いがどんどん膨らんでしまうかもしれない。 [ライター・撮影/TUNA]
読者の皆様は「エンジンマウント」という部品をご存知だろうか? クルマのメンテナンスが好きな方は、なんとなく想像できると思う。 今回、意外と注目されていない部品「エンジンマウント」に注目をしてみたいと思う。 ■エンジンマウントってなに? 「エンジンマウント」とは、エンジンを“車体上に乗せる=マウント”するための部品である。 最近、巷で話題の“マウント”という言葉の意味は、確かに合っている(笑)。 エンジンやミッションは、マウントを介してクルマに固定されている。 部品自体は、ゴムなどのブッシュが内蔵された金属や強化樹脂製のブラケットになる。 取り付け時は、ブラケットが車体側・ブッシュがエンジン側になる。 ブッシュによってエンジンの振動が吸収され、車体側に伝わらない仕組みになっている。 トランスミッションにも同様のマウントが存在し「ミッションマウント」といわれている。 今回「エンジンマウント」と銘打っているが、ミッションマウントも同様と考えていただければと思う。 ■エンジンマウントがダメになったらどうなる? 交換歴がない旧車(20年以上経過)の多くは、すでにくたびれた状態になっている可能性が高いと思われる。 というのも、エンジンマウントは重量物であるエンジンを支えている部品であり、常に重さが加わり続けている状態である。 そのため、走行距離だけでなく、経過年数により劣化して、その免振機能が低下してしまう。 エンジンマウントが劣化したことに気が付くきっかけの多くは「振動」になる。 劣化によりブッシュが硬化してしまい、今まで吸収されていた振動が伝わることになる。 また、長年エンジンやミッションの重さを支えていたことから、ブッシュがつぶれてしまい、位置が下方向に落ちてしまうことがある。 そのため、エンジンやミッションの搭載位置にズレが生じてしまう。 ズレによって、他の部品へ負担がかかることや、スムーズなシフト操作を妨げることにも繋がる。 ■マウント交換は快適性UPに効果テキメン! 筆者の愛車で、劣化に気が付いたきっかけを紹介したいと思う。 1つ目は、AT車でリバースにシフトした際、振動が発生した。 アイドリングや走行をしていても問題となる症状はなかった。 しかし、車庫入れ等でリバースに入れた際、驚くほどの振動が車体を揺らしたのだった。 後退時、エンジンとミッションが普段と逆の方向に捩じれる動きとなる。 劣化したマウントの収まりが悪くなり、振動が発生していた。 交換する際、外した部品の見た目に大きな劣化は見られなかった。 しかし、新旧の部品を並べたところ、古い部品のブッシュ側の固定点位置が下がっていることがわかった。 事実、マウント交換後はエンジン位置が今までよりも高い位置になったのだ! それだけ、マウントは劣化して搭載位置が下がってしまっていたのだった。 2つ目は、MT車でクラッチを繋ぐ際、ジャダーのような振動が発生した。 この振動の原因は、ミッション側のマウントの破断が主な原因であった。 交換時、取り外したマウントは劣化して切れた状態となっていた。 車両は、走行距離10万kmの2001年式 三菱 トッポBJである。 同じく10万km目前の2000年式ダイハツ ミラでも、ミッション側のマウントが破断していた経験がある。 両車ともにMTであり、ミッションマウントへの負荷が大きいのかもしれない。 助手席側のタイヤハウス内、アクセスしやすい場所にあるマウントである。 もし、読者の方で同様の気になる振動がある方は、確認されてみてはいかがだろうか。 ■強化品という選択肢も! エンジンマウントには、強化品も存在している。 封入されたブッシュが標準よりも硬いものと思っていただければ、イメージしやすいと思う。 強化品がラインナップされている目的としては、モータースポーツ用途のためである。 TRDやNISMOといった自動車メーカー系ブランドからもリリースされている。 加減速時、エンジンやミッションは大きく揺れや傾き・捩じれといった動きをする。 街中を普通に走る分には、気にならない程度の動きである。 スポーツ走行をする場合、高負荷がかかり動きも大きくなるが、可能な限り小さくしたい。 強化マウントは、それらを抑える役割を担っており、アクセルレスポンスやシフトフィーリングが向上する。 調べたところ、すでに旧車の域に入っている人気スポーツカーにも設定されている。 車種によっては、純正部品が製造廃止になっていることも、おおいにあり得る。 その場合、強化マウントを流用するといった対応策も選択肢の一つとして可能となる。 強化マウントではあっても、劣化した本来の性能が出せていない標準のマウントと比較して、快適性や操舵性能が良くなることは間違いない。 そしてほんの少し、スポーティになる副産物がついても来るのだ(笑)。 ■まとめ:エンジンマウントは縁の下の力持ち! エンジンマウントは、快適な車内空間を保つ、縁の下の力持ちなのである。 常に支え続けていることで、距離は走っていなくとも劣化してしまう。 気になる振動が出ている場合、マウントの劣化を疑って、早めの交換をオススメしたい。 快適性向上だけでなく、他部品への負担軽減にも繋がり、より長く愛車との時間を過ごせることに繋がるだろう。 [ライター・撮影/お杉]