縦型に配置されたヘッドライトと、中央で存在感を放つフロントグリル。1960年代を中心に販売された縦目のベンツ、通称“タテベン”は、今見てもエレガントさを感じさせるクルマです。
特に人気の高いモデルはW111ですが、“タテベン”は1モデルだけではありません。そこで今回は、1960年代を席巻した縦目のベンツの歴史を振り返ってみます。
1960年代ベンツの象徴だった縦目
現在のベンツも個性的なフロントマスクではありますが、ヘッドライトを縦型に配したデザインはひと目でそれとわかる個性を放っていました。
“タテベン”が生まれた時代背景を振り返ってみましょう。
実用品から嗜好品に変わっていった時代
縦目のベンツが登場したのは、1950年代の終わり。第二次世界大戦を乗り越え、人々の暮らしが向上しつつあった時代の流れに呼応するように生まれました。実用性重視だったそれまでとは異なり、車にデザイン性や高級感をより求めるようになっていきます。
実際、縦目のベンツとして1959年に登場したW111/W112は、特徴的な縦に並んだヘッドライト以外にも、フィンテールと呼ばれるアメリカ車キャデラックに影響を受けた華飾が施されていました。機能性や実用性だけでなく、見た目も車の評価軸に加わり始めていたということです。
後に生まれた“タテベン”“ハネベン”というこの時代のベンツを表す愛称が生まれたことからも、見た目のインパクトが強かった車だったということがわかります。
個性的なのにエレガントさを感じさせる
当時の自動車デザインからすると、縦型のヘッドライトはかなり個性的な部類でした。しかし、縦目ベンツは、今の車にはないゆとりと独特のエレガントさを感じさせます。しかも、メルセデス・ベンツは、同様の意匠を複数のモデルで展開しました。つまり、メルセデス・ベンツの「顔」として、個性的な縦目を定着させようといった意図があったのでしょう。
エレガントさを備えた独特の存在感は、現在のベンツのブランドイメージそのものです。デザインこそ全く異なりますが、今のベンツの方向性と地位を確立したモデルが縦目ベンツといっても過言ではありません。
フィンテール以外にも縦目ベンツは魅力のある車種
縦目のベンツというと、代表的なのは優雅なフィンテールをまとった“ハネベン”と呼ばれるW111/W112です。しかし、“タテベン”には、ほかにも多くの名車があります。
1960年代のメルセデス・ベンツを象徴する縦目モデルをみていきましょう。
縦目ベンツを象徴するW111/W112(1959-1971)
独特のフィンテールと一緒に語られることの多い縦目ベンツといえば、やはりW111/W112です。最初に登場したモデルだけあって、“ハネベン”の愛称で呼ばれるほど多くの人から今も愛されています。しかし、実は“ハネベン”は、W111/W112のセダンのみです。
W111には、250SE、280SE 3.5といったクーペモデルも存在していました。クーペモデルのボディラインは1957年にスケッチが起こされ、その後縦目の最終モデルまで踏襲されます。
また、W111が登場した1959年は、自動差産業が隆盛し大量生産される1960年代の突入直前という時期でした。実際、W111は最後のハンドビルドモデルといわれています。
2シーターモデルの方向性を決定づけたW113
W113は、縦目のクーペ、カブリオレモデルとして1963年に登場しました。性能は高いものの扱いにくい初代300SLと、スポーティさにややかける190SLの中間ともいえるバランスのよさが魅力です。中央部がわずかに凹んだ、パゴダルーフと呼ばれるデザイン性の高さにも多くの注目が集まりました。
W113は、230SL、250SL、280SLと進化を続けながら、その後のメルセデス・ベンツの2シーターモデルの方向性を決定づけました。サルーンよりは高い運動性能を備えつつも、上質なインテリアと運転のしやすさは現代の「SL」にも通じます。
Sクラスの前身になったW108/W109
W108/W109は、W111/W112に変わるフラッグシップモデルとして、1965年に登場しました。最大の変更点は、象徴的だったフィンテールが排除されたことです。縦目のフロントマスクは踏襲しつつも、より現代的なデザインに仕上がりました。
フラッグシップモデルにふさわしい、運動性能と乗り心地もW108の特徴です。見切りが良いボディラインと小回りが利くステアリングによって思いのほか運転しやすく、ボディサイズの大きさを感じさせません。また、リアサスペンションは古典的なスイングアクスルだったものの、驚くほど乗り心地は快適でした。
次世代ベンツへの橋渡し役W114/W115
1968年、最後の縦目ベンツであるW114/W115が登場します。W114/W115は排出ガス規制への対応など、市場の特性に合わせて細かく調整されました。結果的に1976年の販売終了までに、実に180万台も生産されました。
最も進化したポイントは、新開発されたシャシーです。縦目デザインを踏襲しつつも、クラッシャブルゾーンやステアリングコラムを設けるなどより現代的な設計に進化しました。
W113は1,000万円近い評価をされることもある
メルセデス・ベンツの古き良き時代を象徴しつつ、現代のラインナップの源流にもなった縦目ベンツ。通称“タテベン”とも呼ばれ、現在でも多くのファンから愛されている車種です。
一方で、縦目だからといって、全モデルの評価が極端に高いわけではありません。なかにはリーズナブルな価格で取引されているモデルも存在します。
ただし、W111のクーペモデルやW113のオープンモデルなど、“タテベン”の一部の車種では高値がつく場合があります。特にW113は、1,000万円近い価格で買取されることも少なくありません。
縦目のベンツが販売されていたのは1960年代です。60年以上も前の車種だけに、売却する際は旧車の知識が豊富な専門業者への依頼をおすすめします。
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